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圧縮記帳とは?|事業用不動産の買換え特例のメリット・デメリット

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圧縮記帳とは?|事業用不動産の買換え特例のメリット・デメリット

法人が不動産を売却し、さらに事業に用いる不動産を購入する場合には「買換え特例」の適用を受けられます。
この特例によって、買換えた不動産の価格と売却した不動産の売却益を、実際よりも少なく記帳することができます。特例には法人税の一部を繰り延べできるメリットがある一方、将来的なデメリットもあるので適用する際には十分な検討が必要です。
本記事では、「買換え特例」で行う「圧縮記帳」の方法と、知っておきたいメリット・デメリットを解説します。

目次

  1. 買換え特例の圧縮記帳とは何か?
  2. 買換え特例の適用条件
    1. 売却する不動産の条件
    2. 購入する不動産の条件
    3. 圧縮限度割合
    4. 特例適用のための届出期間
  3. 圧縮記帳の方法
  4. 買換え特例のメリット・デメリット
    1. 買換え特例のメリット
    2. 買換え特例のデメリット
  5. 不動産買換え特例はデメリットも慎重に検討
買換え特例の圧縮記帳とは何か?

法人が不動産を売却し新たに不動産を購入する買換えでは、一定の要件を満たしていると「買換え特例」を適用できます。

「買換え特例」とは、購入する不動産価格を「圧縮記帳」して、売却により得た所得を減額できる制度です。

「圧縮記帳」とは、購入する不動産価格を定められた範囲内で減額し帳簿価格とする方法を言います。

圧縮できる範囲を「圧縮限度額」と言いますが、売却不動産と購入不動産の所在地により限度額が異なります。

「圧縮限度額」が売却による所得を算出するさいの損金として計上できるため、課税所得が大幅に減額できるわけです。

買換え特例の適用条件

買換え特例の適用を受けるには、売却する不動産と購入する不動産の条件が、法人税法で定める一定の要件に適合していなければなりません。

以下では、売却・購入する不動産の条件の概要と、圧縮限度額を計算するための「圧縮限度割合」、さらに特例適用の届出期間について解説します。

圧縮記帳による買換え特例を受けるには、主に以下の項目で解説する条件を満たしている必要があります。この特例が適用できるのは、令和8年3月31日までの売却です。

1.所有期間

売却した年の1月1日時点で10年を超えていること

2.種類

国内にある不動産が対象、購入目的は販売用の棚卸資産ではないこと

3.所有権移転の原因

贈与、交換、出資、現物分配、代物弁済ではなく、さらに合併や分割による移転ではない

4.売却の原因

土地収用法等による収用・買取・換地処分や権利変換等には該当しない

一方で購入する不動産の条件としては、次の内容に該当することが必要です。

1.購入目的

取得後1年以内に事業用として使用するか、使用する見込みのある土地や建物または構築物であること

2.購入時期

不動産を売却した同一年度中に取得することが原則、また前年度および翌年度の取得も該当、ただしやむを得ない事情がある場合は税務署が認定した期間内とする

3.土地の面積

土地については300m2以上であり、かつ売却不動産の土地面積の5倍以内とするが、5倍を超える場合には5倍までが特例の適用となり、超えた分は特例の対象外

4.土地の用途

福利厚生施設を除いた特定施設(事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設)の敷地として使用されるもの(特定施設の事業上必要な駐車場の敷地を含む)

5.取得の原因

原因や方法が、合併、分割、贈与、交換、出資、現物分配、代物弁済、所有権移転外リース取引には該当しない「購入」である

圧縮記帳は圧縮限度額を計算しその結果に基づき行います。圧縮限度額を計算する式は以下の通りです。

圧縮限度額 = 圧縮基礎取得額 ×
差益割合 × 圧縮限度割合

「圧縮限度割合」は、原則8割で計算します。ただし、地域により割合は異なっており、売却する不動産と購入する不動産の所在地により次のように定められています。

なお、集中地域は地域再生法で定める区域をさします。

売却不動産の所在地 購入不動産の所在地 備考 圧縮限度割合
原則 80%
集中地域以外 東京23区 70%
集中地域以外 東京23区 本店又は主たる事務所の移転を伴う 60%
集中地域以外 集中地域内(東京23区除く) 75%
東京23区 集中地域以外 本店又は主たる事務所の移転を伴う 90%

東京23区の不動産購入は圧縮割合を低くし、売却は逆に高くするなど、東京一極集中を避け、できるだけ地方分散を促進させる政策意図があると思われます。

買換え特例が適用できるのは、売却した同一年度に買換え不動産を購入することが原則です。

また特例適用には届出が必要であり、年度中の特例適用には届出の提出期限があります。

届出提出の期限は、売却日または購入日のどちらか早い日が属する四半期末の翌日から2か月以内となっており、12月決算の法人であれば以下が届出期限となります。

売却か購入の早い日が属する月 届出期限
1~3月 5月末
4~6月 8月末
7~9月 11月末
10~12月 翌2月末

届出書に記載する内容は、以下の通りです。

  • 特例適用を受けたいとの要望
  • 適用を受けようとする措置の内容
  • 購入予定不動産または売却予定不動産の種類

売却または購入した後、届出期間内に買換えが完了しない場合は「予定」と記載する点に注意が必要です。

ここでは、圧縮記帳の方法を具体例に基づき解説します。

【具体例の条件設定】

  • 売却不動産の価格:5億円(土地)
  • 売却不動産の簿価:1億円(土地)
  • 売却費用:2千万円
  • 購入不動産価格:6億円(土地:4億円、建物:2億円)
  • 圧縮限度割合:80%

圧縮記帳を行うには次の3つのステップで行います。

  1. 圧縮限度額の算出
  2. 不動産の売却による課税所得の算出
  3. 購入した不動産の簿価の算出

【圧縮限度額の算出】

圧縮限度額は以下の式で算出します。

圧縮限度額 = 圧縮基礎取得額 ×
差益割合 × 圧縮限度割合
  • 圧縮基礎取得額は、売却不動産価格と購入不動産価格のいずれか低い金額と租税特別措置法で定められているため5億円
  • 差益割合は売却不動産価格に対する売却益の割合を言い0.76
    (計算式=(5億円-(1億円+2千万円))÷5億円=0.76)

以上に基づき、圧縮限度割合は80%と設定したため、圧縮限度額は次の結果となります。

圧縮限度額
5億円 × 0.76 × 0.8 =
3億400万円

【課税所得の算出】

不動産売却による課税所得は以下の式で算出します。

法人課税所得 = 売却不動産価格 -
( 売却不動産簿価 + 売却費用 +
圧縮限度額 )

圧縮限度額が損金として算入できるところがポイントです。具体的な数値を入れて計算すると以下の結果となります。

法人課税所得
5億円 - ( 1億円 + 2千万円 +
3億400万円 )= 7,600万円

圧縮記帳を適用しない場合の所得は3億8千万円となるので、圧縮記帳による課税所得減少効果は80%となります。

【不動産の簿価の算出】

購入した不動産の簿価は、土地と建物とで計算方法が異なるため区分して算出します。

なお、将来の売却時においては、実際の購入価格ではなく圧縮後の簿価が土地の取得費となり、建物については圧縮後の建物価格から減価償却することになります。

[土地の簿価]

土地の購入価格から土地分の圧縮限度額を差引き算出します。

土地の簿価 = 4億円 - 4億円 ×
0.76 × 0.8 = 1億5,680万円

[建物の簿価]

建物の購入価格から建物分の圧縮限度額を差引き計算します。ただし、建物の圧縮限度額は建物の購入価格で計算せず、圧縮基礎取得額から土地購入価格を差引いた価格を建物購入価格とみなし、差益割合と圧縮限度割合を乗じて計算します。

2億円 - 1億円※ × 0.76 × 0.8 =
1億3,920万円

(※圧縮基礎取得額:
5億円-土地購入価格:4億円=1億円)

以上のように購入した不動産は、6億円から2億9,600万円まで圧縮され、建物については上記の1億3,920万円が購入時の簿価となり、その後毎年度減価償却していきます。

法人不動産を対象とする買換え特例は、メリットが大きく適用を検討する機会は多いと思いますが、デメリットもあるので十分な検討を行ったうえで判断することが望ましいです。

ここでは判断材料となるよう、買換え特例のメリット・デメリットを解説します。

法人が不動産を買換える目的としては、次のようなシーンが考えられます。

  • 事業を拡大させるため、現状の不動産を売却し規模の大きな不動産を取得する
  • 事業を終了させ異なる分野の事業に転換するため、現状の不動産を売却し新分野に適した不動産を取得する

いずれの場合も不動産を売却した資金により買換え不動産を購入しますが、不動産の売却により売却益が発生した場合は法人税の課税対象です。

法人税が大きな負担となると、買換え不動産の購入資金や事業展開に必要な資金計画に影響がでます。

このような場合に「買換え特例」による資金面でのメリットを活用することができます。

買換え特例は、売却により発生した法人所得を、将来、買換え不動産の売却をする時点まで繰り延べすることができる特例です。売却による売却益を圧縮し課税額を軽減できるので、不動産の購入資金や事業資金に充当するなど手元資金を潤沢にすることが可能です。

購入にあたって資金が増加することにより、買換え用不動産の選択肢が広がります。不動産の規模を大きくすることもでき、より有利な立地条件の物件を購入も可能になります。

買換え特例により圧縮記帳した場合、買換えた不動産価格の簿価は実際の価格よりもかなり低くなります。そのため、将来、買換えた不動産を売却する時には取得費が少ないため、課税対象の所得額が圧縮しない場合と比較し大きくなります。

つまり法人税額が大きくなり、将来の売却時における財務内容によっては税負担が重くなる場合があります。

また売却時だけのデメリットだけではなく、買換え不動産購入後の毎期の決算において、建物減価償却費が圧縮記帳しない場合に比べ小さく、課税所得が増加することも税負担を重くする要因となります。

減価償却費が本来よりも少ないことは、事業ごとの経営分析をする場合、利益率が実際よりも低下してしまうため、正確な判断が難しいといった一面もあるでしょう。

法人が保有する事業用不動産の買換え特例とは、不動産を売却した益金から一定額を損金処理し、法人課税額を先送りするものです。

買換え時点での法人課税額が低減できる一方で、将来の税負担の増加など事業ごとに生じる影響を考慮する必要があります。

たとえば、買換え不動産を活用する事業が成長に長期間を必要とする場合は、買換え特例を使わず売却益に対する法人税は一括納税し、新規事業の税負担を軽減するといった考え方もあるでしょう。

このように買換え特例の適用については慎重な検討が必要であり、専門家に相談することが重要となるでしょう。

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。