専門家
コラムVol.13
不動産市況をDI調査から読み解く
~最新第26回不動産市況DI調査分析~
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
不動産売買業、賃貸仲介業などの最前線で住居系不動産を取り扱う方々は、
いまの不動産市況をどうみているのでしょうか?
ここでは、「不動産市況DI調査」から、現状を見てみましょう。
不動産市況DI調査とは
「不動産市況DI調査」は、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)が
3カ月ごとに年4回調査分析を行い、公表しているものです。
その最新「第26回 不動産市況DI調査 2022年7月分」が8月15日に公表されました。
この調査は、調査時点22年7月5~18日、売買仲介、賃貸仲介、賃貸管理、開発・分譲など
不動産関連企業むけのインターネットによるアンケート調査で、
今回の有効回答数は178社でした。
関係者の肌感が反映される不動産市況DI調査
DI(Diffusion Index)は、景気の拡大や市況感を見る際に、分かりやすく指数化したものとして、様々な調査で用いられる手法です。内閣府の景気ウォッチャー調査や日銀短観などのDIはメディアも大きく報じるのでご存知の方も多いと思います。この不動産市況DI調査の算出方法ですが、まず5段階評価(大きく上昇、やや上昇、横ばい、やや下落、大きく下落)でアンケートを行います。そして、次の計算式で指数を算出します。
((大きく上昇×2+やや上昇)-(やや下落+大きく下落×2))÷2÷回答者数×100
ここでは横ばいはゼロで計算。-100~+100になります。
アンケートを行うというシンプルな調査方法ですが、最前線の現場で働く関係者にダイレクトに聞く手法ですので、これは実態が見えやすいとも言え、現状が把握しやすいと言えます。
都最新調査の全体概要
土地価格動向DIにおいては、全体では、実感値で+14.0ポイントとなり、前回調査(22年4月調査、5月結果公表)に比べ+2.0ポイント上昇、6回連続のプラスとなりました。
また、中古マンション価格は+16.3ポイント(同+2.2ポイント)、中古戸建価格は+10.1ポイント(前回調査比+1.1ポイント)、新築戸建て価格は+29.5ポイント(同+2.8ポイント)と、前回調査同様いずれもプラスとなりました。
一方、賃料のDIをみると、居住用賃貸が△4.7ポイント(同△1.2ポイント)、事業用賃貸は△8.7ポイント(同△0.8ポイント)となり、前回調査同様、居住用、事業用ともにマイナスが続いているという結果になりました。
注:この節の数値は、全国の数値です。
土地価格の動向
それでは、もう少し細かく見て参りましょう。
まずは、土地価格について。
全国の土地価格の動向については、DI指数は+14.0ポイントとなり前回調査に比べ+2.0ポイント上昇、6回連続プラスとなりました。20年4月・7月・11月、21年1月の調査ではマイナスでしたが、その後21年4月調査以降は6回連続のプラスとなりました。基準地価(全国・全用途平均)を見ても、21年分はマイナスからプラスになっていました。住宅地地価は新型コロナウイルスまん延の前くらいには戻っているようです。
エリア別に見ると、もっともDI指数が高いのが関東地区でプラス23.1ポイント、次に九州・沖縄地区がプラス17.5ポイントとなっています。
地域別では前回調査(22年4月)に引き続きマイナスの地点はなくなりました。(ちなみに、21年10月、22年1月調査では中部地方のみマイナス)
気になるのは、この先3ヶ月後の予測の結果です。全国平均ではプラス4.8ポイント。現状がプラス14.0ポイントですから、かなりこの先を悲観的に見ていると言えます。とくに、関東では、現況プラス23.1→3ヶ月後の動向プラス5.4と大幅に低い値となっています。また近畿の3ヶ月後はマイナス4.2ポイント、中国・四国地方はマイナス5.6ポイントと悲観的な見方をされている方が多いようです。
この土地価格DIでは、先行きにネガティブな回答をされる方が多いようで、
これはこの手のDI調査の特性とも言えそうです。
エリア別に見ると、もっともDI指数が高いのが関東地区でプラス23.1ポイント、次に九州・沖縄地区がプラス17.5ポイントとなっています。
賃貸住宅賃料の動向
次に「居住用賃貸物件の賃料の動向」を見てみます。全国的に居住用賃貸住宅賃料は横ばいの状況のようです。
全国では、回答の72.5%が「横ばい」、0.6%が「大きく上昇」、8.8%が「やや上昇」、16.9%が「やや下落」、1.3%が「大きく下落」と回答しています。
関東エリアでは、14.3%が「やや上昇」と回答、67.9%が「横ばい」、
16.1%が「やや下落」と回答しています。
また、3ヶ月後の予測ですが、全国では76.7%の回答が「横ばい」、
5.7%が「やや上昇」、15.7%が「やや下落」と回答。
関東エリアでは、9.1%が「やや上昇」と回答、74.5%が「横ばい」、
14.5%が「やや下落」と回答しています。この先も概ね横ばいの見通しのようです。
現場の最前線の方へのアンケート調査の信頼性には是非がありますが、しかし色々なデータを複合的に見ることで、市況をより深く知ることができるものと思います。
ぜひ、参考にしてください。
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。
立教大学大学院 博士前期課程修了。
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演を毎年多数行う。
著書:「不動産サイクル理論で読み解く不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。様々な媒体に、月15本の連載を執筆。
資格:宅建士
レギュラー出演
◇ ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から“誠”論」(月~水: 17時~17時50分)
◇ 「吉崎誠二のウォームアップ830」(月: 8時30分~ニュース解説番組)
◇ テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
吉崎誠二公式サイト http://yoshizakiseiji.com/