西日本新聞社主催不動産セミナー
【変化に挑む企業不動産の活用】これからの企業経営のカギを握る、企業不動産の活用
企画・制作/西日本新聞社メディアビジネス局
#CRE戦略
経済環境が激動する中、企業経営において不動産の活用は重要な要素の一つです。企業の成長や価値の向上を促す企業不動産(CRE)戦略を探ろうと2月20日、福岡市・天神のエルガーラホールで「変化に挑む企業不動産の活用」をテーマに不動産セミナーが開催され、経済市場展望や企業事例の紹介など、3人の講師による講演が実施されました。
企業の持続的成長に必要な不動産戦略
東急リバブル株式会社
ソリューション事業本部
営業統括部 投資営業第二部長
森 雅章 氏
1990年4月、東急リバブル株式会社に入社。同社流通部門で個人向け売買仲介営業に従事した後、2000年10月、ソリューション事業本部に異動。法人・投資家向け売買仲介営業に取り組む。14年4月から現職。九州エリアでは福岡銀行とアライアンスを組むなど福岡を中心とする顧客支援に努める。
変化しているオフィスや
社員寮のあり方
不動産戦略とは、不動産を活用して企業の価値を高めることです。資産を売却してバランスシートの改善を図ることも一つの手段ですが、昨今は不動産戦略の常識が大きく変わってきました。
一つは「オフィス」の変化です。働き方改革が進む中、通勤時間の短縮や業務効率化などをかなえるサテライトオフィスやシェアオフィスが急速に増えています。続いて、いったんは統廃合が進んだ「社員寮」の復活です。会社の枠を超え約40社の社員が入居するシェアハウスのような新スタイルの社員寮も登場しました。今の社員寮は単なる福利厚生施設でなく、社内外の交流の活性化や社員の成長を促す場へと変化し、人材確保のためのアピールにもなっています。不動産の用途を変える「コンバージョン」も注目です。近年、オフィスや商業ビルとしては競争力が弱い物件をホテルなどに転換して収益性を確保する動きが活発です。また新たな収益源を求めて「不動産投資」に乗り出す企業も増加しています。自動車離れを受けガソリンスタンド経営会社が商業施設を、少子化を見据えた学校法人がオフィスビルを取得した例もあります。
このように、不動産の役割やニーズが変わり、これまで「遊休資産」とされていた不動産が「優良資産」に変化する可能性が出てきました。今、企業は自社で所有する不動産を経営資源として見直すべき時期にあります。
企業不動産を経営資源
として見直す好機に
幅広く不動産流通事業に取り組む当社は、法人・投資家のお客さまの多様なニーズにお応えする専門部署「ソリューション事業本部」を設置し、不動産戦略を実現に導くサポートに注力しています。企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ」の視点から当社が携わった事例を紹介しましょう。
はじめに大手保険会社の事例です。建物の老朽化が進んだ物件など200カ所を超える全国の営業拠点を移転することになり、当社は専門チームを組成し、移転先の物件探索などを行いました。人的リソース、つまり「ヒト」を提供することで3年間という短期間で対象拠点全ての移転を達成しました。
「モノ」を提供したのが、地方に本社を置くあるメーカーが都心の一等地にコンセプトショップを開設した事例です。人気エリアでの出店を希望しているものの良い物件が見つからない中、当社は対象物件の幅を広げ、店舗付き賃貸マンションの取得を提案。1階を店舗に、それ以外は収益不動産として安定収入を得るプランにより、希望エリアにおける出店と共に優良資産の獲得を実現し、喜んでいただきました。
「カネ」の視点では、投資家が全国に保有していた百数十カ所の整備工場付き店舗の売却があります。地方の駅から離れたロードサイドに位置する物件で、用途の転用やリテナントが難しく、流動性が低い物件でしたが、当社は現テナントの賃貸借契約の見直しなどを講じ、収益不動産として長期間の安定性を確保。約2千社に対する営業活動を展開し、1年間で大半の物件の売却を実現しました。
このように、経営課題を解決するため、企業の不動産戦略は非常に大事な検討事項と言えます。不動産を活用する第一歩は、保有する不動産の状態や価値を正しく知ることです。しかし、不動産を活用するメリットを分かっていても、専門の部署や知識がないといった理由で実行に移せていない企業も多いのではないでしょうか。的確なソリューションを提供する専門家にアウトソーシングをするのも得策です。
2019年の経済と市場展望
株式会社武者リサーチ代表
ドイツ証券株式会社アドバイザー
ドイツ銀行東京支店アドバイザー
武者 陵司 氏
1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。88年大和総研アメリカでチーフアナリストとして米国のマクロ・ミクロ市場を調査。ドイツ証券調査部長兼チーフストラテジスト、ドイツ証券副会長を経て、2009年株式会社武者リサーチを設立。日経電子版、月間資本市場、月間投資経済など多様な紙誌に論文寄稿。
ビジネスモデル転換で
稼ぐ力が復活
株と不動産は密接に関係していて、金融政策が適切であれば株価も不動産価格も上がります。
金融面にも増して資産価格を上げる大事な要素と言えるのが稼ぐ力です。企業の稼ぐ力を表す売上高経常利益率はアベノミクスもあり、どんどん上昇し、上場企業の平均が直近で7%と過去最高。今、日本はすさまじくもうけています。それを反映し、不動産の需給も大きく改善しています。しかし、真に重要なのは史上最大となった企業の稼ぐ力が、バブル時と異なり健全で持続可能かという点です。
1990年代に日米経済摩擦が起き、米国に取って代わり日本が独占的に支配していたデジタル製品の中枢部分の製造で、日本は力を失い大打撃を受けました。しかし、2018年になり、日本の電機産業の多くは収益好調です。それはセンサーなどデジタル製品の周辺サプライの技術と品質を磨き、オンリーワンを目指す持続可能なビジネスモデルに転換し成功したからです。
現在、ハイテク産業の集積地は日本を含む北東アジアですが、中国や韓国、台湾はスマートフォンなどの製品を作るために必要な最先端の部品や機械は日本からしか買えない状態です。日本にしかない技術や品質なので、値段を下げろとも言えません。また日本の企業は海外に工場を建てて現地で人を雇い、相手の国の経済も支えながら収益を上げるという持続可能的なグローバル化モデルも確立し、順調に利益を伸ばしてきたことも大きいのです。
健全な経済成長で
不動産市況も活発化
もはやスマホ自体の市場は飽和状態ですが、これからインターネットがいろいろなモノにつながるIoTや高速大容量の5Gなど新たなエレクトロニクスの時代になってくると、ますます高い技術や品質が求められます。それは日本に有利に働く上に日本はサプライヤーなので、現場のソリューションのニーズを適切に把握して研究開発を推進できるアドバンテージもあり、ますますビジネスチャンスは膨らむでしょう。
また現在、起こっている米中貿易戦争において、日本は漁夫の利を得そうなのです。半導体製造装置の生産シェアは日本と米国でほぼ二分していますが、同装置の中国への輸出を米国は抑制したので、中国は日本から買うしかありません。また中国は電気自動車へのシフトを図りましたが、二酸化炭素を排出する石炭で主に発電を行っていることもあり、急激なEV(電気自動車)化計画の修正を余儀なくされています。
となると、中国はトヨタ自動車や日産自動車が構築しているハイブリッド車の技術を導入したい。以前と違い中国の日本車への対応は手厚くなり、同国内での日本車のシェアは増し、日中関係の変化を受け各日本企業は中国市場の獲得を目指して中国に対する投資を拡大しています。
また反日政策を緩めた中国ではメード・イン・ジャパン製品が大人気で、訪日観光客も増すばかり。今や自動車、ハイテク、消費材でも、米中貿易戦争を背景に追い風が日本に吹いているのです。
以上のようなことから日本企業が史上空前の利益を生み出していることは、明らかに健全で持続性があると言っても良いでしょう。今後、年率10%程度の株価の上昇が想定されます。今年の日経平均が2万5千円になるとすれば、2034年、新天皇が即位された15年後には日経平均で10万円に。劇的な資産価格の上昇がこれから日本で起きます。
株価が上がるので不動産の景気も相当良くなり、特にいい物件の値段は猛烈に上がる。そういう時代に入っていく可能性が高いと思われます。
福岡銀行が、なぜ東京に
コワーキングスペースを作ったか
iBankマーケティング株式会社
代表取締役
永吉 健一 氏
1972年生まれ。九州大学法学部卒業後、福岡銀行に入行。経営企画部門に在籍し2007年のふくおかフィナンシャルグループ設立業務にも注力。その後企業ブランド戦略立案や地方創生プロジェクトに関わり16年4月には自らが企画し社内ベンチャー「iBankマーケティング株式会社」を設立。
金銭的には計れない
価値を創出する空間
福岡銀行、熊本銀行、親和銀行を擁するふくおかフィナンシャルグループが設立10周年を迎えた2017年、次代に向けた事業の一つとして東京駅の近くにある自社ビルの遊休フロアを活用したコワーキングスペース「ダイアゴナルラン東京」(約900平方メートル)の運営を始めました。その背景には、それまで接する機会が乏しかった、斬新な発想や技術を持つベンチャー企業などと交わる場所を作りたかったことがあります。これからの企業は自社内での新規事業に加え、異業種と連携して新たなビジネスを創出する方策が欠かせません。
年間200回のイベント
新たなつながりを多数創出
ダイアゴナルランとは、サッカー用語で、フィールドを対角線上に横切り、水平や垂直の相手のマークを外し、攻撃のための新たなスペースを生み出す戦術のことです。自社内における新規事業を縦軸、業界の垣根を越えたオープンイノベーションを横軸に見立て、多様な人や企業や情報、IT技術などが交差することで、新たなネットワークや価値が生まれる拠点を目指して命名しました。
また各地域に基盤を持つ地方銀行のネットワークを通じて、東京と地方、地方と地方を結び付ける狙いもあります。18年には福岡市に「ダイアゴナルラン福岡」も開設し、双方合わせると、ベンチャー企業、フリーランスの方などを中心に、60を超える団体・個人の方々にご利用いただいています。
ダイアゴナルラン東京には人工芝を敷いたイベントスペースを設けており、年間約200回のイベントを開催しています。さまざまな用途でご活用いただき、来場者数は延べ1万7千人を突破しました。具体的なイベント事例としては、地方への移住を支援する「みんなの移住計画」と連携した新しい暮らし方を提案するイベント、UIJターンを希望する東京のプロフェッショナル人材と福岡の地場企業とのマッチングイベント、全国の自治体による催しなどさまざま。自主興業として朝ヨガや、各地域の出身者が集うコミュニティーなども定期的に実施しています。
オープンから2年がたち、ダイアゴナルラン東京を中心とした有機的なネットワークの形成が進んでいます。入居者やイベント参加者が交流することで、業種や地域を越えた出会いが生まれ、多くのニュービジネスが創出されています。遊休不動産を、イノベーションの共創に必要なさまざまな機能を併せ持つ「場」として活用したことで、金銭的には計れない価値を享受できたと共に、これからの広がりにさらなる期待を感じています。
※会社名、所属部署名、役職はセミナー当時のものです。