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福利厚生施設の考え方は変化している?
多様化の背景と具体例

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福利厚生施設の考え方は変化している?多様化の背景と具体例

かつては福利厚生施設といえば「社宅・寮」中心でしたが、近年では従業員のライフスタイルや働き方の変化、経済情勢の変化等により福利厚生として求められる内容が多様化し、大きく変わってきています。福利厚生施設についてどのように考え方が変化しているのか、またその背景にはどのようなものがあるのか理解することが大切です。本記事では、福利厚生施設の変化の背景や具体的な導入事例を紹介します。

目次

  1. 企業の福利厚生について
  2. 福利厚生の考え方の変化
  3. 福利厚生施設を導入する際の注意点
  4. 福利厚生導入の具体例
    1. スポーツクラブで健康増進
    2. 場所を選ばず自由に勤務
    3. 古民家をサテライトオフィスとして利用
  5. 今の時代に合った福利厚生施設を導入しよう

企業が福利厚生を導入・充実させることの主な目的に、下記の3点があります。

  1. 福利厚生が充実していることにより企業のイメージアップや採用時のアピールポイントになる。
  2. 従業員の健康維持を目的とした健康診断などは、近年企業評価の一つとして取り上げられている健康経営につながる。
  3. 社内のクラブ活動や社内行事、社員旅行などのプログラムメニューは社員の帰属意識を高め、離職を防止する効果が期待できる。

また、福利厚生には「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」が存在します。

法定福利厚生とは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、介護保険などのことをいい、法律的に事業者負担が義務付けられている社会保障制度です。一般社団法人 日本経済団体連合会が加盟企業に対して調査を行った、2019年度第64回福利厚生費調査結果(対象期間 2019年 4月~2020年3月)によると、法定福利費の対現金給与総額比率は15.4%となっており、年々増加傾向であるものの、15%前後で推移しています。

今後も少子高齢化の影響などで、子ども・子育て拠出金の料率が段階的に引き上げられていることをはじめとする社会保険料の改定(増額)が行われることにより、法定福利費の対現金給与総額比率も増加していくものと考えられます。

一方、法定外福利厚生は企業が独自に設定している任意の福利厚生で、福利厚生施設として社員食堂、社宅・寮、診療施設、保養所などがあります。施設以外としては住宅手当などの各種手当、リフレッシュ休暇などの休暇、資格取得などの自己啓発、財形貯蓄などの財産形成、健康診断補助や予防接種補助などの健康に関するものなど様々な種類があります。

前述の調査結果によると、法定外福利費の対現金給与総額比率は4.4%となっており、ここ数年はほぼ横ばいとなっています。

参考:2019年度第64回福利厚生費調査結果(対象期間 2019年4月~2020年3月)

1950年代の高度経済成長期、1980年代のバブル経済においては、雇用環境は年功序列、終身雇用で企業経営も常に成長し、好決算が続いていました。そのため、資金に余裕があった企業では、従業員のさらなる満足度向上のための労働環境の改善に向け、社宅や寮、保養所などのいわゆるハコモノ施設の建設・取得が相次ぎました。

1991年にバブル経済が崩壊した後は、金融危機やリーマンショックなどにより日本経済が長期低迷したことにより、年功序列、終身雇用が崩れ非正規社員が増加し、企業業績も低迷していきました。ハコモノ施設の維持が出来なくなったことによる売却や場所や組織にとらわれない働き方や暮らし方、健康寿命の延伸、価値観の多様化などのライフスタイルの変化により、施設を持たない福利厚生が多くなってきました。

このような背景で、近年の福利厚生は自社で施設を所有するハコモノが減少傾向にあり、施設を保有しない福利厚生サービスが導入されてきています。

また、この減少傾向にあるハコモノの福利厚生施設は社宅などが中心でしたが、近年では生活水準の向上や雇用流動性の向上、雇用形態の変化(非正規社員の増加等)、多様な人材への対応、ワークライフバランスなどの社会の変化を要因として、グランド、共済組合、サテライトオフィス等へと福利厚生施設全体としては減少傾向でありながら施設の種類が多様化してきています。

これからの福利厚生施設においては、質の高い個人生活の支援、非正規社員などの多様な雇用形態への対応を行うことによって、多様な人材の確保と従業員の満足度向上を意識することが大切です。

福利厚生施設を導入・運用するにあたって注意する点は、導入時においては施設建設・整備などのコスト、運用においては水道光熱や修繕などの設備維持、人件費・食材等仕入などのコスト、閉鎖する際には原状回復費用などの閉鎖コストが必要となることです。

なお、全ての従業員に効果がある福利厚生施設を導入することは、時代の変化や社員のニーズの変化もあり困難です。福利厚生施設を導入した後は、利用頻度の確認や社員アンケートなどを活用して定期的に見直すことが重要となってきます。

福利厚生施設を見直すためには、福利厚生施設の導入効果を検証する仕組みを併せて設けることが大きなポイントとなります。これは従業員のために投資した効果がどれだけあったのかを把握することにより、福利厚生施設の運用を見直しする際に非常に有効な判断材料となります。

ここでは福利厚生施設導入の具体例についていくつか紹介します。

4.1. スポーツクラブで健康増進

まずはグループ会社と関係会社の社員等を対象としたスポーツクラブを運営する企業のケースです。その企業が運営するスポーツクラブは入会金なし、タオル1組レンタル無料などの特典があり、社員が利用しやすいよう平日は22時まで利用可能などの特徴があります。

プール、トレーニングルーム、ダンススタジオ、体育館、ゴルフ練習場、浴室(サウナ・ジャグジー)など一般的なスポーツジムにも劣らない設備が用意されており、社員の健康促進に役立つ施設となっています。

4.2. 場所を選ばず自由に勤務

データセンター事業を展開するある企業では、働きやすい環境づくりに関する制度をパッケージ化し、その中の一つとして勤務場所の制限をなくしています。自宅・カフェ・コワーキングスペースからのリモートワークや、自社の他拠点への出勤など、各々の都合に応じた場所からの業務を可能にした制度が設けられています。これは、「働きがい」の向上と離職率低下につながっています。

勤務場所を自由化するために、ハイスペックノートPCの貸与、チャットツール・テレビ会議ツールのアカウントの付与、通信手当の支給など環境整備への投資も行われています。

4.3. 古民家をサテライトオフィスとして利用

DXサービスを提供するある企業では、集中力とクリエイティビティを高めることを目的に、地方都市にある築70年の古民家を会社で借りてサテライトオフィスとして利用しています。オフィス開設後、納屋だったスペースを改装してワークスペースを設け、子育てをしている社員も家族と一緒に生活しながら東京のオフィスにいる頃と変わらない仕事ができるようになっています。

社員の生産性を高める試みとして行われている施策で、対面で行っていた営業やコンサルティングなどのオンライン化を推進し、時間や場所に捉われない新しい働き方を実行しています。

社宅・寮、保養所、サテライトオフィスなどの法定外福利厚生費用は対現金給与総額比率が2000年以前は5%台で推移していましたが、近年は4%台前半まで下がっており減少傾向が続いています。

福利厚生施設については従来の社宅・寮が中心であったものからサテライトオフィス等の導入へと多様化が進んでいます。福利厚生施設の変化の裏には、経済の変化、雇用形態の変化、人材の多様化などの「考え方の変化」や「社会の変化」があります。こういった様々な変化を常に読み取り、今の時代に合った福利厚生施策を選ぶことが大切です。

日商簿記 1 級、税理士試験 3 科目合格(簿記、財務諸表、消費税)、CFP(R)
1 級ファイナンシャル・プランニング技能士、プロフェッショナルCFO
大間 武 氏
Takeshi Oma

飲食業をはじめ多業種の財務経理、株式公開予定企業などの経理業務構築、ベンチャーキャピタル投資事業組合運営管理を経て、2002年ファイナンシャル・プランナーとして独立。
「家計も企業の経理も同じ」という考えを基本に、「家計」「会計」「監査」の3領域を活用した家計相談、会計コンサル、監査関連業務、講師・講演、執筆など幅広く活動。