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エンジニアリングレポート(ER)とは?
重要性や作成目的、項目などを解説

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エンジニアリングレポート(ER)とは?重要性や作成目的、項目などを解説

エンジニアリングレポート(ER)は、不動産取引を行うことが多い企業にとってリスクや収益性を把握・判断するうえで重要です。
企業が保有する不動産資産を最適に管理・活用してキャッシュフローの強化・改善、リスク分散などを目指すCRE戦略の観点からも、ERの作成や内容を理解することが求められています。
この記事では、不動産を適正に評価する手続きである不動産デューデリジェンスの1つのエンジニアリングレポート(ER)とは何なのか、作成目的や重要性などを解説します。

目次

  1. 不動産デューデリジェンスとは?
  2. エンジニアリングレポート(ER)とは?
    1. 建物状況調査
    2. 建物環境リスク評価
    3. 土壌汚染リスク評価
    4. 地震リスク評価
  3. エンジニアリングレポートの作成目的や重要性
    1. 不動産購入時はトラブル回避に貢献
    2. 不動産売却時には信頼性向上に役立つ
    3. 所有中は資産価値の維持・向上させるうえで重要
  4. 円滑な不動産取引や保有リスクを把握するためにも知識を深めよう
不動産デューデリジェンスとは?

エンジニアリングレポートは不動産デューデリジェンスの1つです。そのため、エンジニアリングレポートとは何かを知るには、不動産デューデリジェンスについてまず知る必要があります。

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資において投資対象の価値またはリスクを事前に調査することです。企業間におけるM&Aの用語として用いられます。

不動産デューデリジェンスは、M&Aにおける買収企業の将来性、市場価値を含む多角的な評価を不動産に適用したものです。調査項目は大きく以下の3つに分類されます。

  • 物理的調査
  • 法的調査
  • 経済的調査

不動産デューデリジェンスを行うことによって建物の状態を把握でき、建物が持つリスクを詳細に知ることで問題に対し早めに対処することが可能です。

また、劣化に対応した修繕や石綿などの除去作業、耐震補強工事などの費用が明確になり、長期の財務計画に活かすことができます。

登記簿の調査により、所有権が正しく登録されているか、抵当権や差し押さえなどの負担の有無を確認できるため、権利関係のトラブル回避にもつながります。

さらに、調査で保有する不動産の価値が分かることで、不動産を担保とした借り入れがいくらまで可能なのかおおよそ把握することが可能です。不動産をうまく活かすことができていないケースでは、転用を検討することで資産価値を高める効果も期待できるでしょう。

不動産デューデリジェンスについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:不動産デューデリジェンスとは?不動産の取引に欠かせない調査について解説

エンジニアリングレポート(ER)とは?

エンジニアリングレポートとは、不動産の物理的な現状の調査結果についてまとめられた報告書です。不動産デューデリジェンスの調査項目の1つである物理的調査がエンジニアリングレポートに該当します。

では、エンジニアリングレポートでは、具体的にどのような調査・評価が実施されるでしょうか。主な項目は以下の4つです。

  • 建物状況調査
  • 建物環境リスク評価
  • 土壌汚染リスク評価
  • 地震リスク評価

それぞれの項目を詳しく見ていきましょう。

建物の安全性や耐久性、機能性などを評価するために実施される調査です。建物状況調査を実施すれば、建物の現状を把握して必要な修繕や改修の計画を立てられるようになります。

建物の外部から目視で確認できる損傷や劣化の状況を把握する外観調査、建物の構造的な健全性を評価する構造検査、建物に設置されている各種設備の機能性と安全性を確認する設備検査などを行います。

建物状況調査を調査内容で大きく分類すると、遵法性調査、修繕更新費用、再調達価格の算定の3つに分けられます。

  • 遵法性調査
  • 修繕更新費用
  • 再調達価格の算定

以下で詳しく説明します。

2.1.1. 遵法性調査

建築基準法や都市計画法、消防法など不動産に関連する法律の適合性を調査することです。建物の使用や改修において法的な問題がないかどうかを確認し、適切な対応をするうえで重要です。

不動産に関連する法律は適宜更新されており、既存の建物が各種法律の要件を満たしていないケースも少なくありません。手続きや必要書類の履行状況を確認したうえで、書類調査・現地調査から建物の現状を把握します。

なお、この調査によって最新の法律を遵守しているかどうかが明確になります。何かしらの法的な問題が生じている場合、必要な対応策を講じることで建物の安全性と法的適合性を確保し、将来的なトラブルを回避することが可能です。

2.1.2. 修繕更新費用

不動産の機能性維持、安全性を確保するための修繕にかかる費用です。資産価値向上を目的とする改修は含みません。修繕更新費用は大きく3つに分類されます。

緊急を要する修繕更新費用 建物の安全性や機能に重大な影響を与える問題が発生しており、迅速に対応する必要がある修繕費用
短期修繕更新費用
(1年以内)
近い将来に修繕が必要となる項目に対する修繕費用
長期修繕更新費用 数年~数十年先を見据えた修繕や更新の計画に対する修繕費用

2.1.3. 再調達価格の算定

再調達価格の算定とは、既存の不動産を再調達(再建築)する場合に費用がいくらかかるか算出することです。建物の保険や資産評価、修繕計画を立案する場合に役立ちます。

なお、再調達価格には設計費や解体撤去費用、移転費用、仮事務所家賃などは含まれません。

建物が環境に与える影響や、環境が建物に及ぼすリスクを評価するための調査です。建物の持続可能性や安全性を確保し、環境への負荷を最小限に抑えるために重要です。

築年数の経過した不動産の中には、当初は合法であったものの、人体への毒性が認められて法改正で禁止された物質が使用されている建物も少なくありません。

例えば、粉塵による健康被害が発生したアスベスト、集団食中毒事件で問題視されたPCB(ポリ塩化ビニル)などが挙げられます。

適切な対処が実施されていない建物の場合は、人体への健康や環境に悪影響を及ぼすため、トラブルを回避するためにも建物環境リスクを調査することが重要です。

建物環境リスク評価では、例えば以下のような項目について調査が実施されます。

評価項目 調査対象
環境影響評価
  • 大気汚染
  • 水質汚染
  • 騒音
  • 廃棄物管理等
環境リスク評価
  • 地震リスク
  • 洪水リスク
  • 土壌汚染
  • 気候変動等

調査対象は各調査会社によって異なるため、調査を希望する項目が含まれているかどうか事前に確認してから依頼しましょう。

建設地や既存の建物周辺の土壌が汚染されているかどうかを評価し、健康や環境に対するリスクを評価する調査です。土地汚染リスク評価は以下の手順で調査されます。

  1. 事前調査
  2. 現地調査
  3. サンプル分析
  4. リスク評価
  5. 報告書作成

まず準備段階として、土地の過去の利用状況を確認して汚染の可能性がある施設や活動を特定します。その後、地域の土壌汚染に関する既存のデータや報告書を確認します。

採取した土壌や地下水サンプルを分析し、汚染物質の種類と濃度を特定した後、土壌汚染の程度と健康や環境に与える影響を評価します。報告書を確認して問題がある場合は、適切な対策を講じることで汚染による健康や環境へのリスクを回避できます。

地震リスク評価とは、地震によって対象不動産が受ける経済的な損失を調査することです。地震国である日本においては、対象不動産が地震の影響を受けて収益性を損なう可能性が考えられます。

そのため、不動産所有者は最悪の事態が発生した場合に受ける損失がどのくらいなのかを事前に把握しておくことが大切です。

地震リスク評価ではPMLで地震リスクを評価します。PMLはProbable Maximum Lossの略称で、不動産を所有している間に発生が予想される地震による最大の物的損失額または予想される最大の物的損失額の再調達価格に対する割合です。

地震リスク評価の方法は調査会社によって多少異なります。そのため、同じ建物であっても調査会社によって結果が異なる点に注意が必要です。

エンジニアリングレポートの作成目的や重要性

不動産取引では、買主や投資家が入手できる情報は限定されており、情報の不均衡が原因で売主や所有者が有利な状況になることも珍しくありません。

欠陥や遵法性といった不動産のリスクを明確にするエンジニアリングレポートは、買主や投資家が購入するかどうか判断する重要な資料となるため、不動産デューデリジェンスでは特に重要視されています。

また、エンジニアリングレポートを作成・確認することで、不動産の物理的状態や構造的な健全性、必要な修繕や改善点などが明確になります。適切な維持管理や改善策を講じれば、リスク管理やコスト管理、予算企画を立てやすくなるのでCRE戦略の点からも重要と言えます。

このようにエンジニアリングレポートを作成する目的や重要性は、不動産に対する立場で変化します。

不動産購入時、不動産売却時、所有中により異なるエンジニアリングレポートの作成目的と重要性についてもう少し掘り下げてみましょう。

不動産購入にあたり、エンジニアリングレポートを作成・確認すれば、購入予定の不動産の状態をより詳しく把握することが可能です。一般的に公開されている情報だけでは、不動産の隠れた欠陥や潜在的な問題を完全に見抜くことはできません。

エンジニアリングレポートを作成した場合、構造的な問題、老朽化した設備、アスベストや土壌汚染などの環境リスクといった不動産の隠れた欠陥や潜在的な問題が明確になります。これによって、将来的な修繕費用を見積もり、購入予算を適切に計画することが可能です。

また、不動産の実際の価値を評価するための根拠にもなるため、報告された問題点を売主に指摘して価格交渉を有利に進めることに役立ちます。

投資リスク減少につながるほか、レポートに記載された情報を金融機関に提示することで融資を受ける際の信用性の向上にもつながるでしょう。

不動産売却にあたり、エンジニアリングレポートで不動産の状態を明確にすれば透明性を確保することが可能です。

エンジニアリングレポートを通じ、備え付けの設備や実施した修繕履歴といった不動産の優れた点、改善済みの箇所を強調すれば物件の価値を正当に評価してもらいやすくなるでしょう。

信頼性の提供によって買主は安心して取引に臨めるので、売却期間の短縮や不動産の価値が適正に評価されると高価格での売却が期待できます。

また、エンジニアリングレポートの作成で指摘された問題箇所があれば、その部分を事前に修繕しておくことで交渉時の価格引き下げリスクの軽減につながるでしょう。

不動産の売却を検討していない所有中の方も、エンジニアリングレポートの結果に応じて不動産を定期的にメンテナンスすれば、資産価値の維持・向上が期待できます。

例えば、屋根または外壁の状態、配管や電気設備の劣化状況などを適切に把握することで、長期的な修繕コストを抑えることが可能です。

また、収益物件において、定期的なメンテナンスを実施することは、収益性を向上させる上で欠かせません。メンテナンスで入居者の満足度が高まれば、空室率の低下や賃料の適正化につながるでしょう。

エンジニアリングレポートは不動産の価値を正当に評価し、取引や保有に関するリスクを把握するための重要なツールとなります。

買主や売主はそれぞれがより有利な立場で取引を進めることができ、所有者は資産価値の維持・向上に役立つでしょう。

エンジニアリングレポートを作成するためには、専門的な知識が求められます。知識・経験が豊富な調査会社に依頼しましょう。

宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano

関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。
保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。