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加速する海外投資家によるスノーリゾート投資|背景と今後の展望

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加速する海外投資家によるスノーリゾート投資|背景と今後の展望

上質な雪質と豊かな自然環境を誇る日本のスノーリゾートが、海外投資家から注目を集めています。特にインバウンド需要の高まりもあり、投資ニーズは加速していると予想されます。
令和6年9月17日に国土交通省が発表した都道府県地価調査によれば、地価上昇率が著しい地点にはいくつかの共通点があることがわかりました。大企業の工場移転や進出による産業の創出・観光リゾート地の復調などがその共通点です。
とりわけ、観光リゾートにおいては、円安ドル高基調・インバウンドの復調により日本の物価に対する割安感が追い風となり、外国人向けのコンドミニアムや長期滞在型ホテルの建設などが進んでいます。
本記事では、この新たな投資トレンドの現状と今後の展望について詳しく解説します。

目次

  1. スノーリゾートが注目される背景
  2. スノーリゾートの不動産市場動向
  3. 日本のスノーリゾートの成功事例紹介
    1. 【ニセコ】世界的に成功したスノーリゾート
    2. 【白馬】オリンピック効果で成長を続けるリゾート
    3. 【妙高】エコツーリズムと持続可能な成長市場
  4. なぜ海外投資家から注目されるのか
    1. 日本の不動産市場を取り巻く環境
    2. スノーリゾート独自の特性
  5. 今後の見通しと課題
    1. インフラ整備や地域との共存
    2. 投資判断に必要な情報の整備
  6. 海外投資家が注目する日本のスノーリゾート市場の未来
スノーリゾートが注目される背景

日本のスノーリゾート地の魅力は、パウダースノーと独自文化です。世界トップクラスの上質な「パウダースノー」と、温泉やおもてなしといった日本独自の魅力的な観光資源を兼ね備え、世界各国から多くの観光客を呼び込んでいます。

また、海外投資家の投資意欲を喚起する要素が多いことも、日本のスノーリゾートが注目されるポイントです。

  • 豊かな観光資源によりスノーリゾートがオールシーズン化し、季節変動リスクが少ない
  • 地価が上昇局面にあるためキャピタルゲインを狙いやすい
  • 為替相場が円安局面にあるためインバウンド需要が底堅い

さらに、海外からのスノーアクティビティ利用者がスノーリゾートの人気を支えています。コロナ禍以降、訪日外国人観光客数は増加の一途をたどっており、インバウンド需要の拡大と取り込みは、スノーリゾートの成否を左右する重要な要素といえます。

政府の観光政策や「ニセコルール」のような地域によるブランディングの成功など、官民一体となった自助努力により、日本のスノーリゾートは観光・投資の両面においてインバウンド需要の恩恵を受けていると考えられます。

日本のスノーリゾートへの海外投資が活況なのは、訪日外国人観光客の増加と、それに伴う不動産投資額の増大が背景にあります。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年から2022年にかけて訪日外国人旅行者数は大幅に減少しました。しかし、2022年10月の入国制限緩和以降は回復傾向にあり、2023年には2,507万人に達しました。特に、台湾・中国・韓国・アメリカからの観光客が多く、訪日外国人旅行者による消費額は5兆3,065億円と過去最高を記録しています。

また、訪日体験の満足度はモノ消費のみならずコト消費にも影響を及ぼしていると考えられています。コト消費の拡大はリゾート地への訪問者数に直結します。リゾート不動産市場の活性化の一因ともいえるでしょう。

訪日外国人旅行者数の推移

出典:国土交通省「令和6年度版観光白書」より作成

日本のスノーリゾート市場は、インバウンド需要に大きく左右されます。海外からのスノーリゾート地の来場者数が増加すると地域経済が活性化して開発が進み、その結果として地価が上がるためです。

実際に日本の主要なスノーリゾート地の近年の不動産価格を見ると、ニセコや白馬は上昇傾向にあります。

国土交通省が発表した地価公示を主要なスノーリゾート地ごとにまとめると、以下のような結果でした。

所在地 令和5年 令和6年
ニセコ(倶知安-3)※1 156,000円/㎡(+3.3%) 165,000円/㎡(+5.8%)
白馬(白馬5-1)※2 17,200円/㎡(+6.2%) 22,400円/㎡(+30.2%)
妙高(妙高5-3)※3 17,700円/㎡(-1.1%) 17,600円/㎡(-0.6%)

ニセコはリゾート地として安定期に入っているといえます。それでもなお地価が上昇しているのは、国内外からの投資が活発であるほか、まだまだ伸びしろがあると考えてよいでしょう。

白馬は直近の1年で30.2%と大きく地価が上昇しました。地価自体はまだまだ安い価格であるところ、リゾート地としては黎明期にあると予想できます。今後さらなる発展が期待され、地価へも反映されるでしょう。

妙高の地価は下落傾向が続いています。すでに海外からの投資も確認されていますが、地域経済の回復には至っていないことが要因と考えられます。現状は既存の建物の老朽化や経営環境の改善など、課題が山積みであることも事実です。しかし、開発による波及効果への期待感は大きく、今後は改善すると予想されます。

※1出典:国土交通省「国土交通省地価公示(標準地) 倶知安-3」

※2出典:国土交通省「国土交通省地価公示(標準地) 白馬5-1」

※3出典:国土交通省「国土交通省地価公示(標準地) 妙高5-3」

ニセコ・白馬・妙高など、国際的な知名度を誇るリゾート地では大規模な開発プロジェクトが進行しており、今後もさらに発展することが期待されます。ここでは、国内のスノーリゾート地における成功事例を紹介します。

ニセコエリアでは、香港やオーストラリアからの投資が顕著です。香港からはPCPD社がニセコに大きなポートフォリオを有しており、ホテル2棟205室・コンドミニアム113邸・スキー施設・ゴルフ場とオールシーズン型の幅広いビジネス展開が顕著に進んでいます。

オーストラリアからはNISADE社がニセコ・ルスツ・富良野を中心に北海道で900室以上のホテルを所有しています。

投資家が保有するホテルやコンドミニアムはハイクオリティであり、国内外の富裕層に特化した商品であることが特徴です。富裕層へターゲットを絞ったことにより、観光客による消費にのみ頼るのではなく、不動産投資が地域経済の下支えとなり、ひいてはニセコブランドの差別化に繋がったと考えられます。ターゲットの選定と消費から投資への方針転換が奏功した事例といえるでしょう。

白馬エリアでは、1,000万円台から購入できる中古のリゾートマンションから、1億円を超える高級コンドミニアムまで、幅広い価格帯の物件が供給されています。

バブル期の乱開発によりホスピタリティの低下が謳われたこともありましたが、長野オリンピック開催を契機にカスタマー重視に方針を転換し、世界的なリゾート地へと発展しました。現在も新しいコンドミニアムが開発されており、ニセコに次ぐスノーリゾートとして観光客・投資家の両者から注目されています。

また、白馬はスノーシーズン以外の集客が強い点が魅力です。グリーンシーズン(閑散期)の集客を強くするため、キャンプ場の整備やシンボリックなテナントの誘致を進めました。その結果、令和5年11月から令和6年3月までの繁忙期の観光客数1,459,700人に対して、令和6年4月から9月までの閑散期の観光客数は1,111,600人と遜色ありません。

リゾート地における繁忙期と閑散期の季節変動という課題に打ち勝った希少な成功事例といえます。

※出典:白馬村 観光統計 「観光客入込状況」より

妙高エリアでは、シンガポールの投資家による2,000億円規模ともいわれるオールシーズン型のマウンテンリゾート開発計画が進んでいます。観光産業に依存している地方自治体ではインバウンド需要が非常に重要であるため、この開発計画には妙高市も賛同しています。ま開発の具体的な構想も徐々に明らかになってきました。

  • 長野駅と上越妙高駅を主要な玄関口とし、広域の集客を目指すこと
  • 二次交通の利便性向上や佐渡へのルート開拓を進め、さらなる観光客誘致を目指すこと
  • 2028年までに五つ星ホテル・高級レジデンスを含む大規模複合施設の建築が予定されていること

妙高山界隈では妙高戸隠連山国立公園が存在するため開発に制限がかかる点がデメリットですが、国内スノーリゾートの第三勢力となることはほぼ間違いないでしょう。

妙高では、2006年ごろから積極的にオーストラリアへのプロモーションを行った結果、2017年にはオーストラリア人の誘客数では白馬を超え地域ナンバーワンの地位に至ります。外国人向けの宿泊施設や飲食店の増加により、オーストラリア人のリピート率は30%を超えるようになりました。

これらは地域で外国人観光客の受け入れと真摯に向き合った成果であり、リゾート地の地域創生のヒントになる事例です。

海外の投資家が日本のスノーリゾート不動産に注目する理由は、日本の不動産市場を取り巻く環境と、スノーリゾート独自の特性にあると考えられます。ここでは、これら2つの特性について深掘りしていきます。

日本の不動産市場は、海外の不動産事情と異なる特性を有しています。日本の不動産市場に海外投資家が注目する理由は以下のようなものです。

  • 海外投資家にとってカントリーリスクが少ない
  • 世界的に希少な開かれた不動産取引
  • 円安によりキャピタルゲインが狙いやすい
  • 低金利で資金調達がしやすい

日本は政治や経済の情勢が安定しており、不動産に関する法律が整備されています。そのため、政治・経済・自然・社会環境などによるカントリーリスクが少ない点は海外投資家にとって魅力だと考えられます。

また、外国人が他国の不動産を購入するときには永住権・国籍保有・ビザの状況により制限が加わることが一般的ですが、日本ではそのような制限がありません。土地・建物ともに完全所有権の取得が可能であり、購入・売買・相続も自由に行える点は他国にはない特徴です。

そのほか、昨今の経済事情も日本の不動産投資では追い風になります。円安により相対的に安価で不動産を取得できるほか、数年という短い期間でキャピタルゲイン(売却益)を期待できる点で、海外投資家から注目されています。

さらに、海外投資家にとって日本の低い金利は収益性を高める有利な条件として捉えられています。他の国では金利が上がっているのに対し、日本は低い金利を維持しているため、不動産を購入するための借入金利が安く抑えられます。そのため、少ない資金で不動産投資を始められ、高い収益が期待できるため、多くの海外投資家が日本に注目しているのです。

スノーリゾートというミクロな視点でも、海外投資家が注目する理由を見出すことができます。

  • 多彩な投資目的があること
  • 観光資源の伸びしろがあること
  • 富裕層との相性がよいこと
  • 付加価値を期待できること

スノーリゾートは、不動産投資の対象としてだけでなく、自身で利用したり、ホテル運営を通じてブランドイメージ向上を図ったりとさまざまな用途に活用できるため、投資意欲を刺激しています。

また、スノーリゾートは、夏場の観光資源開発によって季節変動リスクの軽減が可能です。登山やサイクリングなど、ウェルネスツーリズムへの需要が高まる中、日本のスノーリゾートは多様なアクティビティの体験が可能であるため、年間を通して収益を確保できる可能性を秘めています。

そのほか、スノーリゾートと富裕層との相性が良い点も外せないポイントです。富裕層をターゲットとしたニセコの成功事例からもわかるように、ハイグレードなコンドミニアムやホテルは富裕層から愛される傾向にあるため、高単価で底堅い需要を得ることが可能です。

スノーリゾートへの投資はさまざまなテナントを誘致することによりアフタースキーの収益を得ることもできます。さらに、障碍者向けのコースを設置することでユニバーサルリゾートとしてのブランディングも可能です。このような海外のスノーリゾートで行われている取り組みを日本に取り入れることで、スノーリゾートにさらなる付加価値が加えることができるでしょう。

日本のスノーリゾート不動産は、政治・経済の安定性および税制優遇ならびに世界的に見て割安な価格といった日本の不動産市場が持つ魅力と、バケーション利用や高級な居住環境といったスノーリゾート不動産ならではの特性が相まって、海外投資家から高い注目を集めています。

特に、スノーリゾート不動産はインカムゲインとキャピタルゲインの両方を期待できる魅力的な投資対象として位置づけられています。

今後の見通しと課題

日本のスノーリゾート不動産は、今後も投資家からの注目を集め、開発が進むことが予想されます。なぜなら、まだまだ日本のリゾートには伸びしろが存在しているほか、進行中の開発案件が複数存在しているからです。

ニセコは、2030年までに不動産価格が約15%上昇すると予測されており、世界的なスキーリゾートの中でも高い成長率が期待されています。例えば、フランスのクールシュヴェルといった高級リゾート地と比較すると、ニセコの土地価格はまだ3分の1程度と割安です。今後の成長次第では同じような価格帯になる可能性も十分にあるでしょう。

また、国内外の投資家による開発も進んでいます。紹介した妙高高原での再開発計画のほか、白馬でも世界水準のマウンテンリゾートの開発計画もリリース、さらに2024年12月には新たなコンドミニアムのオープンが予定されるなど、日々新しいニュースが飛び込んできます。

スノーリゾートにおける国内外からの投資は観光客の増加を呼び起こし、地域経済に活性化をもたらします。飲食店や宿泊施設の売上向上だけでなく、地域特産品の販売や新たなサービスの創出など、地元経済全体が活性化し、雇用も創出されます。観光客による情報発信は、更なる観光客誘致につながる好循環を生み出すでしょう。

しかし、スノーリゾート開発にはまだまだ課題があることも事実です。ここでは、スノーリゾート開発における問題点や課題について解説します。

スノーリゾート開発は地域経済の活性化に貢献する一方、深刻な問題も抱えています。観光客の急増は、交通渋滞や騒音といったオーバーツーリズムを引き起こし、地域住民の生活を脅かす可能性があるのです。

また、観光客向けの施設ばかりが増え、地域住民向けのサービスが低下すると、住民の不満が高まり、地域住民が流出することにもつながるでしょう。結果として、地域全体が衰退してしまうというリスクも考えておくべきです。

このようなリスクを排除するためには、地域住民や自治体との協働が不可欠です。地域住民や自治体においては、開発を自分事として捉える意識を持つことから始め、積極的に開発に参画することが求められます。

必要に応じて地域内でだけ適用する条例やルールの設定も欠かせません。また、国レベルでは法整備や課税などの大きな政策提言を急ピッチで進める必要があります。

海外、特にアメリカの不動産投資市場と比較し、日本の市場では投資判断に必要な情報が不足しているといわれています。具体的には、投資判断に不可欠な賃貸事例や投資実績データの収集が困難です。

このような情報不足は、投資家の合理的な意思決定を阻害し、市場の透明性を損なう要因となりかねません。一方、情報が不足しているがゆえに、オフマーケットでの物件取得機会が生まれ、市場の効率性よりも収益機会を重視する投資家にとっては、むしろ魅力的な市場であるとの見方も存在します。

つまり、日本の不動産投資市場は、情報開示の不足という課題を抱えながらも、その一方で、未開拓のビジネスチャンスが潜む、いわば「情報の非対称性」が特徴的な市場であると言うことができます。

海外投資家が注目する日本のスノーリゾート市場の未来

日本のスノーリゾート市場は、海外投資家からの注目を集め、今後も開発が進むことが予想されます。投資は開発を加速させ地域経済を活性化する一方、過度な開発が環境問題や地域住民との摩擦を引き起こすことにもなりかねません。持続可能な開発と地域社会との共存が、今後の課題といえるでしょう。

また、スノーリゾートと一言でくくっても、各エリアにおける現状や課題は異なります。開発の進捗具合・近隣経済への波及状況・グリーンシーズンにおける観光資源の有無など、その状況はさまざまです。スノーリゾート開発は、単にスキー場を作るだけでなく、地域全体の発展を視野に入れた総合的な取り組みです。

インフラ整備、雇用創出、地域住民との共生など、さまざまな側面から検討し、冬だけでなく年間を通して楽しめるような魅力的な地域づくりが重要です。不動産投資としても、多角的なビジネスモデルの構築が求められます。地域住民との共存を図りながら、持続可能な発展を目指し、世界に誇るようなスノーリゾートを創出することが理想です。

海外投資家の参入により海外の成功事例が日本でも浸透し、より高品質なプロジェクトが展開していくでしょう。

宅地建物取引士
佐藤 賢一 氏
Kenichi Sato

大学卒業してから賃貸仲介・賃貸管理・売買仲介など不動産業全般に従事。専門分野は信託案件のオフィスビルや商業施設のAM・PM業務。プライム企業での業務経験を経て、現在は注文住宅会社にて不動産部門の責任者として活躍しながら、不動産に関する兼業ライターとして活躍中。