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高齢者住宅の不動産市場|注目の背景と投資視点から見る特徴

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高齢者住宅の不動産市場|注目の背景と投資視点から見る特徴

少子化により日本の人口は減少を続けていますが、65歳以上の高齢者の人口は年々増加しています。例えば、2010年から2020年の間に総人口は1億2,806万人から1億2,615万人へと約200万人減りましたが、高齢者人口は2,948万人から3,603万人へと約650万人も増えました。高齢者が人口に占める割合も23.0%から28.6%へと増え、日本の高齢化は進んでいます。
また、今後も総人口減・高齢者人口増の流れが続くと予想されています。総務省統計局では、2030年には高齢者の割合は31.2%、2040年には35.3%になると推算しています。このことからも高齢者住宅の需要はますます高くなると考えられるでしょう。
しかし、需要はあるものの供給が十分ではないのが現状です。本記事では、市場価値の高まる高齢者住宅の概要や投資視点で見たときの特徴などを解説します。

目次

  1. 高齢者住宅とは
  2. 人生100年時代、需要と注目が集まる高齢者住宅
  3. 投資先としてのメリット・デメリット
  4. ニーズの高い高齢者住宅!投資先としても検討を

高齢者向け住宅とは、介護などのサービスが受けられる住宅や、シニア層向けの分譲マンションなどを指します。暮らし方やサービスの内容は住宅ごとに異なり、共同生活をしつつ必要に応じて家事サポート(買い物、洗濯などのサポート)を受けられたり、医療機関からの補助などが受けられたりする高齢者住宅もあります。

老人福祉法や高齢者住まい法に基づく主な高齢者住宅としては、次の種類があります。

高齢者住宅の種類 特徴
特別養護老人ホーム 要介護の高齢者向けの住宅。65歳以上であり、常時介護が必要で、なおかつ居宅において常時介護を受けることが難しいケースに対応
養護老人ホーム 環境的・経済的に困窮状態にある高齢者向けの住宅。65歳以上であり、居宅で養護を受けることが難しいケースに対応
軽費老人ホーム 低所得の高齢者向けの住宅。無料あるいは低額で食事などの日常生活に必要なものを提供する。60歳以上であり、家族による援助を受けることが難しいケースに対応
有料老人ホーム 高齢者向けの住宅。入浴や排せつなどの介護、食事の提供、洗濯や掃除などの家事サービス、健康管理のいずれかに対応している施設。年齢や要介護度に関しては各施設の基準に従う
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) 高齢者向けの住宅。状況把握サービス、生活相談サービスなどの福祉サービスを提供する施設。60歳以上あるいは要介護・要支援認定を受けている60歳未満のいずれかに該当する単身・夫婦世帯を対象とする高齢者向けの住宅。状況把握サービス、生活相談サービスなどの福祉サービスを提供する施設。60歳以上あるいは要介護・要支援認定を受けている60歳未満のいずれかに該当する単身・夫婦世帯を対象とする
認知症高齢者グループホーム 認知症の高齢者向けの共同生活住宅。入浴や排せつ、食事などの介護、日常生活の世話、機能訓練などに対応認知症の高齢者向けの共同生活住宅。入浴や排せつ、食事などの介護、日常生活の世話、機能訓練などに対応

なお、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホームは地方自治体や社会福祉法人が運営していることが多いですが、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、認知症高齢者グループホームは営利法人が運営していることが一般的です。

参考:厚生労働省「高齢者向け住まいについて」

総務省統計局によると、日本の総人口は、2022年9月15日時点の推計で1億2,471万人と前年比82万人減少しています。一方、65歳以上の高齢者人口は3,627万人で、前年比6万人増加し、過去最多を記録しました。このような高齢者人口の増加に伴い、入居可能な高齢者住宅や介護施設の不足などの問題も顕在化しています。

実際に、介護を必要としている高齢者のうち、約8割が自宅に居住して在宅介護を受けています。もちろん、希望して在宅介護を受けているケースもありますが、施設での介護を希望していても空きがなく、入居できない高齢者も少なくありません。

例えば、特別養護老人ホームは有料老人ホームと比べると費用が安価で、要介護の方であれば終身利用が可能な施設です。全国で約62.0万人が利用できますが、ほぼ満室になっているだけでなく、入居希望者がさらに32.6万人いるため、空き待ち状態の方も少なくありません。

空きはあっても、価値観やライフスタイルに合った住宅がない、必要なサービスを受けられる住宅が見つからないなどの理由により、高齢者住宅に入居できないケースもあります。例えば、家族が訪問しやすいように自宅のそばの介護施設を希望する方や、買い物や洗濯などの日常生活のサポートを受けられる施設へのニーズもあります。
今後ますます増加する高齢者人口に対応するためにも、高齢者住宅を増やすだけでなく、多様化するニーズに応えるようにすることは急務といえるでしょう。

参考:総務省統計局「1.高齢者の人口」
参考:厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」

高齢者住宅が増える中、不動産投資の対象としても注目が高まってきています。不動産投資先として高齢者住宅を選ぶことには、下記のメリットがあります。

  • 日本全国にニーズがあり空室リスクが低い
  • 付随するサービスからも収益を期待できる
  • 国や自治体の補助や優遇税制を活用できる場合もある

現役で働く世代が多い都市部も、今後は急速に高齢化が進むと考えられています。2010年から2025年の間に75歳以上の高齢者の割合が2倍に増えると予想されている都道府県もあり、高齢者住宅へのニーズもますます高まるでしょう。

また、すでに高齢化が進んでいる都市部以外の都道府県でも、さらに高齢化が進むと予想されています。これらの現状から、地域を問わず空室リスクは低いと考えられるでしょう。

都道府県 75歳以上の割合
(2010年)
75歳以上の割合
(2025年 予想)
都市部 東京都 9.4% 15.0%
愛知県 8.9% 15.9%
埼玉県 8.2% 16.8%
大阪府 9.5% 18.2%
その他地域 鹿児島県 14.9% 19.4%
山形県 15.5% 20.6%
島根県 16.6% 22.1%
全国 11.1% 18.1%

参考:厚生労働省「高齢者向け住まいについて」

高齢者住宅では、介護サービスや家事サービスなどさまざまなサービスを提供する場合があります。家賃収入以外を見込みにくい通常の賃貸住宅とは異なり、これらのサービス提供による収入も見込めます。

また、高齢者住宅を建設するときには、国や自治体の補助金制度の適用を受けられることがあるのもメリットです。補助金を受給できると建築費の自己負担額が減り、より収益性を高めることができます。

高齢者住宅を所有するときは、固定資産税や不動産取得税などの税金においても優遇措置を受けられることがあります。ただし、適用期限などは随時変更されるため、常に最新の情報を入手してください。

メリットが多くある一方で、下記のようなデメリットもあります。

  • 面積や設備に条件があるため、建設コストが高額になりやすい
  • いつまでも高齢者が増えるわけではない
  • 特殊な設備が必要な場合もあるため、他の用途に変更しにくい
  • 事業者の選定が難しい

高齢者住宅は、バリアフリーや高齢者の事故対策など、さまざまな制約があります。そのため、一般的な賃貸住宅と比べると建設コストが高額になりがちです。特に国や自治体の補助金制度の適用を受ける場合は、面接や設備に対して細かな規定があるので注意しましょう。

また、現状は高齢化が進み需要が高い状態ですが、将来的に高齢者が減少した場合は供給過多になり、生存競争が厳しくなることも予想されるでしょう。経営が思わしくないときには他の用途への変更を検討することになりますが、設備などが特殊なため、一般的な賃貸住宅として活用することは難しいかもしれません。

事業者選定が難しい点にも注意が必要です。誠実かつ明朗な経営を実施する事業者を選ばないと、口コミなどで良くない評判が広がり、経営難になることが予想されます。

不動産投資を行う際は、事前に上記のようなコストと収益をシミュレーションしておくことが大切です。次の記事では利回りの考え方について解説しているため、合わせてご参照ください。

関連記事:不動産投資における利回りとは?種類や考え方のポイントについて解説

将来的には高齢者が減る可能性はあるものの、現状はまだまだ高齢者住宅のニーズは高いと考えられます。国や自治体の補助金制度や優遇税制の適用を受けられることもあり、収益性の高い運用も可能です。不動産投資先として高齢者住宅を検討してみてはいかがでしょうか。

弁護士、宅地建物取引士、松浦綜合法律事務所代表
松浦 絢子 氏
Ayako Matsuura

京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士の資格も有している。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産・建築、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。