今注目の環境不動産とは?
知っておきたいグリーンリース契約の仕組み
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近年、SDGsやパリ協定など、世界的に環境問題への取り組みが課題視されるようになりました。いまや企業も経営成績だけでなく、環境などの社会問題にどう対応しているかが問われる時代です。オフィスなどの不動産の扱いを検討するときは、財務諸表に現れない部分も考慮して方針を決める必要があります。
そういった背景を受け、環境性能が高く良好なマネジメントがなされている「環境不動産」への注目が集まっています。また、環境不動産を促進するための施策である「グリーンリース契約」の話題も耳にするようになりました。
本記事では、環境不動産が注目されている背景やグリーンリース契約のメリット、デメリットを解説します。
目次
1. 環境不動産とは
環境不動産とは、構造、設備などの環境性能が高く、良好なマネジメントがなされている環境価値の高い不動産です。環境不動産における「マネジメント」とは、企業が設定する環境方針や目標を達成するための具体的な計画や行動といった取り組み全体を指します。具体的には省エネルギーの推進や再生エネルギーの導入、屋上の緑化などです。
環境不動産の促進は、持続可能(サステナブル)な社会の実現に向けて取り組まれています。本章では、環境不動産が注目されている背景や具体的な施策について解説します。
1.1. 環境不動産が注目されている背景
環境不動産が注目されている背景には、地球温暖化による気温上昇がもたらす異常気象や海面上昇などの問題があります。近年日本でゲリラ豪雨や大型の台風が増加しているように、世界各地で異常気象が発生しています。
このような地球温暖化による被害をなくして今後人類が持続可能な社会を実現するために、世界規模での取り組みが検討されました。それが2015年に合意された「SDGs」や「パリ協定」です。
「SDGs=持続可能な開発目標」は各所で取り上げられ話題になっているため、内容を把握している方も多いでしょう。貧困、教育、経済成長など地球上のあらゆる課題を解決するために掲げられた目標であり、「持続可能なエネルギーの利用」「気候変動対策」などの環境に関するものも含まれています。
一方のパリ協定とは、2015年の「国連気候変動枠組み条約締約国会議」で合意された、2020年以降の気候変動問題に対する国際的な枠組みです。パリ協定では、以下のような長期目標が掲げられました。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
パリ協定を経て、日本では2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。具体的な施策として、住宅、建築分野においても2030年までにCO2排出量を2013年の水準から40%削減することを目標としています。
そのため、環境に配慮した不動産への理解や取得促進は国を挙げたトレンドとなっており、投資家や各企業にとっても「環境不動産」という言葉が重要なものとなりました。
1.2. 環境不動産の評価指標
環境不動産を増やしていくには、環境性能や価値を測る指標が必要になります。所有不動産を環境に配慮したものにしたいと考えている場合、どのような指標があるのかを事前に知っておくことが重要です。
国内で採用されている指標は主に以下の2つです。
- CASBEE(キャスビー)
- DBJ Green Building認証
1つ目の「CASBEE」とは、建築物を環境性能で評価し、格付けする手法の1つです。環境への配慮だけでなく、室内の快適性や景観への配慮などを含めて総合的に評価されます。CASBEEは、国土交通省住宅局の支援のもと、産官学共同プロジェクトとして開発されました。CASBEEの評価は3つの種類に分けられます。
- CASBEE建築評価:新築や改修する建築物が対象
- CASBEE不動産評価:既存建築物が対象
- CASBEEウェルネスオフィス評価:オフィスビルが対象
企業はCASBEE認証を取得することで、助成金制度の適用や金融支援、税制優遇などのメリットを受けられる場合があります。
2つ目の「DBJ Green Building認証」とは、環境、社会へ配慮した不動産を支援するための認証制度です。2011年4月に日本政策投資銀行(DBJ)によって創設されました。DBJ Green Building認証では、85項目にも及ぶスコアリングシートを提出したのちに、机上評価や物件実査、インタビュー、認証会議を経て認証が付与されます。
DBJ Green Building認証を受けることで、投資家や金融市場へのIR、CSR活動に活用できるため、各方面へのアピール材料になるでしょう。
1.3. 環境不動産を促進するグリーンリース契約
オフィスや店舗を借りる際、環境に配慮した不動産に入居したいと考えるケースもあるでしょう。そういったケースで有用な選択肢の一つが「グリーンリース契約」です。グリーンリース契約とは、不動産オーナーとテナントが協働し、省エネや再エネの導入など環境負荷の低減や設備環境を改善する自主的な取り組みです。
不動産オーナーとテナントが、費用負担とメリットを分け合う契約と考えるとわかりやすいでしょう。例えば、照明や空調設備の交換にかかる初期費用は不動産オーナーが負担し、それによって削減できたテナント側のランニングコストの一部を、グリーンリース料として不動産オーナーに支払います。このようにすることで、不動産オーナーは設備の交換費用を回収でき、テナント側はランニングコストを削減しながらも、快適な環境で仕事に取り組めます。
環境不動産の実現には基本的には建物の改修や設備の導入が必要ですが、まとまった費用がかかるため、初期の負担が大きくなります。このような理由から不動産を改修したいものの、具体的な行動に移せていない不動産オーナーも多いでしょう。グリーンリース契約を導入することで、不動産オーナーの負担を抑えながらも環境不動産を促進できます。
なお、グリーンリース契約では必ずしも建物の改修が必要になる訳ではありません。エネルギー消費量の情報共有や、エネルギー、CO2排出量削減の目標設定を行う「運用改善」のグリーンリース契約もあります。以下の表を参考に、不動産の現状にあったグリーンリースに取り組みましょう。
環境配慮型設備対応ビル | 環境配慮型設備未対応ビル | |
---|---|---|
テナント既入居 |
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テナント未入居 |
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2. グリーンリース契約の社会的意義
グリーンリース契約は、あくまでも不動産オーナーとテナントの自主的な契約です。環境問題への対策として環境不動産の促進を主導しているのは政府ですが、民間で積極的に環境問題へ取り組むことには社会的な意義があり、環境問題に取り組む姿勢は企業としての評価にもつながります。
以前であれば、企業に投資する際の指標とされていたのは主に財務諸表でした。現在は環境(Environment)や社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した経営を重視したESG投資の考え方が普及しています。
グリーンリース契約を導入すれば、立地や設備といった建物のスペックに環境配慮という付加価値が加わります。それにより、不動産の価値が向上するだけでなく、環境に配慮した取り組みとして対外的な評価があがる可能性があるでしょう。不動産の資産価値の向上、ブランディングの一環として取り組む企業もあり、CRE戦略の選択肢の一つとしても注目すべき対象といえます。
関連記事:CRE戦略とは?不動産で企業価値を高める中長期的な戦略を詳しく解説
3. グリーンリース契約のメリット
環境不動産やグリーンリース契約の概要がわかったところで、本章では不動産オーナーとテナントが得られる具体的なメリットを解説します。
メリット | |
---|---|
不動産オーナー | テナント |
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グリーンリース契約による不動産オーナー側のメリットは、省エネや再エネの導入で、建物の運用コストを下げられる点です。ほかにも、環境不動産としてアピールすることで、環境問題への意識が高い企業を誘致できます。結果として家賃収入の増加や、テナントの満足度向上による入居期間の長期化につながるため、安定した経営が見込めるでしょう。
テナント側のメリットは、光熱費の削減や労働環境の改善による従業員の満足度アップにつながる点です。室内空気質、温熱快適性などの環境が良くなれば、従業員の生産性や快適度の向上につながります。
また、不動産オーナー側、テナント側ともに、環境配慮の取り組みで企業のイメージアップを図れる点が大きなメリットです。環境不動産の所有、使用をステークホルダーにアピールできるため、ESG投資を望む投資家にも訴求できるでしょう。
4. グリーンリース契約のデメリット
グリーンリース契約はメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
デメリット | |
---|---|
不動産オーナー | テナント |
|
|
不動産オーナー側のデメリットは、入居するテナントが限られてしまう点です。グリーンリース契約はあくまでも自主的な取り決めであるため、テナント側が応じるかどうかは任意です。
不動産オーナーが環境問題に取り組みたいと考えていても、テナント側は同意しない可能性があります。テナントが入らないと経営が成り立たなくなるため、不動産オーナーは社会的意義と経営の両面で判断しなければいけません。
テナント側のデメリットは営業に制限が生じる可能性があることです。例えば、改修を伴うグリーンリース契約の場合、設備の入れ替えが必要なため、一定期間営業できない期間が生じる可能性があります。また、エネルギー、CO2排出量削減の目標設定を行った場合、それらを意識して営業しなければいけません。
5. 不動産の資産価値向上のために環境不動産(グリーンリース契約)の検討を
環境不動産は、地球温暖化による環境問題への対策として注目されています。昨今はSDGsやESG投資の観点から、企業が環境問題にどのように対応しているかが問われる時代です。環境不動産を所有、取得することで、建物の資産価値や企業価値が向上するため、企業の経営戦略としてご検討ください。
また、環境不動産を促進する「グリーンリース契約」などの施策への理解を深めることも重要です。メリット、デメリットを把握したうえで自社に合った対応ができるよう備えましょう。
宅地建物取引士
岡﨑 渉 氏
Wataru Okazaki
国立大学卒業後新卒で大手不動産仲介会社に入社。約3年間勤務した後に独立。現在はフリーランスのWebライター・Webディレクターとして活動。不動産営業時代は、実需・投資用の幅広い物件を扱っていた経験から、Webライターとしては主に不動産・投資系の記事を扱う。さまざまなメディアにて多数の執筆実績あり。