GX投資とは?企業の経営戦略における重要ポイントを解説
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世界的に地球温暖化問題への対応が課題となり、化石エネルギーから再生エネルギーへの転換を図るGX投資が注目されています。今後10年間で150兆円もの官民投資が見込まれ、あらゆる産業分野においても関連するGXは、将来の産業構造と社会構造に変化をもたらすと言われます。
企業にとっては企業価値を高めるという面から、GXへの取り組みが重要視される場合もあります。この記事では、不動産を所有する企業がGXに取り組む意義や目的について解説します。
目次
1. GX投資とは?
GX(Green Transformation、グリーントランスフォーメーション)とは、これまで継続してきた化石エネルギー中心の産業構造そして社会構造を、再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーを中心とした構造に転換することを指します。そしてGXの実現に向けた投資を「GX投資」と言います。
GXが目指すクリーンエネルギーへの転換は、国際公約となっているカーボンニュートラルの実現を図るだけでなく、産業構造や社会構造を変革し、持続可能性の高い社会へ発展させることを目的としています。
一方、GXと似たような言葉に、SXやDXなどがありますが、その違いについても触れておきましょう。
・SX(Sustainability Transformation、サステナビリティ・トランスフォーメーション)
企業経営において持続可能性を重視した方針に転換すること
・DX(Digital Transformation、デジタルトランスフォーメーション)
企業がデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務フローや組織を変革すること
・ESG
Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を並べたもので、企業が持続的成長をするうえでこれら3つの観点が重要とする経営理念
・SDGs
持続可能な社会構造・経済構造・地球環境を目指し2030年をゴールとする開発目標
2. GXが注目される背景
GXの必要性が認識されるようになったのは、気候変動問題への対応が喫緊の課題となってきたことがあげられます。日本は2050年にカーボンニュートラルを掲げ、脱炭素に向けたさまざまな政策を着手していますが、GXに関しては2022年2月に「GXリーグ基本構想」を公表しました。
ほぼ同時期にロシアのウクライナ軍事侵攻が開始され、エネルギー供給情勢が大きく変わることとなり、国際的なエネルギー需給の安定化が大きな課題としてクローズアップされるようになりました。
GXの実現はクリーンエネルギーによる国際的な枠組みを形成し、国際的なエネルギー需給構造の急変に対応できるエネルギー安全保障の確保と、世界的なカーボンニュートラルの実現に貢献するものと期待されています。
とくに日本においては自然災害の頻発や、低いエネルギー自給率などにより、電力ひっ迫のリスクが高くなっています。そのためクリーンエネルギーへの転換は、産業・社会構造の基盤を変革するうえでも重要なものと言えるでしょう。
クリーンエネルギーの技術開発は新たな成長分野の創出につながり、脱炭素技術の開発は国内企業の競争力拡大にもつながることと期待されています。
2.1. GX推進に関する日本の動き
GX推進には多額の投資が必要となり、国や経済団体そして各企業においてもさまざまな取り組みが行われようとしていますが、ここではリーダーシップをとる国の動きを紹介していきます。
日本政府はGXの推進に向け、令和4年に関係大臣と有識者による「GX実行会議」を首相官邸に設置し、GXに向けた基本方針を策定し進捗状況の評価と施策の見直しを行っています。
基本方針としては、大きく2つのテーマがあります。
① エネルギー安定供給の確保を目的とする取組
② 成長志向型カーボンプライシング構想の実現・実行
テーマごとに4つの方策を立てており、エネルギー安定供給に関しては、次の4つの方策があります。
- 省エネの徹底した推進
- 再生エネルギーを主力電力とする
- 原子力の活用
- その他のGXに関わる重要事項
さらに、成長志向型カーボンプライシング構想については次の4つの方策があります。
- 民間投資を呼び込むため国が今後10年間で20兆円の先行投資を行う
- GXリーグを構成しカーボンの排出量取引制度の稼働や排出量に応じた負担金・賦課金制度などの導入
- GX推進機構によるGX投資の金融支援と賦課金徴収および排出量取引制度の運営
- アジアにおけるGXの後押しや、全国的な脱炭素に向けた財政支援、中小企業のGX取組に対する支援
以上のような方策に基づき、GXリーグはすでに組織され2023年から活動を開始しています。GX推進機構は2024年7月から業務を開始し、化石燃料賦課金や負担金が具体化される予定となっています。
3. 企業経営におけるGXの取り組み
企業がGXに取り組むことによりどのようなメリットがあるのでしょう。
再生エネルギーへの転換には「省エネルギーの推進」と「エネルギーの安定供給」も大きな要素になっています。
企業活動における消費エネルギーの低減は、エネルギーコストを削減する効果があり、エネルギーの安定供給はコスト上昇を抑制する効果があります。
また、GXへの取り組みはESGとも関連があります。カーボンニュートラルや再生エネルギーの推進はESG投資の対象ともなっており、ESG投資を行う企業は社会的評価が高く、企業価値を向上させる効果があります。
さらにGX推進機構が担う金融支援は、企業が民間金融機関からの融資を受ける際の債務保証や、企業への出資と社債の引き受けを行うものです。
脱炭素関連の投資に対する債務保証がすでに開始されており、順次業務範囲が拡大されるに伴い、企業がGXに取り組むにあたって資金面におけるバックアップは大きなものになるでしょう。
4. 不動産業界とGX
GXはクリーンエネルギーへの転換と脱炭素化を軸としています。
不動産業界が取り組む具体的な対策として、再生可能エネルギーを活用した不動産の提供、遊休地を活用した再生可能エネルギーの創出などは「クリーンエネルギー転換」に沿うものとなります。既存建築の再生や活用、資源の有効活用などは「脱炭素化」を図る手法とも言えます。
ここではGXを実現する具体的な取り組みの中で、不動産業に関係の深い事業テーマを紹介します。
4.1. 脱炭素化の推進
脱炭素化をすすめるにあたって、建物の省エネルギー性能は重要です。2025年よりすべての新築建築物は省エネ基準適合が義務づけられますが、省エネ基準を上回る性能を満たすのが「ZEH」です。
ZEHは注文戸建住宅や賃貸マンションでの普及がすすんでいますが、分譲マンションでの推進を図る事業者も増加しており、2030年にはZEHが住宅の標準になるよう期待されています。
脱炭素化にむけたもうひとつの取り組みが「木造建築の活用」です。
日本は古代より木造建築が中心の国でした。「木」は二酸化炭素を吸収するためCO2排出量削減の重要な素材として近年注目されるようになりました。
令和3年には法整備がなされ、これまで公共建築物において促進していた木材利用を、民間建築物に対しても促進するよう改めました。
木造建築の促進は国内の森林資源の持続可能性に関わるものであり、GXの政策とも合致するものと言えるでしょう。
4.2. 建築ストックや既存システムの活用
建築物の既存ストックの有効活用は2010年頃から言われるようになり、2018年の建築基準法改正において既存ストック活用に関わる法整備が行われました。
そして今日、GX投資においても建築ストックの活用は重要なテーマになると言えます。
建築ストックの活用は、既存建物を有効資源として位置づけその再利用を図るとともに、既存建物の省エネルギー性能を向上させることも必要なテーマとなります。
一方、日本は現在、都市再生特別措置法により全国的な「コンパクトシティ政策」を促進させています。
コンパクトシティの実現により、既存の都市基盤を活用しつつ行政コストを低減させ、都市の持続可能性を高めることができます。不動産の開発は「コンパクトシティ政策」に則ったものであり、地域のビジョンに沿ったものである必要があります。そのような開発のあり方は省エネルギーにも寄与し、GXが目指す目標に合致するものと言えるでしょう。
4.3. 防災や減災への配慮や国内資源の活用
日本は地震の多い国として世界有数ですが、最近の温暖化傾向によると思われる自然災害も頻発しています。災害の発生による被害の増大は多額の資産を消失させ、その復旧には莫大なエネルギーとコストを必要とします。
このような視点から建物の供給や流通に関わる事業者は、いかに災害を防ぎ被害を軽減させるかといった視点を、事業の中に組み込む必要があるでしょう。
また災害により大きな影響を及ぼすのが、エネルギーに関するインフラの被害です。
エネルギーを安定して供給できるシステム、あるいは基幹システムが稼働しない場合に対応できる非常電源の整備など、不動産関連事業者が防災・減災面で検討すべき課題は、まだまだあると言えるでしょう。
日本は災害の多い国ですが、その一方で天然資源が豊富な国とも言えます。
森林資源の有効活用を図る国産木材を使用した住宅づくりや、海に囲まれた地形を活かした風力や潮力による発電システム、さらに民間・公共施設における雨水・再生水の利活用など、地域の産業振興において不動産関連事業に期待されるものは多いと思われます。
5. 不動産を中心としたGXの推進に向けた検討も
GX投資の目的はエネルギー需給の安定化を図るクリーンエネルギーへの転換と、地球環境の持続可能性を可能にするカーボンニュートラルの実現です。
GXが取り組む範囲は広く、日本においては10年間で150兆円もの官民投資が必要と言われます。
企業にとってGXへの取り組みは企業価値向上につながる期待があり、GX投資に対する金融支援を受けることも可能です。とくに不動産を所有する企業や不動産に関わる事業を行う企業にとって、脱炭素化につながる取り組みはGX推進に大きな役割を担うことになります。GXをCRE戦略の一環として位置づけ検討することも意義のあることでしょう。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。