専門家
コラムVol.9
貸家着工戸数でみる
不動産投資市場
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
住宅着工戸数は国土交通省が集計・公表している国の基幹統計の1つです。住宅着工戸数は、大きく持ち家・貸家・分譲の3つのカテゴリーに分かれています。その中で不動産投資(賃貸用住宅、賃貸用マンション)に直接関係するのは貸家着工戸数です。今回は、貸家着工戸数の推移を見ることで、不動産投資市場のこれからを考えます。
図1のグラフは全国の貸家着工戸数の推移です。2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられましたが、その直前は、駆け込みと言える需要で前年同月比2桁を越える水準で推移していました。また、この後に施行が決まっていた相続税改正により、地主による土地活用で賃貸用住宅の建築が増えたことも大きな要因です。
消費税が8%に上がった直後はその反動で前年同月比マイナスが続きましたが、その後、低金利と不動産投資ブームにより再びプラスに転換し、好調が暫く続きました。
貸家着工戸数は季節要因により変動がありますので、傾向をより分かりやすくするために、2012年1月から各年の過去12カ月の合計値の推移で見ていきましょう。
これを見ると、2017年をピークに落ち込んでいた貸家着工戸数が2021年初旬を底として回復傾向にあることがわかります。そして22年4月末までの数字を見るとコロナ前の水準にまで回復している様子がうかがえます。
興味深いことに図2のグラフは次に示すグラフと非常に似ています。
図3は、日本銀行が国内銀行の貸出状況をまとめたデータで、貸出先が「個人による貸家業」であるものを抽出したものです。
これを見ると、新規貸出額は2016年をピークに減少しているのが分かります。2017年以降減少しているのは、この頃不動産投資における不正融資などがあったため、それまで金融機関で続いていた積極的な融資姿勢が、一部で厳格化してきたことが要因と思われます。
貸家の着工戸数は、建築主から都道府県知事に提出された建築工事の届出がされたタイミングでカウントされており、また、図2のグラフは年間の移動合計でグラフを作成しているため、若干のズレは生じていますが、上記二つのグラフは似た形となっています。
このところ、個人の貸家業に対する新規の貸出が若干上昇しているということもあり、今後の貸家着工戸数も注目されます。
次に、今後の貸家着工戸数を占うのに重要な、金利の動向を見てみましょう。
各種金利の推移
図をみると、2022年に入ってから、とくに長期金利系が上昇しています。
しかし、変動金利にはいまのところ大きな動きは見られません。
しかし、長期金利系金利においても、これまで長く低水準が続いており、いまだに低い水準です。
但し、欧米では金利の上昇が進みつつありますので、いつ日本も金利が急上昇するかどうか分かりません。
わずかな金利の上昇でも、総支払額に影響を与えるので、不動産投資を行っている方にとっては、金利の動向に引き続き注意する必要があります。
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。
立教大学大学院 博士前期課程修了。
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て 現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)、 「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
(レギュラー出演)
ラジオNIKKEI「吉崎誠二のウォームアップ 840」(ニュース解説番組)
「はいさい!沖縄デュアルライフ」 (吉崎誠二×新山千春)
「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」(不動産投資番組)
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
吉崎誠二公式サイト http://yoshizakiseiji.com/