CRE戦略

事業用地の活用法を解説|企業における投資動向と購入・売却時のポイントも

事業用不動産

有効活用

マーケット

事業用地の活用法を解説|企業における投資動向と購入・売却時のポイントも

令和6年地価公示が発表され、3年連続の地価上昇が確認されました。事業用地の地価も上昇しており、企業にとって所有する事業用地の有効活用は重要な課題です。
30年以上にわたり地価が低迷した日本では、土地の取引件数が増加する様子はありませんでしたが、事業用地に限ると活発な取引が行われています。
活発な取引は地価を上昇させます。たとえば半導体産業誘致でも見られたように、地方都市においても大きな変動がありました。今後はさらに取引件数も増加し、地価の変動も起きてくるでしょう。
この記事では、事業用地の活用と売却や購入を含めた企業における土地活用の戦略について解説します。

目次

  1. 事業用地とは何か?
  2. 事業用地の市場動向
    1. 地価推移
    2. 国土法に基づく取引動向
  3. CRE戦略における事業用地の活用
    1. 事業用地の有効活用
    2. 事業用地の購入
    3. 事業用地の売却
  4. 事業用地の活用は収益性が重要
事業用地とは何か?

事業用地とは「事業の為に利用する土地」を言い、一般の個人住宅が建つ「住宅用地」とは区別されます。

実際に利用されている土地もあれば、現在は未利用だが事業用の土地として考えられる土地も含むでしょう。

オフィス、店舗・商業施設、倉庫、工場、ホテルなどに利用されており、賃貸マンションや分譲マンションも広い意味で事業用地と言えます。

事業用地の面積は広いことが多く、取引の際には契約後に次の3つの区分にしたがって、国土利用計画法(国土法)に基づく届出が義務づけられています。

※なお、事前届出が必要な「監視区域」の指定は、現在、東京都小笠原村のみとなっています。(令和2年1月5日現在)

市街化区域 2,000m2以上
市街化調整区域、非線引き区域 5,000m2以上
都市計画区域外 10,000m2以上

事業用地は国土法の届出が必要となる場合以外に、大きな特徴として土地価格の変動も住宅用地とは異なる動きを示します。次章では、景気の影響を受け価格変動する事業用地の市場動向について解説します。

事業用地の市場動向

事業用地の市場動向は住宅用地とは様相が異なります。住宅用地市場は個人需要が主体であり、社会全体の景況観や個人の収入水準などの影響を受けます。そのため、バブル崩壊後30年以上にわたり地価は低迷してきました。

しかし、事業用地はその時々の景況感もさることながら、将来的な経営戦略によっても市場が動きます。つまり、事業用地の購入や売却は企業の成長戦略に欠かせないものであり、将来性のある用地の取得にあたっては相場価格を超えた取引が行われることもあります。

事業用地の動向を読み解くにあたり、まず土地全般の市場と事業用地に限った市場の違いを、これまでの地価推移と取引件数から確認していきましょう。

30年以上低迷していた日本の地価は令和4年、令和5年、令和6年と連続して全用途での上昇が見られました。

事業用地も上昇しており、令和6年の地価公示では次のような結果が発表されました。

  • 商業地は全国平均で3.1%上昇(令和5年は1.8%)
  • 工業地では全国平均で4.2%上昇(令和5年は3.1%)

上昇幅も拡大しており、事業用地の地価上昇が明確になっています。

県庁所在地である主要都市の商業地について、過去3年間の上昇率推移をグラフに落とし込んだのが下図です。

県庁所在地最高価格上昇率

出典:国土交通省「令和6年地価公示の概要」より作成

令和4年は3都市が前年比1.0を割り込んでいましたが、令和5年では9都市すべてが前年比1.0倍以上となり、令和6年にはさらに上昇率が高くなった状態が読み取れます。

また、事業用地で注目したいのが熊本県の大津町、菊陽町と、北海道の千歳市が半導体関連の企業誘致で上位5位に入り、リゾート地としても評価が高くなった長野県白馬村も4位に入っています。

事業用地としてこれまであまり評価されることのなかった土地が、成長産業の拠点として注目され、あるいはインバウンド拡大の観光コンテンツとして、スノーリゾートが再評価されるといった動きが地価上昇として現れていると言えるでしょう。

事業用地はこのように成長性が期待できる事業の基盤として評価されるものであり、単に「値上がりが期待できる」投資目的で評価するものではないことも理解しておく必要があります。

事業用地の取引動向を知るため、事業用地も含まれる国土法に基づく届出件数の推移を確認します。

下図は平成10年(1998年)から令和4年(2022年)までの全国における届出件数の推移を表したグラフです。

全届出件数(地域ブロック別)

出典:国土交通省「土地取引の件数」

届出件数は約20年間で倍近く拡大しており、下図に示すように日本全体の土地取引件数の推移と比較し、企業における積極姿勢が伺えます。

売買による土地取引件数の推移

出典:国土交通省「土地取引の件数」

しかしながら順調に拡大してきたわけではなく、平成21年はリーマンショックの影響で大きく落ち込み、その後は財政出動などの経済政策により届出件数は拡大していきます。

また、平成25年以降は異次元の金融緩和政策により、企業の積極的な経営戦略に基づきリーマンショック前の水準を回復しました。令和2年にはコロナ禍による影響がありましたが、令和3年、令和4年と18,000件を超えました。

国内の景気動向と比較して事業用地の取引件数が多くなるのは、土地の購入が先行投資として行われることもあり、取引目的が実需だけに留まらないといったことも関係するでしょう。

企業のCRE戦略において、事業用地がどのような位置づけになるのかは重要なテーマとなります。

まず企業が取引する事業用地の取引額を確認してみます。下図は2019年以降の事業用地に対する投資額の実績と計画を表したものです。

企業の土地投資額の推移

出典:国土交通省「令和4年度土地に関する動向」

令和元年~令和3年の3年間で投資額が22%伸び、投資は増加傾向です。このように企業が保有する事業用地は確実に増加していますが、CRE戦略の視点からもう少し活用方法について掘り下げてみましょう。

企業にとって土地は4大経営資源の「物」に該当し、所有する事業用地を含めた土地の活用は高い収益性を生むものでなければなりません。

活用する期間、初期投資額、運営費用を的確に算定し、活用の目的となるニーズを正確に把握することが大切です。

ここでは土地活用にあたっての重要ポイントを解説します。

3.1.1. 事業の種類

土地活用の具体的な事業としては2通り考えられます。

  • ストックビジネス系の事業
  • 運営系の事業

【ストックビジネス系の事業】

賃貸マンションや商業・物流・医療・介護などの各種施設を賃貸する事業です。自ら事業者として運営する方法と専門事業者に施設を一括して賃貸する方法があります。

収益は「家賃・賃料」であり毎月ほぼ一定額の収入が見込め、入居率や稼働率の維持が収益性を継続させるポイントになります。

建物への初期投資と長期間の運営を可能とする維持管理が欠かせず、建物・設備のメンテンナンスに係る知見やノウハウが必要となりますが、専門事業者との連携により解決できる課題です。

【運営系の事業】

太陽光発電や駐車場の運営などにより収益を生み出す事業です。

自社で運営する場合、事業多角化の一環として社内に新しく事業部門を設置します。新規事業はニーズの正確な把握が大切なうえ、将来に向け成長性のある分野が望ましいです。

例示している太陽光発電や駐車場については、カーボンニュートラルを掲げる我が国の大きな方針に係る事業と言えます。

事業用地の活用法としては他にも有効な方法があり「企業不動産を活用したストックビジネス」に関する記事も参考にしてください。

関連記事:企業不動産を活用したストックビジネスが注目される理由

3.1.2. 運営方法

収益性の高い土地活用を実現するには、事業テーマの設定と事業の運営方法が重要です。運営方法は自社による運営と外部に委託する方法があります。

外部に委託する方法にも業務委託、サブリース、信託といった選択肢があり、事業計画立案の時点で十分に検討する必要があるでしょう。

その場合、自社内に対象事業に対する知見がどの程度あるのか、事業部門を設置した場合にノウハウをどの程度蓄積し発揮できるかなど、社内の経営資源を精査し最適化を図れるかが課題です。

日本の企業の特徴として「自前主義」が言われますが、外部との連携により社内の経営資源がより活かされる可能性もあります。土地活用はとくにこのような視点が大切だと言えるでしょう。

3.1.3. 出口戦略

事業計画の立案時点において事業用地の活用期間を設定します。その場合、単に期間だけの設定ではなく、終了期までの累積利益や事業セグメント別の業績目標も同時に設定します。

終了期が到来し目標達成がなされた場合、活用した用地をどのように処理するのか、その方法を決めておくのが「出口戦略」です。

  • 建物などの施設を解体し事業用地として売却
  • 解体せずに用途変更により他の事業に供与
  • 解体した上で建替えし同一事業を継続

例えば上記の方法などが考えられますが、活用期間終了時のニーズが大きく変化し、計画立案時の出口戦略が通用しないケースもあります。その場合、事前に立てた出口戦略に含まれる考え方が次の事業計画へフィードバックすることも可能です。

企業活動にはPDCAサイクルが必要と言われますが、事業の立案から事業を実施して成果を確認、改善点を見出すプロセスに、出口戦略が欠落していては正しい改善点は見いだせないと言えるでしょう。

関連記事:土地活用(不動産活用)のアイデア5選!失敗しない土地活用のポイントとは?

事業用地の購入は、具体的な事業計画が策定されているケースが一般的です。購入対象の土地の条件や特性は事業計画と整合性がとれているのか、たとえば用途地域などの法的制限や立地条件が適正かなどチェックするポイントがあります。

また、事業用地を取得できる時期がで設定しているタイミングと合致するかも重要です。先行投資として事前に取得する場合、妥当性が後に問われるので、将来予測などにおいて合理性が必要でしょう。

事業計画に合わせて取得する場合、用地の選択から取得まで限られた時間での決断となります。

まず、用地の選択は土地探索からスタートします。一般的には不動産市場に公開された情報と非公開の情報があり、非公開情報にもアクセスできるほうがより好条件の用地を発見できる可能性が高くなります。そのための探索方法として次の3つの方法があります。

  1. 不動産会社への依頼
  2. 競売への参加
  3. 自社による土地探索

どれかひとつではなくすべてを実践するほうが望ましいですが、競売への参加も含めて不動産会社への依頼は用地取得の機会を増やすことになります。

不動産会社への依頼は信頼できる会社および担当者を選ぶことが重要なポイントです。不動産を購入するまでの流れについては、下記のページも参考にしつつ、事業用地購入の準備をすすめてください。

関連ページ:不動産購入の流れ

事業用地を売却する場合もあります。事業計画の変更などにより所有していた用地を売却し、他の用地への資金や別事業への資金手当てにするなど、やはり企業の経営戦略上重要なアクションと言えるでしょう。

事業用地の売却にあたり、まず重要なのは「売却価格」です。不動産の売却や取得は取締役会の決議事項なので、売却価格の決定は不動産査定をはじめ適正な手続きを経てすすめる必要があります。

また、売却により利益が生じる場合は、法人税の課税時期にも注意が必要でしょう。

売買取引における売主は契約不適合責任を負います。土壌汚染や地中埋設物あるいは埋蔵文化財など、該当する恐れのある事象について事前に確認することも重要であり、場合によっては法律に基づく調査が必要にもなるでしょう。

売却までの手順を適切にするためにも、信頼のおける不動産会社に依頼することが大切です。売却までの流れについては下記のページも参考にしてください。

関連ページ:不動産売却の流れ

土地は企業にとって収益を生み出す資源です。とくに事業用地は目的にそって取得するものであり適切な活用を図る必要があります。そのため、事業用地は土地全般の取引状況と異なり活発な動きを示しています。

企業にとって土地は4大経営資源である「人、物、金、情報」の中の「物」に該当し、事業用地の取得あるいは売却は経営戦略に基づく必要があります。

さらに、所有する土地は常に活用を図り収益性を高め結果の検証を行うと同時に、収益性が望めない土地は売却も大きな選択肢となります。

活用にあたっては出口戦略を含んだ入念な事業計画に基づき実施し、活用期間が終了する時点で、その結果から次の事業に対する改善点を見出すプロセスが重要と言えるでしょう。

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。