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コラムVol.11

新型コロナウイルスの影響で
賃貸住宅需要に変化は見られたのか?

コラムニスト・吉崎 誠二|プロフィール写真 COLUMNIST PROFILE

吉崎 誠二

不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

賃貸住宅需要は、人口移動(引っ越しを伴う都道府県間移動)の影響を大きく受けることが知られています。人口移動の大半は、進学や就職といった人生の大きな転機の時の移動であり、その時「まず住む家」は主に賃貸住宅ということになるからです。
今回は、人口の出入りが最も多い東京都、そして東京23区のコロナショック前後の人口移動の実態を分析しつつ、賃貸住宅需要について検討します。

全国的に人口移動が最も活発な3月~4月期において、新型コロナウイルスの影響の前後を比較するため、2019年・20年・21年・22年の4年間の東京都における人口移動状況を比較してみました。(注:グラフは、2019年から2022年各年の3月、4月の人口移動の合計値)

2019年から2022年3月・4月の転入者数 (東京都・東京23区)|グラフ
2019年から2022年3月・4月の転入者数 (東京都・東京23区)

図1は、東京都における2019年から21年までの転入者数の推移を示しています。
(左は東京都全体、右は東京23区のみ、下のグラフも同)

新型コロナウィルスの感染が広がり、多くの都道府県に緊急事態宣言が出されたのが2020年4月上旬でした。感染拡大前にすでに進学や就職等が決まっていた方が多かったと思われますので、とりあえず予定通り引っ越し(=移動)を行った人が多かったと思われます。そのため20年におけるマイナス幅は少なく、2020年3月・4月の転入者数(合計値)は2019年比で東京都全体ではマイナス1.6%(16万2,604人)でした。減少はしたものの実数値で16万人を超えていました。

転入者数が大きく減少し、つまり新型コロナウイルスの影響が人口移動に顕著に表れたのは、翌2021年でした。2021年の転入者(3・4月合計、以下同じ)16万人を割り、15万5,035人、2019年比でマイナス6.1%となりました。また、都区部では減少幅がより大きくなりました。これは、コロナ禍でテレワークが浸透し、企業においても転勤を伴う人事異動を見直す動きや大学などでオンライン授業が一般化したためだと思われます。翌22年は多少回復しましたが、まだ19年の水準に戻ってはいません。

2019年から2022年3月・4月の転出者数(東京都・東京23区)|グラフ
2019年から2022年3月・4月の転出者数(東京都・東京23区)

一方、転出者ですが、新型コロナウイルスの社会的影響が最も大きかった2020年3月・4月は東京都からの転出者数が増え、前年比4.6%増の11万7,873、翌年2021年も人口流出の流れは止まらず、前年比6%増の12万4,884人となりました。
影響が出始めて2年目となり、リモートワークも定着し、居住地について考え方を変えた人が多かったのか、WITHコロナ傾向が固まり、転出する動きが加速しました。

しかし、その「出る動き」はそのまま定着せず、2022年は人口流出が縮小し、2020年水準にまで戻りました。新型コロナウイルスの影響前の2019年の水準に戻るまでもう一息です。
次に転入者数から転出者数を差し引いた転入超過数を比較してみましょう。

2019年から2022年3月・4月の転入超過数(東京都・東京23区)|グラフ
2019年から2022年3月・4月の転入超過数(東京都・東京23区)

新型コロナウイルスの影響を受けてはいますが、やはり東京の求心力は強く、
いずれの年も人口移動の多い3月・4月合計では、転入超過となっています。

しかし、実数字をみれば、2019年の水準からは転入超過数は縮小しています。前述の通り、2020年は既に決まっていた移動などもあり、直前に猛威を振るいだした新型コロナウイルスの影響を若干受けましたが、大きく転入者数が減ることはありませんでした。そのため、転入超過数も下落幅は小さかったようです。

ここまでみたように、2021年は、転入者数が大きく減少した上に、転出者数が拡大したため、3月・4月合計の転入超過数は東京都、東京23区共に、外国人をあわせての集計が始まった2014年以降で過去最少となりました。そして、2022年は転出者数が縮小し、転入超過数が若干回復しました。

人口流入の動きが戻りつつあることが分かります。今後はこれまで通り、東京そして首都圏の求心力が回復する、つまり人口流入は増えてくることは間違いないと思われます。そしてそれに伴い、冒頭で述べたように、人口流入が増えれば、賃貸住宅需要はさらに高まっていくものと思われます。

コラムニスト・吉崎 誠二|プロフィール写真 COLUMNIST PROFILE

吉崎 誠二

不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。
立教大学大学院 博士前期課程修了。

㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演を毎年多数行う。

著書:「不動産サイクル理論で読み解く不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。様々な媒体に、月15本の連載を執筆。
資格:宅建士

レギュラー出演
◇ ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から“誠”論」(月~水: 17時~17時50分)
◇ 「吉崎誠二のウォームアップ830」(月: 8時30分~ニュース解説番組)
◇ テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演

吉崎誠二公式サイト http://yoshizakiseiji.com/

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