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バルクセールとは?
遊休不動産の活用方法を解説

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バルクセールとは?遊休不動産の活用方法を解説

企業が保有する不動産の中には企業活動でほとんど利用されていない、いわゆる「遊休不動産」が存在します。
中でも、売却先を見つけにくく市場での流動性が低い不動産は、毎年の管理コストが企業の負担となりがちです。加えて、こうした遊休不動産が企業の財務を圧迫することで資産を有効活用できない状態が続くと、企業の成長を阻む要因にもなり得るでしょう。
このような課題を解決する選択肢の一つに「バルクセール」があります。これは、複数の不動産を一括で売却する方法で、流動性の低い物件の売却を効率的に進められる可能性が期待できることから、注目を集めています。
本記事では、バルクセールの概要やメリット・デメリットを解説し、売却時に注意すべきポイントを詳しく見ていきます。

目次

  1. 遊休不動産とは?流動性の低い不動産を保有し続けるリスク
    1. 流動性の低い不動産とは
    2. 流動性の低い不動産を放置するリスク
  2. バルクセールとは
  3. バルクセールのメリット
  4. バルクセールのデメリット・注意点
  5. バルクセール実行時のポイント
  6. 遊休不動産を資産に変えるバルクセール戦略
遊休不動産とは?流動性の低い不動産を保有し続けるリスク

企業が保有している不動産は、需要が高く幅広い用途で利用される「流動性の高い不動産」と用途が限定され需要が限られる「流動性の低い不動産」に大きく分けられます。

このような流動性の低い不動産は、保有していても活用機会が少ない「遊休不動産」化しやすい傾向にあります。

流動性の低い不動産の特性とそれを保有し続けるリスクについて詳しく見ていきましょう。

流動性の低い不動産とは、売却や使用用途の転用が難しい不動産のことです。例えば、過疎化が進む地方に位置する旧工場跡地や倉庫は、新たなテナントを見つけるのが難しく、取り壊しや再利用にも高額なコストがかかります。また、都市部から離れた郊外にある未使用のオフィスビルは、アクセスの悪さから入居者が見込めず空きビルのままとなりやすいです。

さらに、急勾配や入り組んだ地形で開発が困難な山林、道路アクセスの乏しい森林地帯なども、企業にとっては管理負担が大きい不動産といえます。加えて、人口減少や需要低下が顕著な地域にある住宅地やアパートなども、買い手がつかず空き家のまま維持管理コストのみが発生するケースが増えています。

このような流動性の低い不動産は、需要が低いため買い手がつきにくく、売却が容易ではありません。また、利用や転用の可能性が乏しいため、維持管理や固定資産税といったコストが発生し続ける点も課題です。企業の資産管理において、こうした不動産は利益を生む可能性が低く、むしろ負担となりリスクが高いとされています。

流動性の低い不動産をそのまま放置した場合、次のようなリスクが生じ、企業経営にマイナスの影響を与えることがあります。

●管理コストの発生

不動産を維持するためには、定期的なメンテナンスや法的な管理業務などが不可欠です。これらが固定的なコストとして企業に重くのしかかり、資金や人的リソースが圧迫される原因になります。使用されていない物件でも、定期的な清掃や修繕、保険料が発生するため、企業の経営資源を消耗させます。

●不良資産化のリスク

流動性の低い不動産は、売却や転用が難しいため不良資産として企業に残りやすく、企業価値の低下を招くリスクがあります。例えば、過疎地の旧工場跡地やアクセスが悪い郊外の空きビル、再開発が困難な山林などは、買い手がつかず維持管理コストが発生し続けるケースが多いです。このような不動産は、資産管理上の大きな負担となります。

●防犯・防災・景観上のリスク

使用されていない不動産を放置していると、防犯や防災の観点からもリスクが増大します。空き地や老朽化した建物は、不法侵入や破壊行為の標的になりやすく、周辺住民に不安を与える原因です。また、災害時に建物が倒壊する恐れがあると、周辺の安全にも悪影響を及ぼします。さらに、景観を損なうことによって地域全体の評価が低下し、地域社会との関係が悪化するリスクも生じるため、総合的な防犯・防災対策が求められます。

このように、流動性の低い不動産を放置することは企業の財務リスクにとどまらず、防犯や防災、地域社会への影響にまで及びます。そのため、適切な管理や活用策の検討が欠かせません。

企業が保有する不動産の中には、売却が難しい「流動性の低い不動産」が含まれます。こうした不動産は、買い手がつきにくく、維持管理のコストがかさむため、企業の資産効率を低下させる要因となります。個別売却を試みても売れ残るリスクがあるため、企業の資産管理にとって課題となりやすいのが特徴です。

このような物件を効率的に処分する手段のひとつが「バルクセール」です。バルクセールとは、複数の物件を一括で売却する方法で、特に遊休不動産や老朽化した建物など個別売却が難しい物件を処分するために用いられています。

バルクセールとは

バルクセールでは、流動性の低い物件を流動性の高い物件と組み合わせて売却することで、通常の個別売却では買い手が見つかりにくい物件も処分できる可能性が高まります。

また、手続きが簡素化され、複数物件の処分を効率的に進めることが可能です。

このように、バルクセールは企業が不動産を効率よく処分し、資産管理を合理化するための方法として、今後の市場でも重要視されています。

バルクセールを活用することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。まず、個別売却が難しい物件もまとめて処分できるため、流動性の高い不動産と一緒に売却することで、売れ残りリスクを抑えることが可能です。

例えば、過疎化が進むエリアにある旧工場跡地やアクセスが限られる郊外の未使用ビルなど、通常では買い手がつきにくい遊休不動産も一括売却することで、不動産会社や投資家といった広範な買い手層にアプローチできます。これにより、遊休不動産や老朽化した物件が企業の資産として有効に活用され、全体の資産効率が高まるでしょう。

さらに、バルクセールを活用することで、企業は複数の不動産を一括して現金化し、早期の資金調達が可能になります。個別に不動産を売却する場合と比較し、売却プロセスが効率化されるため、より短期間で現金化できる点も大きな利点です。この短期間での現金化により、企業はキャッシュフローを迅速に改善し、次の事業投資や運営資金に回せる資金に余裕が生まれ、経営の柔軟性が向上するでしょう。

また、バルクセールは、売却手続きの一元化によって、管理負担の軽減にも寄与します。通常、個別売却では物件ごとに契約手続きや法的な処理が必要となり、事務コストが増加しますが、バルクセールではこれらの手続きを一括で行うことができるため、取引完了までの時間が短縮され、企業の管理リソースを削減できます。このような効率化により、企業は本業に集中するための時間とリソースを確保でき、事業運営にも好影響をもたらすでしょう。

バルクセールは、企業が抱える多様な不動産資産を効率的に売却し、財務改善や資産の有効活用を図るための有効な手段として、今後もその活用が期待されています。

バルクセールは、効率的な売却方法として有用である一方、いくつかのデメリットや注意すべき点も存在します。

まず、市場価値や取引可能性の制限リスクが挙げられます。バルクセールでは複数の不動産を一括で売却するため、購入する資金力を持つ買い手が限られ、一般的な個別売却に比べ買い手層が狭まる可能性があるでしょう。特に、複数物件の組み合わせや売却条件が複雑になると、取引が成立するまでに時間がかかるリスクも伴います。企業としては取引成立までの時間的リスクを考慮し、売却が長期化した場合の計画を立てておくことが重要です。こうした制約を軽減するためには、信頼できる仲介業者や専門家を活用し、潜在的な買い手に幅広くアプローチする手段を検討することが推奨されます。

次に、資産価値の低下リスクも考慮すべきです。バルクセールにおいては、複数物件をまとめて売却する性質上、価格交渉の際に割引が適用されることが一般的です。買い手が一度に大量の物件を購入するため、割引率が高くなる場合があり、個別売却に比べて不利な条件で取引が行われるリスクが高まります。また、一部の重要な物件が過小評価されることで、企業の資産構成に偏りが生じ、ポートフォリオが不均衡になる可能性もあります。このため、売却を決定する際には、ポートフォリオ全体のバランスを考慮し、売却対象とする物件の選定に十分な注意が必要です。

さらに、税務手続きに関するリスクも無視できません。バルクセールは大規模な取引となることが多いため、法人税や譲渡税など複雑な税務処理が求められます。特に適切な税務処理が行われない場合、税務上のリスクが発生し、後日追加課税が課される可能性もあります。また、一括売却によって短期間で大きな利益が発生すると、税負担が一時的に増加するリスクも生じます。利益が集中することで想定以上の税負担が発生する可能性があるため、事前に税務シミュレーションを行い、税負担を軽減する対策を検討することが大切です。専門家のサポートを受け、適切な税務計画を立てることが、こうしたリスクの回避につながります。

このように、バルクセールには多くのメリットがある一方で、買い手の制約、資産価値の低下、税務上のリスクといった注意すべきポイントも存在します。バルクセールを実施する際には、これらのデメリットを十分に理解し、リスクに対応するための準備を行うことが成功への鍵となるでしょう。

バルクセールを成功させるためには、物件の評価や買い手との交渉、税務対策や法的手続きの準備といった重要なポイントを押さえておくことが不可欠です。

まず、バルクセールの効果を最大化するためには、対象物件の適正な価値を評価することが必要です。現在の市場動向を踏まえた市場価値を見積もり、適切な価格設定を行うことで売却成功の可能性が高まります。また、物件ごとに老朽化や修繕の必要性といった状態を確認し、価格に反映させることが重要です。特に、複数物件をまとめて売却する際には、流動性の低い物件を流動性の高い物件と組み合わせることで、買い手の関心を引きやすくなり、売れ残りリスクを抑えられるでしょう。

買い手との交渉も、バルクセールにおいては重要なポイントです。複数物件を一括で売却するため、買い手に対して一括購入による割引提案を行うことで、取引が成立しやすくなります。さらに、支払い方法や取引完了までのスケジュールについても、買い手のニーズに応じて柔軟に調整することで交渉を有利に進められます。こうした契約条件の調整によって、双方にとって納得のいく取引が実現する可能性が高まるでしょう。

また、税務対策と法的手続きの準備も不可欠です。売却前に税務シミュレーションを行い、売却益に対する税負担を把握することで、税金負担がどの程度発生するかを予測し、計画的な資金運用が可能になります。さらに、税制優遇措置の確認や活用によって税負担の軽減が期待できる場合もあります。加えて、不動産売却においては、取引が各種法規制に準拠しているかを確認し、コンプライアンスの観点からも問題がないことを確認することが、法的リスクを未然に防ぐために重要です。

そして、法的手続きの準備も忘れてはなりません。バルクセールでは、所有権の移転に関わる登記や契約書の内容を事前に確認し、必要な手続きを整えることが求められます。取引がスムーズに進行するためにも、これらの手続きを事前に準備し、漏れがないよう確認しておくことが重要です。また、法的手続きの準備を万全にすることで、バルクセールの取引が安全かつスムーズに完了することが期待されます。

このように、バルクセールの実行には、物件評価から交渉、税務や法的手続きまで、慎重に準備を進めることが求められます。各ポイントをしっかり押さえることで、成功へとつなげることができるでしょう。

遊休不動産を保有したまま放置すると、毎年の管理コストや資産価値の低下が企業の経営にとって大きなリスクとなります。流動性の低い不動産は売却や転用が難しく、戦略的に活用しないと企業の成長を阻む要因にもなりかねません。こうした課題に対する一つの解決策が「バルクセール」です。

バルクセールによって、通常は売却が難しい遊休不動産でも、流動性の高い物件と組み合わせることで処分しやすくなり、企業にとって資産を効率的に処分する手段となります。また、複数の物件を一括売却することで、手続きの簡略化や売れ残りリスクの軽減、キャッシュフロー改善といったメリットが得られるでしょう。

企業が遊休不動産を有効に活用し、事業運営や成長を支えるには、バルクセールのような方法を柔軟に取り入れることが重要です。バルクセールは遊休不動産のリスクを回避し、企業の資産効率を高め、新たな経営資源を生み出す有効な戦略といえるでしょう。

宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano

関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。
保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。