ホテルマーケットの回復を見越し東急リバブルとナインアワーズが協業
物件の価値向上を目指し提案力の強化を図る
#ホテル・宿泊事業
#対談
総合不動産流通業の東急リバブル㈱は、ホテルの売買仲介をはじめさまざまなソリューションをもってホテルビジネスに注力している。昨年からは独自の睡眠カプセルで都市生活に高品質な宿泊機能を提供する㈱ナインアワーズとの協業も始めた。今回は、東急リバブルの取締役専務執行役員ソリューション事業本部長 小室明義氏とナインアワーズの代表取締役CEO 松井隆浩氏に協業の経緯やメリットについて聞いた。
日本のホテルマーケットはまだまだ市場が広がると予測
――東急リバブルは、どのようなかたちでホテル業界と関わられているのでしょうか。
小室 ホテルの売買や賃貸の仲介、M&A、プロジェクトマネジメントなど多岐に渡っています。ホテルの規模を問わずサポートできることが特徴です。
仲介では、稼働ホテルのオーナーチェンジはもとより、リーシングを伴う売買も取り扱っていますし、リーシングのみのご相談や、セール&リースバックにも対応しています。
ホテルの物件だけではなくホテルを所有する企業ごと売却したいというケースもあり、不動産M&Aを専門に扱うチームもあります。
プロジェクトマネジメントは土地の段階から参画して投資家を集め、オペレーターの選定までトータルに手掛けています。そのほか、ホテル以外の用途への転用も含めた再有効活用など、不動産市場に精通した当社ならではの提案も行なっています。
――ホテルマーケットの現状をどのように見られていますか。
小室 コロナ禍でホテルの運営は厳しい状況でしたが、売買案件は少なかった印象です。その背景には、オーナーがアフターコロナの市場回復を見据え、レンダ―の理解を得て売却せずに済んだことなどがあるようです。昨年後半ぐらいからは市況が戻りはじめ、購入ニーズが増加し、売買案件も出始めています。特に主要都市の物件に注目が集まっており、外資ファンドのような資金を潤沢に持っているプレーヤーの投資が目立ちます。グローバルから見ても日本のホテルはまだまだ市場が広がるとの予測があるようです。
松井
コロナ禍でホテルオペレーターが冬の時代を迎える中、グローバルプレーヤーたちはホテルへの購買意欲を見せていました。一方、オーナーは売却により減損を出すと債務超過になりかねないので処理できずにいました。それが昨年10月ごろから市況が変わり、売りと買いがマッチングしてきたのでこれから売買市場は加熱すると見ています。当社へ運営を依頼される案件も3〜4倍に増えました。
ホテルマーケットは、波はありますが長期的にはずっと右肩上がりなので、このタイミングで仕込めば3年後、5年後に必ず勝者になると思います。
――両社が関わるようになった経緯についても教えていただけますか。
小室 ナインアワーズとは以前に東急不動産ホールディングスグループで取引実績があり、昨年5月から協業を始めました。ナインアワーズは一般的なビジネスホテルより効率も稼動もよく収益性が高いので、そのビジネスモデルや知見を当社の提案に取り入れたいと考えました。住宅であれば周辺の賃料相場などから利回りの水準がおおよそ決まりますが、ホテルの場合はオペレーターによって物件の評価が変わるのが特徴です。そのため当社では10年ほど前にホテル専門のチームをつくり、ホテルを単なる物件として仲介するのではなく、オペレーターまで含めてアドバイスできるよう取り組んできましたが、今後の市場回復を見据え、これまで以上に運営面への理解を深め、コンサルティングとしての役割を高めるためには、オペレーションに実績のあるナインアワーズとの連携が理想と考えました。最近は予想していた以上にプレーヤーが増え、ホテルに精通した投資家も参入していて、提案力の重要性を実感しています。
松井 協業に至った背景にはホテルの供給過剰もありました。これから市場が動き出せば、ますますオペレーターの選別が重要になるため知見を貸してほしいと。まさしく、いまそのときがきた感じです。運営スキルやリノベーションをはじめ、案件にどのような価値を付けていくかが問われていると思います。
――協業されるメリットはどこにあるのでしょうか。
小室 ホテルビジネスにはいろいろなプレーヤーが関わっており、それぞれ情報の種類が違っています。私たちはどうしても物件側からなので、オペレーター側の情報を組み合わせることで全体像が見えてくるというメリットがあり、投資家に話をするときも信用が高まります。ホテルの購入を判断するために、オペレーターの特徴や営業形態、契約方法、周辺のマーケットをどう見ていくのかなどの丁寧な説明は欠かせません。
松井 オペレーターサイドのノウハウを生かせば、購入希望者に対し、この物件にこのオペレーターをつければここまで数字を上げられる、という説得力のある提案ができます。また、物件によってはわれわれにオペレーションを任せてもらえることもあるので、そこにもメリットを感じています。
収益性の高いアセットを提案する力が必要
――ナインアワーズをオペレーターとして起用するとどのような業績が期待できますか。
ナインアワーズ中洲川端駅
松井 収支が格段に上がります。コロナ前は配置効率がよかったのでどんどん出店が決まり、売却をしたときにも大きな利益を上げられています。それが人づてに広がってビジネスが拡大していきました。
例えばオフィスビルを改装して1階はコンビニエンスストア、2〜4階をナインアワーズ、5階から上をオフィスにするというのも効果的です。賃貸の入りづらい上階に入るのが基本方針で150室、300坪というプランもあります。倉庫をコンバージョンしたケースもあり、端切れや細長く使いづらい土地などにも向いています。
コロナ前は3〜4割がインバウンド客で、日本のエンターテインメントとして当社の睡眠カプセルをインスタに投稿される方も多くいました。宇宙船の中のような雰囲気がめずらしいようです。安くきれいなところに泊まりたいというニーズから、女性用が先に売れるのも特徴です。
小室 通常、ホテルは躯体から設計しますが、ナインアワーズならフィルインで作ることができます。不動産の活用方法としてはとてもフレキシブルで、スペースの有効活用の面からもおすすめできます。占有稼働の面でも利益率が高い用途になると思います。
――今後の展望についてお聞かせいただけますか。
小室 日本のホテルマーケットは急激にグローバル化しており、開発側もいろいろなプレーヤーと組むことを念頭に考えなければなりません。以前、投資対象になるアセットはオフィスや賃貸マンションなどが中心でしたが、現在は多様化しています。私たち仲介の立場でも立地に対して一番収益性の高いアセットを提案する力が必要になってきています。オフィスやマンションをそのまま売買するよりも、ホテルへコンバージョンするほうが有効な場合もあります。ナインアワーズに協力いただき、バリューを上げて売却などができれば、仲介ビジネスの幅も広がるでしょう。ナインアワーズは非常に心強いパートナーだと思います。
松井 ホテルはこれまでの100年間、あまり進化していないと感じています。私としてはヘルスケアとの融合のような新しい付加価値をつくりたいと考えています。ナインアワーズでは、睡眠カプセルの中に赤外線カメラ、音声、心拍・呼気を測る体動センサーを設置して睡眠時無呼吸症候群や心筋梗塞の予兆を調べることもできます。これに注目したあるIT企業は、ナインアワーズの開業を検討するかたわら、ゆくゆくはオンライン診療などにもつなげられるのではないかと自社ビルで実証実験をされているそうです。
東急リバブルは、ヘルスケアやスポーツとの融合など幅広いソリューションを持ってお客さまに提案できる立場なので、さまざまな側面から協業していけたらと考えています。
※本記事は週刊ホテルレストラン2023年4月14日号掲載の記事からの転載です。
※会社名、所属部署名、役職はインタビュー当時のものです。