キャップレートから探る!最新の不動産市場動向
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不動産投資で安定した収益を得るには、市場動向を踏まえながら最適な戦略を練ることが欠かせません。そこで重要なのがキャップレートです。キャップレートとは、不動産取引の収益性を評価できる指標であり、リスクを評価する指標にもなります。
第50回不動産投資家調査では、オフィスビルの期待利回りは東京都で横ばいが続いていますが、主な政令指定都市の多くのエリアでは低下が顕著です。賃貸住宅市場はワンルームタイプとファミリータイプ、商業店舗は郊外型ショッピングセンターの期待利回りが低下しています。
また、物流施設・倉庫は内陸部にて低下、ホテルでも低下するエリアが目立つなど、不動産市場の注目度の高さが伺えます。しかし、今後も堅調とは限らないため、最新のキャップレートを踏まえ、今後の動向を探ることが大切です。
この記事では、キャップレートとは何なのか、最新のキャップレートと今後の動向について解説します。
目次
1. キャップレートとは?
キャップレート(Capitalization Rate)とは、不動産投資における収益性を示す指標の1つで、期待利回りとも呼ばれています。
「純営業利益÷物件価格」で求めることができ、投資物件がどれだけ収益を生むのかを簡単に評価するために使用します。
値が高いほど収益性が高いことを示し、例えば異なる地域にある複数の物件のキャップレートを見て収益性を比較することが可能です。また、新しい投資機会を評価する際に、その投資物件からどれだけのリターンが期待できるのかを判断するのにも役立ちます。
キャップレートからリスクや収益性を判断できるため、投資家はリスクが低く最も収益性の高い物件を選びやすくなるでしょう。
1.1. 取引利回りとキャップレートの違い
投資家が実際に支払った購入価格に基づいて計算される利回りを、取引利回りと呼びます。購入価格を基準にしてどれだけの収益が得られるかを示すもので、投資の初期コストに対する収益性を評価するために使用されるものです。
取引利回りの計算式はキャップレートと似ていますが、純営業利益を割る対象が購入価格という点で異なります。キャップレートは物件の市場価格または評価額を基準に計算されるのに対し、取引利回りは実際に支払われた購入価格を基準にするため、投資の実際のコストに対する収益性を具体的に示します。
1.2. NOI・NCFとキャップレートの違い
キャップレートと似たものにNOIとNCFがあります。
NOI(Net Operating Income:純営業利益)は、不動産から得られる総収入から運用経費を差し引いたもので、物件の運営から得られる総収益を評価するために使用されます。融資の返済や利息は含まないため、物件の運営自体の収益性を純粋に評価することが可能です。
一方、NCF(Net Cash Flow:準キャッシュフロー)は、不動産投資から実際に手元に残るお金のことです。NOI(準営業利益)からローンの返済や利息、その他の支出を差し引いて計算します。
NCFでは実際に得られる収益が分かるので、不動産投資によってどのくらいの利益を得られるか正確に把握できます。
全ての指標の違いをまとめると、以下の通りです。
指標 | 概要 | 計算式 |
---|---|---|
キャップレート | 市場価値や購入価格に基づいた物件の収益性を示す比率 | 純営業利益(NOI)÷物件価格×100 |
NOI | 物件の運営自体から得られる純収益を示す指標 | 総収入-運営経費 |
NCF | 実際に手元に残る現金の流れを示す指標 | NOI-融資の返済-利息 |
利回りについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:不動産投資における利回りとは?種類や考え方のポイントについて解説
2. キャップレートから探る不動産市場動向
ここからは、日本不動産研究所が発表した「第50回不動産投資家調査」より不動産市場動向を探ってみましょう。
調査結果によると、特定の地域やアセット(特に商業用不動産、住宅用不動産など)への投資意欲が高まっている一方、オフィスビルは比較的横ばい傾向であることが分かります。
では、アセット別に見てみましょう。
出典:一般財団法人 日本不動産研究所「第50回 不動産投資家調査」
2.1. オフィスビルは政令都市の一部で低下
主要地区のオフィスビル(標準的なAクラスビル)のキャップレート(期待利回り)は、以下のような結果でした。
【東京都】
【主な政令指定都市】
過去10回の不動産投資家調査では、新型コロナウイルスの影響によってリモートワークの普及が始まった2020年4月~2021年4月は期待利回りが横ばいで推移しました。しかし、その後は全体的に期待利回りの低下が続いています。
今回の結果を見ると、東京の丸の内・大手町エリアは期待利回りが3.2%と低い水準を維持しています。東京都は横ばいでしたが、企業が集中していることに加えて高いテナント需要が利回りの安定に寄与しているため、今後も引き続き安定した需要が期待できるでしょう。
一方、政令指定都市は期待利回りの低下が顕著です。札幌、仙台、名古屋、京都はそれぞれ0.1ポイントのマイナスで、テナント需要が高まっていることが分かります。地方への企業進出が活発化していることが要因と言えるでしょう。
政令指定都市のオフィスビルが堅調な背景には、地域経済の活性化やインフラ整備によるアクセス性・ビジネス環境の向上が投資家の関心を集めていることが挙げられます。
例えば、福岡市では天神ビッグバンプロジェクトによる再開発が進行中です。期待利回りは4.5%と低い水準で安定して推移しています。
また、日本政府や地方自治体によるオフィスビル再開発プロジェクトで、老朽化したビルの建て替えや新たなビジネス中心地の整備が進んでいることも政令指定都市の期待利回りの低下に大きく影響しています。
例えば、横浜市においてはみなとみらい21地区の再開発が進行中です。期待利回りは4.4%とこちらも低い水準となっています。
2.2. 賃貸住宅はワンルームタイプ・ファミリータイプともにやや低下
賃貸住宅一棟のキャップレート(期待利回り)は、以下のような結果でした。
【ワンルームタイプ】
【ファミリータイプ】
東京・城南エリアのファミリータイプの期待利回りは3.8%となりました。これは過去最も低い期待利回りとなった去年と同じ水準です。
地域別に見ると、ワンルームタイプでは大阪、神戸、広島、福岡でそれぞれ0.1ポイント、ファミリータイプでは仙台、京都、大阪、神戸、福岡でそれぞれ0.1%ポイント低下しました。
このようにワンルームタイプ・ファミリータイプともに多くの地方都市にて期待利回りの低下が見られる背景には、円安による物価高、人件費の高騰といった理由で新築住宅価格が高騰したことが挙げられます。
それに伴い、比較的安価な中古住宅の需要が高まったことで中古住宅価格も上昇し、住宅購入を見送り賃貸を選択する方が増えました。その状況を見て賃貸市場への投資が進んだと考えられます。
また、低金利環境が続く中で、賃貸住宅が安定した収入源として投資家に人気であることも要因の1つです。円安で海外資本が流入しやすくなっており、安定した収入が期待できる賃貸市場への投資を促進したことも要因と言えます。
堅調な賃貸市場ですが、働き方の変化による影響を受けやすいため、賃貸市場の動向を常に把握しておくことが大切です。
2.3. 商業店舗は郊外型ショッピングセンターで低下が目立つ
商業店舗の期待利回りは、以下のような結果でした。
【都心型高級専門店】
【郊外型ショッピングセンター】
コロナの影響を受けた2020年4月~2021年4月にかけては外出制限や蜜を避けるなどの対策が取られたことによって、都心型高級専門店・郊外型ショッピングセンターともに期待利回りが上昇する地域が見られました。
しかし、それ以降は制限が緩和されたことやコロナ禍で落ち込んでいた訪日外客数の増加、個人消費の回復などを受けて出店ニーズが増加しており、低い水準で推移しています。
都心型高級専門店は福岡のみ0.1ポイントの下落している一方、郊外型ショッピングセンターは東京、札幌、仙台、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡の全てのエリアで低下しています。特に札幌は0.3、京都は0.2ポイントと、他のエリアよりも下落が顕著に見られました。
この結果から、訪日外客数の増加の恩恵が地方にも好循環をもたらすことが予想されるほか、地域住民の消費拡大への期待が影響していることが考えられます。
また、経済産業省は小売業および商業施設の活性化を目的とするデジタル化支援のほか、新しいビジネスモデルの導入支援などを実施しています。日本最大級の大型複合施設である「EXPOCITY」のような大型複合施設の開発が各地で開発されており、地域経済の活性に寄与していることも要因の1つと言えるでしょう。
2.4. 物流施設・倉庫は千葉・名古屋・福岡で低下
物流施設・倉庫のマルチテナント型、内陸部のキャップレート(期待利回り)は、以下のような結果でした。なお、マルチテナント型とは、階層3~4階、延べ床面積50,000㎡程度、テナント数が4つ程度の物流施設・倉庫を指します。
【物流施設・倉庫(マルチテナント型 内陸部)】
他のアセットは2020年4月~2021年4月にかけて期待利回りが上昇または横ばいでしたが、物流施設・倉庫の期待利回りはその間も低下していました。
この背景には、外出を控えたことによりeコマースの需要が増え、物流施設および倉庫の需要が高まったことが考えられます。
今回の調査でも、物流施設・倉庫の期待利回りは引き続き低い水準を維持しています。物流企業が配送コストの削減や迅速な配送などを実現するために物流施設および倉庫の獲得に注力していることが大きいでしょう。
特に内陸部では千葉(成田地区)、名古屋(名古屋市北部)、福岡(福岡IC付近)において期待利回りが1ポイント下落しました。内陸部における物流施設の需要が高い背景には、全国規模での効率的な配送ネットワークを構築する上で、内陸部の物流施設が欠かせない存在であることが挙げられます。
労働時間規制の強化や人手不足の深刻化などの影響を受ける「2024年問題」に対しても、内陸部の物流施設・倉庫は中間拠点として重要な役割を担っています。そのため、内陸部の物流施設に対する投資が活発化し、さらに期待利回りが低くなる可能性もあります。
また、日本政府は、次世代の情報通信基盤「IOWN」の開発に452億円を投じ、内陸部では交通インフラの整備を進めるなど、物流施設のインフラ整備を支援しています。これにより効率的な流通ネットワークの構築や高いテナント需要に支えられており、投資家にとって物流施設や倉庫などが非常に魅力的な資産となっています。
2.5. ホテルは東京でコロナ禍前の最低値を更新
ホテルの期待利回りは、以下のような結果でした。
【宿泊特化型ホテル】
ホテルは最もコロナの影響を大きく受けました。2020年4月~2021年4月にかけては期待利回りが上昇に転じており、ホテルの需要が低下していたことが分かります。
しかし、外出制限および入国制限が緩和されたことで、少しずつ期待利回りが低下し、直近の調査結果ではコロナ前の水準あるいはそれよりも低い水準となりました。
具体的には、東京、札幌、仙台、名古屋、福岡で、期待利回りがそれぞれ0.1ポイントの下落となっています。特に東京の期待利回りは4.3%でコロナ禍前の最低値4.4%を更新しました。
この背景には、観光業の回復の恩恵が大きいと考えられます。実際、日本政府観光局の観光統計データでは、2024年3月の訪日外国人数は3,081,600人で前年同月比69.5%の増加を記録しました。
また、観光庁は、2024年度の予算概算要求を前年度比2.2倍の670億円で観光業の支援に注力しているほか、全国各地にてインバウンドの研修会の開催を実施していることからも、日本政府は観光業の復活と成長を強力に支援していることが分かります。
観光業の回復が進む中、ホテル投資の魅力が増しており、今後もこの傾向が続くと見られています。
3. 引き続き安定成長が予想されるが、市場の急変には注意
キャップレートは、不動産の収益性、リスク、市場動向などを把握するための非常に重要な指標です。キャップレートを理解し、適切に利用することによって、より賢明な投資判断を行うことができます。
最新の調査結果では、商業用不動産のキャップレートは順調で、特に郊外型の小売店舗への需要が高まっている一方、オフィスビルのキャップレートは横ばいであり、安定した需要を確保できているのが現状です。
住宅市場は低金利政策が続くことから、引き続き投資家からの注目を集めています。今後も、都市部の再開発プロジェクトやインフラ整備などの進展が予想されます。これらの需要は不動産市場の安定成長を支えることでしょう。
また、リモートワークの普及に伴い郊外や地方都市への移住が進む中、新たな不動産需要が生まれる可能性が高いです。投資家にとって今後も安定したリターンを狙える市場環境が続くでしょう。
さらに、投資家心理が好調な今、売却を視野に入れることも選択肢の1つと言えます。キャッシュフローに問題があり手持ち資金を増やしたい場合、現在の高値での売却が期待できる間に不動産を整理するのも有効です。
市場が堅調でも、世界情勢の変化や金利政策の変更などの影響を受けて急変する可能性は否定できません。最新の動向を把握しながら最適な対策を講じましょう。
宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano
関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。
保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。