リテールマーケット動向から読み解く不動産市場~2024年上半期~
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2024年の上半期における不動産市場は、引き続き堅調に推移しました。特に中古マンションや中古戸建住宅、土地に対する需要が引き続き強く、これが市場の好調さを支える一因となっています。
しかし、不動産市場に大きな影響を与える要因も控えています。特にアメリカの利下げや日銀の複数回の利上げについては、企業の売上拡大や競争力強化、リスク管理などに影響を及ぼす可能性が高く、情報を常にアップデートすることが重要です。
この記事では、事業用不動産の戦略を練る上で重要な不動産価格の推移について、リテールマーケット動向に基づいて解説します。
目次
1. 2023年のリテールマーケット振り返り
ここでは、東急リバブルが独自に調査したリテールの売買状況に関するレポートの結果を踏まえ、2023年の不動産市場について振り返ります。
- 中古マンション、中古戸建住宅、土地の価格は一貫して上昇
- 円安や建築資材の高騰、人件費上昇が新築物件の価格を押し上げ、中古物件の需要増加
- テレワークの普及で郊外の広い物件への需要が高まり、価格上昇に寄与
- 郊外の土地価格上昇が顕著な一方、インフレ抑制による価格下落の懸念
2023年の不動産市場は、全体として価格が上昇しました。特に、円安による建築資材のコスト増加や人件費の上昇が新築物件の価格を押し上げ、その結果として比較的手頃な中古物件への需要が増加。これにより、上半期は中古マンションや中古戸建住宅の価格が大幅に上昇しました。
また、テレワークの普及により、都心から離れた郊外で広い住環境を求める動きが活発化し、郊外の物件の取引件数が増加し、価格も上昇。しかし、2023年5月に感染症法の分類が変更され、人々の都市部への回帰が進んだため、年末にかけては郊外物件の価格が一部で下落する傾向が見られました。
一方、都市部では依然として中古マンションや商業用地の需要が高く、取引も活発に行われました。特に土地価格に関しては、郊外では後半に一部で下落があったものの、都市部では引き続き高値が維持されています。
詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
関連記事:「リテールマーケット動向から読み解く不動産市場~2023年上半期~」
関連記事:「リテールマーケット動向から読み解く不動産市場~2023年下半期~」
2. 2024年上期のリテールマーケット動向
2024年上期のリテールの不動産動向をまとめると、以下の通りです。
【中古マンション】
- 東京都では中古マンションの価格が安定しており、特に堅調
- 新築マンション市場の低迷が中古マンション市場の需要を押し上げている
【中古戸建住宅】
- 東京都の中古戸建住宅市場は安定し、新築戸建住宅の供給不足が影響
- 埼玉・千葉・神奈川県での中古戸建住宅市場は、供給過多が価格下落を招く可能性
【土地】
- 東京都では㎡単価と価格が上昇し、高値圏で推移
- 埼玉県と神奈川県では価格上昇が一服し、需要と供給のバランスが崩れつつある
それぞれを詳しく見ていきましょう。
2.1. 中古マンションの平均価格はほとんどの地域で堅調に推移
まずは、中古マンション市場から探ります。東京都、埼玉県・千葉県・神奈川県の成約件数と平均金額をグラフにまとめました。
【中古マンションの成約件数と平均金額】
参照:東日本不動産流通機構「月例速報 2024(令和6)年7月度Market Watch」
グラフから東京都は2021年から2024年にかけて価格が約4,943万円から約6414万円に大幅上昇。特に2023年以降、6,000万円台に突入し、高値が続いていることが分かります。販売件数は月間1,200~2,000件で安定的に推移しており、2024年初頭は件数が再び増加に振れています。
埼玉・千葉・神奈川県については2021年の約2,656万円から2024年は3,275万円へ上昇。上昇幅は東京都ほどではないものの、安定した上昇が見られます。販売件数は月間1,000件~1,500件で推移。2023年後半に一時的に減少したものの、2024年には若干の回復傾向が見られます。
【新築分譲マンションの供給戸数と価格動向】
参照:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2024 年上半期(1~6 月)」
中古マンションの価格が堅調に推移している背景には、新築マンションの価格の高止まりが大きく影響しています。
その背景には、建築資材費や人件費の高騰があり、これがデベロッパーによる供給抑制につながりました。実際、東京都の新築マンション供給戸数は2022年上半期の6,409戸から、2023年には5,736戸へ減少しましたが、価格は6,755万円から9,286万円へと大幅に上昇しました。
その結果、新築マンションの価格高騰を受け、購入を諦めた層が中古マンション市場に流れ込む現象が見られ、2024年上半期もこの傾向が続いています。
一方、埼玉・千葉・神奈川県では、2023年に一時的に新築マンションの供給が減少したものの、2024年上半期には4,870戸と供給が回復しています。これは、都心部の価格高騰と供給減少の影響を受け、郊外エリアでの新規開発が進んでいるためです。
また、テレワークの普及や広い住環境を求めるニーズの増加が、郊外での需要を押し上げています。価格も2024年上半期には5,727万円と上昇しましたが、都心部ほどの急騰は見られません。
このような状況の中で、埼玉・千葉・神奈川県の中古マンション市場では在庫の増加が確認されており、供給が回復する新築マンション市場へのシフトが進んでいることが伺えます。中古マンション市場にとっては、在庫増加が価格下落の要因となり得るため、今後の市場動向を注視することが重要です。
首都圏全体の市場動向を踏まえると、今後の中古マンション市場では地域ごとの特性に応じた対応が必要です。東京都では、現時点で中古マンションの売却を急ぐ必要はなく、価格の安定が予想されます。
一方、埼玉県、千葉県、神奈川県では新築市場の供給増加や中古マンションの在庫増加が進んでおり、これによる価格変動リスクを考慮した柔軟な戦略が求められます。市場の動向を注視しながら、適切なタイミングでの売却判断が不可欠です。
2.2. 中古戸建住宅の平均価格は地方圏で上昇が一服
続いて、中古戸建住宅市場を見てみます。中古マンション同様に、東京都、埼玉県・千葉県・神奈川県の成約件数と平均金額をグラフにまとめました。
【中古戸建住宅の成約件数と平均金額】
参照:東日本不動産流通機構「月例速報 2024(令和6)年7月度Market Watch」
グラフから東京都は2021年から2024年にかけて上昇傾向が続いており、特に2023年以降は5,000万円台を維持。2024年3月には5,852万円と高値を記録しました。販売件数はやや変動があるものの、おおむね安定。価格上昇により、一部で需要が減少している可能性があります。
埼玉・千葉・神奈川県については価格が緩やかに上昇し、2024年は3,000万円台を維持。2021年から2024年までで約2,744万円から3,127万円へ上昇しました。販売件数は月ごとに変動していますが、全体手としては安定しています。価格が上がりつつも、需要は比較的堅調です。
参照:東日本不動産流通機構「月例速報 2024(令和6)年7月度Market Watch」
中古戸建住宅が堅調に推移している背景には、新築戸建住宅の建設コスト上昇や供給不足があります。新築住宅の価格が高止まりしているため、購入を検討していた層が比較的手頃な中古戸建住宅市場にシフトしているのです。この流れは2023年にも見られ、2024年上半期にも続いていることが確認できます。
一方、埼玉県、千葉県、神奈川県の中古戸建住宅市場では、地域ごとに異なる動きが観察されます。埼玉県では、新築住宅の供給が増加したことで需給バランスが整い、新築住宅の価格が安定してきました。
その影響で、中古住宅の需要が伸び悩み、中古戸建住宅の在庫が増加している状況です。具体的には、2022年以降埼玉県の中古戸建住宅の在庫は増加傾向にあり、2024年7月には5,502件に達しました。これは中古住宅の価格下落を招くリスクが高まっていることを示しています。
また、千葉県と神奈川県では、価格上昇が一段落し、安定した推移を見せています。新築住宅の着工件数が増加し、新築市場の需要が一定数維持されていることが要因です。その結果、一部地域では中古から新築住宅市場へのシフトが見られ、中古市場への影響が徐々に出始めています。例えば、千葉県では2024年7月時点で中古戸建住宅の在庫が4,807件に増加している点に注意が必要です。
埼玉県、千葉県、神奈川県では、中古戸建住宅の在庫が増加しており、供給過剰が価格下落のリスクを伴っています。東京都内では売却を急ぐ必要はありませんが、特に埼玉県では価格が下落傾向にあるため、売却のタイミングを慎重に見極めることが重要です。今後の市場動向に注目しながら、適切な対応を行うことが求められます。
2.3. 土地の平均価格は地方圏で上昇が一服
最後に、土地の成約件数と平均金額を見てみましょう。
【土地の成約件数と平均金額】
参照:東日本不動産流通機構「月例速報 2024(令和6)年7月度Market Watch」
東京都は2021年から2024年にかけて価格が上昇傾向にあり、2024年は6,000万円台を維持。販売件数は月ごとの変動が大きいものの、おおむね100~150件で推移しています。
埼玉・千葉・神奈川県も価格は緩やかに上昇し、2024年には2,500~2,700万円で安定。上昇は緩やかではあるものの、安定感が見られます。販売件数は300件前後で推移しつつ、月ごとのばらつきが見られます。
参照:東日本不動産流通機構「月例速報 2024(令和6)年7月度Market Watch」
東京都の土地市場では、㎡単価と価格の上昇が続いており、特に高値圏での推移が顕著です。新規登録件数(市場に出される物件数)には大きな変動はないものの、在庫が増加している中でも成約が順調に進んでおり、価格は高値を維持しています。
これは、都心部における土地需要が依然として高く、不動産市場全体が堅調であることを示しています。特に都心の再開発やインフラの充実が土地の価値を維持している要因と考えられるでしょう。
一方、埼玉県と神奈川県では、価格上昇が一服し、成約件数が減少。資料からもわかるように、埼玉県では2023年1月以降、土地の登録件数が増加傾向にあり、2024年7月には約2,867件に達しています。同様に、神奈川県でも2023年1月以降登録件数が増加し、2024年7月には3,475件です。
この登録件数の増加は在庫の増加に直結し、供給過剰が発生していることを示しています。この供給過剰の状態では、成約件数が追いつかず、在庫が増えることで価格下落のリスクが上昇。成約件数が低迷している背景には、利上げや経済不安による需要の停滞が影響している可能性があります。特に、購入者が将来の経済情勢や金利動向に慎重になっているため、成約までの期間が長引いていると考えられます。
千葉県では他の地域に比べて土地価格の上昇が続いているものの、資料に示されている通り、登録件数は2023年から2024年にかけて増加。2024年7月には3,745件に達しており、供給過剰の兆候が見え始めています。
特に価格上昇が続く中で供給過剰となると、急激な価格調整が発生するリスクが上昇しており、千葉県でも、成約件数の低迷が見られ、供給と需要のバランスが崩れつつあります。今後は需要の動向に細心の注意を払いながら、供給過剰のリスクを管理することが重要です。
埼玉県と神奈川県では、価格上昇が一服しており、今後の市場動向を慎重に見極めることが求められます。土地を売却する場合、価格が下落する可能性を考慮し、タイミングに注意が必要です。新規取得に関しては、現状の市場動向を踏まえ、リスクを最小限に抑える戦略を立てることが重要です。
3. 2024年下半期の中古マンション市場動向を考察
価格上昇が一服した不動産種別も見られる一方、2024年下半期においては、特に中古マンション市場の動向が注目されています。
土地や戸建住宅と同様に、マンション市場でも供給と需要のバランスが重要な課題となっており、今後の展開に影響を与える可能性があります。それでは、2024年下半期における中古マンション市場の動向について考察してみましょう。
3.1. 価格上昇が継続する可能性は高い
2024年下半期の中古マンション市場は、価格上昇が継続する可能性が高いと予測します。
まず、1つ目のシナリオとして、物価高が依然として続く場合、新築マンションの価格が大きく下がることは基本的にありません。そのため、中古マンション市場の価格も引き続き上昇することが考えられます。
総務省が発表している消費者物価指数の推移や為替相場の変動を分析すると、物価が高止まりしている状況が確認できます。下図に示されている消費者物価指数のデータからもわかるように物価の上昇が続いており、これにより建築資材や労働コストが高騰。このような物価高が新築物件の価格を押し上げる一方で、中古マンション市場は比較的手頃な価格が維持され、底堅い推移が期待されるでしょう。
また、2つ目のシナリオとして、金利上昇が進む中、駆け込み需要が発生し、不動産市場全体の価格がさらに上昇する可能性があります。これは過去の消費税増税時にも見られた現象であり、短期的な需要の増加が価格を押し上げる要因です。
このような上昇シナリオが現実化した場合、売却を検討している不動産所有者にとって、手持ち資金を増やす絶好のタイミングとなります。そのため、売却を1つの手段として考えることが賢明です。特に、需要が高いエリアでの売却は、最大限の利益を得るチャンスとなるでしょう。
3.2. 政策によっては価格上昇が一服する可能性も
一方、政策の変化によって価格上昇が一服し、下落に転じる可能性も十分に考えられます。
まず、1つ目のシナリオとして、金利差の縮小に伴って円高が進行することで、インフレが終息し、不動産の価格が全体的に下落することが予測されます。
インフレの終焉は、物価の低下とともに、不動産の資産価値にも影響を与えるので注意が必要です。実際に2024年の7月に高値を付けた後のドル円は下落に転じ、2024年1月の水準にまで戻りました。
次に、2つ目のシナリオでは、円高が進むことによって海外投資家が日本市場から撤退し、不動産の価格が下落するリスクがあります。円高に転じた場合、海外投資家にとって日本の不動産が円安時よりも割高に感じられます。その結果、手じまい売りが増加し、価格下落の一因となり得るのです。
さらに、3つ目のシナリオとして、新築住宅や中古住宅の在庫が増加すれば競争が激化し、価格が下落しやすくなる可能性もあります。実際、新築マンションの今後の発売予定は前年を上回る予想が出されています。下図は、首都圏における新築分譲マンションの発売予定戸数を示しており、この増加傾向が供給過剰を引き起こし、価格下落の要因となるリスクがあります。
参照:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2024 年上半期(1~6 月)」
これらの下降シナリオが現実のものとなれば、早期の売却が有利になります。買い替えを検討している場合、売却資金を活用して将来的に需要が期待できるエリアへの再投資を検討することが重要となるでしょう。
4. 市場動向を見極めて最適な不動産戦略を立てよう
2024年下半期において、不動産市場は上昇の一服が見られるものの、依然として全体的に強気です。しかしながら、市場を取り巻く環境は決して良好な条件ばかりではありません。日本の金利政策やアメリカの経済動向といったさまざまな要因が市場に影響を与えるため、慎重な判断が必要です。
特に事業用不動産においては、売上拡大や競争力強化、マーケティング戦略の最適化などのリスク管理が重要です。そのため、リテールマーケット動向を把握し、それに基づく戦略が欠かせません。市場の変動を的確に見極めることで、最適なマンション売買の計画を立て、将来的な投資価値を最大限に引き出せるでしょう。
宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano
関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。
保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。