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不動産の価値を増加させる方法
〜立退き交渉編〜
- 弁護士による資産価値向上セミナー
不動産の売却時、賃借人の有無は不動産の価値を左右する重要な要素となります。実際の相談事例を参考に立退き交渉の際の戦略的アプローチをご紹介します。
動画もくじ
- 01:22
- 講師紹介
- 01:44
- 不動産の価値を増加させる方法として一般的に考えられるもの
- 03:44
- 実際の相談事例
- 08:10
- 賃借人を立ち退かせるためには
- 21:05
- 立退料の算出方法
- 25:10
- 立退きに必要な正当事由の有無の判断
- 40:43
- 立退き可能性調査の重要性
- 46:17
- よくあるご質問
動画の要約
不動産の価値を増加させる方法とは?
一般的な方法として考えられるもの
・値上がりの期待できる土地を購入し、値上がりするのを待つ方法
土地の価格が上がる保証はなく、逆に値下がりの可能性もある。
上がるのも下がるのも市場次第という他人任せ。
→不確実性の高い方法であり、付加価値を付けるには馴染まない。
・郊外に保有する土地にマンションを建て分譲する方法
宅地建物取引業の免許が必要。
莫大な資金が必要。
開発には時間もかかる。
今後高値での分譲が続いていくのか分からない。
→付加価値を付けるものではあるが、不確実性もありながら、そもそも実現させるハードルが高い。
法律家の立場から考える『不動産の価値を増加させること』とは?
本来その不動産の持つ価値が何らかの事情により
正当に評価されていない状態を解消するということ
<実際の相談事例>
所有している世田谷区の土地に建物を建て賃借人に貸していたが、
資金的に売却したいと考え不動産会社に相談したところ、
更地であれば2億円、賃借人付きであれば1億円でしか売却できない
という説明を受けた。
→賃借人を立ち退かせることができれば、正当に評価されていない状態が解消される。
-
※Q.なぜ、賃借人がいると、売却価格が下がるのか?
A.賃借人がいることで、新たな購入者がその土地を自由に使用することが出来ない可能性があるため。
賃借人との交渉が上手く行かず、裁判をしても賃借人を立ち退かせることが認められないリスクがあるため、その分売却価格が下がっている。
賃借人を立ち退かせるためのハードルは高い
土地や建物の貸し借りについて定められた借地借家法は、極めて賃借人に有利な法律になっている。立退きについては、借地借家法28条に定められており、賃借人が任意に立ち退かない限りは、賃借人を立ち退かせるためには、正当事由が必要となる。
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※借地借家法28条
「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として、又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」
賃借人を立ち退かせるためには?
立退きができないのかを、冷静に、客観的に評価することが重要。
立退き可能性の客観的評価をするために、分析的に調査をする必要がある。
賃借人を立ち退かせる正当事由を裏付ける分析的な調査とは?
立退きに必要な「正当事由」の有無を判断するチェックポイント
1. 賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情
賃借人が建物の使用を必要とする事情を減殺するような事由をぶつけていく
例:当該建物で商売を営んでいるテナントであれば、
その建物以外にも支店を持っていれば、必ずしもそこで営業しなくてもいいという減殺事由を主張する。
正当事由の賃借人のマイナス要因として考慮される
2. 建物の賃貸借に関する従前の経過
3. 建物の利用状況
建物の利用状況という要素が重要
例:容積率で10階まで建てられるという地域で木造平屋であれば、
建物を有効利用していないと判断される。
・建物を有効利用した場合の建て替えプランを作成し、
その図面等を証拠として提出
4. 建物の現況
建物が朽廃(朽ち果てている)しているか?
耐震性があるかどうかという要件
例:昭和56年5月までに建築確認を取っている建物については、
いわゆる旧耐震基準によって築造されており、
新耐震基準で築造された建物に比べ、大規模地震に対する脆弱性が顕著。
裁判所も耐震性がないことは正当事由の極性(プラス)要因として重視
・耐震性がないことについては、通常「耐震診断書」を証拠として提出
※東京23区では、木造建築であれば、診断料を補助するという制度もある。
・耐震性は、Is値という数値で評価され、
同値が0.6を割ると耐震性に問題ありと診断される。
※Is値が0.3以上0.6未満の場合、大規模な地震により倒壊または崩壊する危険性がある
5. 財産上の給付(立退料)という「正当事由」の補完要素
裁判所はそもそも賃借人寄りの考えをする 正当事由有りと認定されるためには、財産上の給付(立退料)が必要
立退料の算出方法
立退料をどのように算出するかについては、借地借家法には明記されていない。
しかし、平成12年東京高裁判決によって、立退料のフォーミュラ(判例)が示されている。
立退料の構成要素
居住系テナント
1転居先の新賃料と現在の賃料との差額の数年分の補償
2引越費用の補償
3未償却資産の補償の合計
商業系テナント
1転居先の新賃料と現在の賃料との差額の数年分の補償
2引越費用の補償
3未償却資産の補償の合計
4転居することによる営業保証
立退きによって不動産の価値を増加させられるかどうか判断する
上記の方法により、立退きに関わる費用としての立退料がある程度具体的に試算できるため、更地での売却価格との乖離分から立退料を差し引くことで、最終的な付加価値増加額が試算できる。
立退きに必要な正当事由の有無の判断
立退きの可能性についての具体的な事例
- ・所在地 東京23区の繁華街
- ・築造は1980年、旧耐震基準
現状RC造5階建てであるが、容積率では10階建てまで可能 - ・耐震性 耐震診断の結果 Is値は0.50
- ・テナント 1階にコンビニ 9年前から普通賃貸借
賃料 月50万円、その他のテナントは退去済み - ・近隣賃料相場 同じ程度の床面積の物件で、月60万円
建物の現況
Is値は0.50であるため、震度6強〜7の大規模地震が発生した場合に、倒壊または崩壊する危険性があるという判定。
→賃貸人にとって正当事由がプラスとなる事情だが、
裁判所がストレートに正当事由有りといってくれるか微妙な数値
建物の利用状況
現行5階建てのビルで、容積率を有効利用すると10階建てビルが建築でき、床面積も2倍になる
→現状では有効利用ができておらず、賃貸人にとってプラスの正当事由となる
賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情
入居しているコンビニが、本部が直営している店舗である場合や、オーナー経営でも複数店舗保有する店舗の一つである場合
→賃借人としてはその場所を立ち退いても、他で経営を継続できると判断され、
賃借人側にマイナスの正当事由となる
財産上の給付(立退料)という「正当事由」の補完要素
本件事例では賃貸人の正当事由が認められる事情があると言えるが、
賃借人保護の法制からすれば、立退料がゼロということにはならない。
立退料の試算例
転居先の新賃料と現在の賃料との差額の数年分の補償
- 現在の賃料 ▶ 月50万円
- 近隣の相場賃料 ▶ 月60万円
- 差額・・・10万円
- 3年分の補償と見た場合
- 10万円 × 36ヶ月 = 360万円
※ 行政による立退きについて定めた土地収用法の3年を目安としている
引越費用の補償
200万円
荷物の搬出搬入に伴う引越業者に支払う費用以外にも、転居に伴う関係先、取引先などへ通知するための費用などの必要経費も含まれる。
未償却資産の補償
賃借期間が9年を経過
コンビニの内装、什器等の償却期間が10年とすると、1年分が未償却
内装等費用が1,000万円と仮定すると、
1,000万円 × 1/10 = 100万円
転居することによる営業保証
コンビニ黒字店の収益性は、年間360万6,000円の利益
※ 実際の収益については相手側から開示されないケースも多いため、TKC(注釈1.)の出している経営指標を参照
3年分の営業補償を全額行う場合
注釈1.会計事務所、税理士事務所や地方公共団体などに対して情報サービスを提供する企業
※ 新たな移転先で営業利益が0にはならないだろうが、フルで補償した場合を想定
360万6,000円 × 3年 = 1,081万8,000円
上記各要素の合計金額 = 1,741万8,000円
この金額どおりの立退料とはならず、正当事由の充足度合いを加味して、最終的な判断が裁判所より下される。
立退き可能性調査の重要性
・そもそも、“裁判所”において、「正当な事由なし」と判断される恐れはないか
・「正当な事由あり」と想定される場合、立退料はどの程度と算定すべきか
これらが判明した上で、立退き請求を発注するかを決める必要がある。
そのためには、まずは立退き可能性調査が必須となる。
立退き可能性調査の概要
立退き調査報告書の内容
神田元経営法律事務所では、以下の内容の報告書を作成している。
- I結論要旨ー可能性ランクをA,B,Cで表示、試算立退料も表示する
- II調査対象物件の概要
- III調査のために必要な資料 IV 調査方法
- IVあてはめ
- V解決の方針
立退き可能性調査に必要な資料
- 賃貸借契約書(更新契約や覚書も)
- 建物の登記簿謄本
- 建物の耐震診断書
- 現在の建物の建築図面(あれば)
- 新築建物の建築プラン
- 近隣賃料相場がわかる資料(募集チラシなど)
- 賃借人の財務資料(営業利益がわかるもの)
よくあるご質問
Q. 不動産業界では「借家権価格」がよく出てくるが、借家権価格は立退料の試算に考慮されないのか?
A.鑑定士によっては、考慮するケースがある。その場合、立退料のフォーミュラによって算定された価格と、借家権価格の平均値を採用したという事例があった。
ただし、借家権価格は、画一的に算出される価格であるのに対し、立退料のフォーミュラによって算定された価格は、個々の事案について、客観的、分析的に評価した価格であるため、より精緻な価格であると考えている。
Q.正当事由があり、立退料を支払って賃借人を立ち退かせることができるのは、建替えの場合にのみ適用される話なのか?
A.正当事由があれば、建替えを伴わなくても適用される。
ただし、単純に賃借人を追い出したいという理由だけの場合は、迷惑行為や、長期に渡る家賃の滞納などがあると、正当事由として認められるケースはあるが、立退料が高額になったり、「正当な事由なし」と判断され、立退きそのものが認められないことが想定される。
※動画および本ページの内容は、公開日当時の法令等に基づいております。
講師プロフィール
神田 元
弁護士
神田元経営法律事務所
昭和56年京都大学卒業。住友商事株式会社勤務、Mazda Motor of America, Inc.などを経て、平成13年弁護士登録。
【立退き案件】【賃料増減案件】など、不動産に関する問題を中心に、企業法務や遺産相続、その他幅広い分野で、法律問題を解決している。