専門家
コラムVol.14
地価動向から
投資マンション市場を読み解く
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
地価の動向は、多くのメディアも取り上げることから分かるように、
区分マンションだけでなく不動産全般の市況を知る最もオーソドックスな手法です。
2022年の都道府県地価調査(=基準地価)が9月20日に公表されました。
新型コロナウイルスの経済に与える影響が徐々に収まり始め経済活動が正常化している中で、
不動産の需要が高まりを見せています。(以降のデータは、国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より)
22年基準地価の全国俯瞰
今年の基準地価では、住宅地の全国平均が1991年以来31年ぶりにプラス(+0.1)となったことが、大きな話題となりました。1991年と言えば、バブル期において地価が最も高かった年です。全国的に地価の回復傾向が進んでおり、住宅地は新型コロナウイルスの影響が起こる前の状況に戻ったという状況です。一方、商業地は回復上昇基調にあるものの、上昇幅は新型コロナウイルスの影響前(2019年)に比べるとまだ小さいという状況です。
まずは住宅地地価をみると、圏域別では、東京圏では+1.2%(前年は+0.1%)、大阪圏+0.4%(前年は-0.3%)、名古屋圏+1.6%(前年は+0.3%)となっています。地方では、地方圏全体-0.2%(前年は-0.7%)で、これは過去15年を遡ってもマイナス幅は最小でした。また地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると、+6.6%(前年は+4.2%)となりました。直近5年の3大都府県(東京都・大阪府・愛知県)にフォーカスしてみると、図1のようになります。
商業地地価上昇の背景にマンション用地需要
次に商業地を見てみましょう。住宅地地価は新型コロナウイルスの影響前(2019年分)を超える水準になっていますが、商業地地価もすでに回復し上昇基調にありますが、コロナショック前までにもう一歩という状況でした。
商業地は、駅前周辺地など店舗やオフィスなどに商業活動に主に用いられる地域を指しますが、ご承知のように、店舗が多数ある駅周辺に建つマンションは多く存在します。このようなマンション需要の堅調が続いており、マンション用地の争奪は厳しさを増しているようです。このことは今年の商業地地価上昇の大きな要因となりました。また、再開発事業が、首都圏だけでなく全国の主要都市で盛んに行われています。再開発により、利便性・繁華性向上の期待感から地価上昇が続いているようです。再開発周辺地には多くのマンションが建設され、こうした流れも商業地地価上昇に拍車をかけています
加えて、国内観光需要、ビジネス需要が回復しつつある状況で、さらにインバウンド需要も入国制限の緩和、手続きの簡素化などが行われ、回復の兆しが見えてきていることで、人気ある繁華街などでは上昇に転じた地点も多く見受けられるようになりました。
こうした2つの大きな要因により、昨年調査から上昇幅が拡大した地域が多く見られました。東京圏では+2.0%(前年は+0.1%)、大阪圏は+1.5%(前年は-0.6%)、名古屋圏は+2.3%(前年は+1.0%)となりました。3大都市圏が全てプラスとなるのは3年ぶりでした。また、地方圏全体では-0.1%でプラス圏には届きませんでしたが、昨年は-0.7%でしたので、回復基調にあります。地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると+6.9%となり、3大都市圏よりも大きな上昇率となっています。直近5年の3大都市(東京都・大阪府・愛知県)の商業地地価の変動率をみると、図2のようになります。
東京圏の状況
国土交通省が公表する地価(3月下旬公表の公示地価、今回の基準地価)は、大都市の圏域を示す際は、東京圏、大阪圏、名古屋圏と表記されます。東京圏は概ね、首都圏と置き換えてもいい地域です。
東京圏は上昇地点が2530地点にのぼり、これは72%にあたります。
住宅地では、東京23区は+2.2%(前年は+0.5%)と上昇幅が拡大しました。中央区は+4.0%、新宿区が+3.7%とマンション需要が堅調な地域での伸びが目立ちました。
商業地では、東京23区は+2.2%(前年は-0.3%)と前年のマイナスからプラスになりました。後述しますが、マンション用地需要が旺盛な事もプラスに転じた要因の1つです。
23区での上昇率の上位は杉並区+3.8%、北区+3.7%などで、都心からやや距離のある地域の伸びが目立ちました。とくに北区の駅前などでは、近年マンション需要が旺盛なようです。
地価からみる投資マンション需要
地価の上昇は、不動産需要が高く、不動産の利用状況が高まっているということを意味します。
当然この中には賃貸用住宅、区分マンションも含まれます。これらの需要が高まっているからこそ、地価も上昇するわけです。
近年の住宅地地価の推移をみると、大都市圏だけでなく、地方圏でも多くの地域でプラスとなりました。このことが、31年ぶりに全国平均でプラスになった要因と言えます。
一方で、地方圏の中での2極化が進んでいます。住宅地地価動向から推測すれば、地方都市の比較的中心部や周辺部では住宅需要(賃貸含む)の勢いは加速してきたものの、利便性の低い地域は依然厳しい状況となっているようです。
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。
立教大学大学院 博士前期課程修了。
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演を毎年多数行う。
著書:「不動産サイクル理論で読み解く不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。様々な媒体に、月15本の連載を執筆。
資格:宅建士
レギュラー出演
◇ ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から“誠”論」(月~水: 17時~17時50分)
◇ 「吉崎誠二のウォームアップ830」(月: 8時30分~ニュース解説番組)
◇ テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
吉崎誠二公式サイト http://yoshizakiseiji.com/