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リテールマーケット動向から読み解く不動産市場~2023年上半期~

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リテールマーケット動向から読み解く不動産市場~2023年上半期~

過去の不動産バブル崩壊では、1986年から1991年までの5年で129,200円だった地価が2倍以上の306,500円になりました。
しかし、その後2006年の下落、2007年の上昇を経て、2008年のリーマンショックにより126,900円だった地価は2009年には120,200円と下落に転じました。
過去の苦い経験を踏まえると、昨今の不動産価格の上昇に「もう一度大きな下落が来る」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
万が一の事態に備える、不動産の管理を適切に行うには、日々変動する不動産市場の状況を把握した上で、最善の手段・タイミングを探ることが大切です。
この記事では、企業が所有する不動産の管理を適切に行う上で重要な不動産価格の推移をリテールマーケット動向に基づきながら解説します。

目次

  1. 企業に求められるCRE戦略とは
  2. 首都圏の中古マンションの価格は右肩上がりに推移
  3. 首都圏の中古住宅の価格は郊外で順調に推移
  4. 首都圏の土地の価格は地域による差が大きい
  5. リテールマーケットからも保有不動産のCRE戦略を練ることが重要

事業や投資用目的などで不動産を所有している企業も少なくありません。しかし、不動産を所有するということは購入コストや維持管理費などが生じるため、それらを抑え、さらに有効活用するための対策が必要となります。そこで重要なのがCRE戦略です。

CRE戦略とは、企業が保有または賃貸している不動産を経営的戦略に立って見直すことで企業価値の向上を図るための戦略です。適切なCRE戦略を行うことで、不動産の維持費の削減やキャッシュフローの改善、リスク分散などのメリットを享受できます。

有効なCRE戦略を練るためには、業績や必要性などを踏まえることが大切です。さらに、市場の状況を正しく把握することも大切なので、リテールマーケット動向もチェックしておきましょう。

東急リバブルが独自で調査したリテールの売買状況に関するレポートから中古マンションの価格動向を探ります。

【東京23区】

【東京都】

【埼玉・千葉・神奈川県】

出典:財団法人東日本不動産流通機構成約データより作成

各地域の直近5年間の4月の平均金額を見ると、2020年4月のみ下落していますが、他は右肩上がりに上昇しています。2020年4月のみ下落している原因として挙げられるのは、2019年末に発見された新型コロナウイルスの影響を受けたためです。2019年末から4月の数ヶ月間は価格が下落しているほか、前年同月比が各地域マイナス70%を超えているため、影響の大きさが見て取れるでしょう。

中古マンション価格が上昇傾向にある背景には、新築マンションの価格高騰が要因として挙げられます。不動産経済研究所が実施した調査結果を見てみましょう。

出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2022年度(2022年4月~2023年3月)」

表からは、地区別の価格が年々上昇していることが分かります。新築価格が高すぎる場合、新築購入のハードルが高くなるため、安価に取得できる中古需要が高まるので中古住宅の価格が上昇するという流れです。新築マンションの価格上昇要因として、新築マンションの供給戸数の減少、円安による建築資材の高騰、人件費の上昇などが挙げられます。

中古マンション価格が上昇した背景には、他にも円安が海外資本の流入を促進したことで、投資用として中古マンションを購入する流れを強めたことも影響しているでしょう。

また、金融緩和で住宅ローンの金利の低い状況が続いており、個人が不動産を購入しやすい条件が整っていることも要因の1つです。また、地価の上昇は中古マンションの価格や居住用不動産の価格を上昇させることにつながります。

しかし、今後価格の上昇が続くとは限りません。成約件数が低く推移していることに加え、平均金額の伸びが鈍化しているためです。使用していない不動産がある場合は、これを機に売却を視野に入れるのも良いでしょう。

例えば、社宅用として中古マンションを所有しているものの使用していない場合、物件価格高騰で高く売れる可能性があるため、売却するのも選択肢の1つです。売却すれば、手持ち資金が増えるため、キャッシュフローの安定を図ることが可能です。

また、物件価格高騰によって賃貸需要が高まっていることも予想されるため、貸し出すことで家賃収入による業績寄与が期待できるでしょう。

コロナ禍でテレワークを導入する企業が増えた影響もあり、同価格帯で広い住まいが手に入る郊外の中古マンションの需要が高まりました。しかし、ポストコロナの状況下では都心回帰の可能性もあるため、すぐ行動に移せるようにCRE戦略を考えておきましょう。

続いて中古住宅の価格動向を探ります。

【東京23区】

【東京都】

【埼玉・千葉・神奈川県】

出典:財団法人東日本不動産流通機構成約データより作成

中古住宅は中古マンションと同様に、2020年4月の価格下落が目立ちますが、新型コロナウイルスの影響を受けての下落です。前年同月比の下落幅は中古マンションよりも大きく、成約件数も首都圏は80%超の下落となっており、影響の大きさが見て取れるでしょう。エリア別では、埼玉・千葉・神奈川県は東京よりもコロナショックの影響が小さく、2023年4月も順調に価格を伸ばしました。

価格上昇の要因として、ウィズコロナで郊外の需要が高まったことが挙げられます。感染拡大を防止するためにテレワークを導入する企業が増えた結果、通勤に便利な場所に住む必要がなくなりました。郊外は都心よりも物件価格が低いので住居費を抑えられる、同価格帯で都心よりも広く、築年数が浅い住宅が手に入るなどの理由で郊外を選択する方が増えたことが影響していると言えるでしょう。

その後、中古住宅の価格は上昇傾向にありますが、その背景として新築住宅の価格高騰が挙げられます。東日本レインズの調査結果を見ていきましょう。

【新築戸建て新規登録件数】

【新築戸建て価格】

出典:東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2022年)」

表からは、首都圏の新築住宅価格が上昇していることが分かります。中古マンションと同様、新築価格が高すぎると、新築購入のハードルが高くなるため、安価に取得できる中古需要が高まることで、中古住宅の価格が上昇するという流れです。新築住宅価格上昇の背景には、新築住宅の供給戸数の減少、住宅の建築に必要な木材価格の高騰、円安で建築資材が高騰、人件費の上昇などが挙げられます。

地価の上昇も要因と考えられますが、中古マンションのほうが中古住宅よりも立地条件が良い場合が多いため、地価の影響は中古マンションほどではないと言えるでしょう。また、投資用という観点からは中古マンションは円安による海外資本の流入の影響で価格上昇が期待できました。

しかし、中古住宅は中古マンションのように投資用としての需要があまり高くないため、影響はほとんど受けないでしょう。そのため、価格の底堅さはあるものの、大幅な上昇は期待できないと考えられます。

しかし、中古マンションのケースと同様、成約件数の低迷、平均金額の伸びの鈍化、都心回帰の可能性が背景にあるということを忘れてはなりません。

社宅用などで使用していない中古戸建住宅を所有している場合、賃貸需要は期待しにくいため、売却して事業資金を確保したほうが良いと考えます。もし賃貸物件として運用する場合は、シェアハウスとしての運用、解体してアパートを再築するといった需要の期待できる運用方法への変更検討が得策です。

千葉・埼玉・神奈川県の価格上昇の要因が立地条件の良い中古マンションからの住み替えやウィズコロナでの住み替えによる影響が大きい場合、都心回帰が生じると価格が一気に下落する可能性があるので注意が必要です。CRE戦略を誤ると、事業資金を減らす可能性もあるため、売却して現金を増やすか、運用して収益を増やすのか、しっかりCRE戦略を練りましょう。

続いて土地の価格動向を探ります。

【東京23区】

【東京都】

【埼玉・千葉・神奈川県】

出典:財団法人東日本不動産流通機構成約データより作成

土地も、平均価格、成約件数ともに2020年4月は前年同月比よりも大幅に下がっており、新型コロナウイルスの影響が大きかったことが分かります。エリア別では、中古住宅と同様、埼玉・千葉・神奈川県は東京よりもコロナショックの影響が小さく、2023年4月も順調に価格を伸ばしました。テレワークが普及したコロナ禍では、通勤の便にこだわる必要がなく、価格や快適性などが重視される傾向にあります。そのため、都心よりも地価が安い郊外は、コストを抑えられる、同価格帯で広大な敷地が手に入るなどの理由から地価が上昇したと考えられるでしょう。

また、コロナショック後は堅調に推移している要因として、景気回復や景気拡大を期待した先行投資なども考えられます。

【2020年~2022年】

2020 2021 2022
実質 -4.1 2.6 1.4
名目 -3.5 2.4 2

出典:内閣府「国民経済計算(GDP統計)年次GDP」

内閣府が毎年公表している国民経済計算では、2020年は前年よりも数値が下落しましたが、2021年と2022年は上昇しています。コロナショックから立ち直りつつあることが地価の上昇要因につながっていると言えます。また、景気拡大に転じた場合、不動産価格の上昇や需要が拡大するため、それに向けた先行投資も価格上昇に影響を及ぼしているでしょう。

土地の価格高騰は事業用のビルやマンションにも影響するため、それを踏まえたうえでCRE戦略を行う必要があります。都心回帰が起きた場合は、都心の価格上昇、郊外の価格下落となる可能性があるため、郊外の土地を所有している場合は不動産市場の動向を注視し、状況に応じて速やかに行動に移す必要があるでしょう。

また、資材価格の高騰で新築需要よりも中古需要が高まっていることを踏まえると、更地を持っていてもしばらくは需要が低い可能性があります。売却してもすぐに現金化できないケースも予想されるので注意が必要です。

社有資産や遊休資産として土地を所有している場合には、固定資産税の負担を軽減するために土地を売却するのも選択肢の1つです。土地をそのまま貸し出す場合には、収益が少ないものの、投資を必要としないので運用リスクを抑えられます。本格的な運用を検討している場合は、どのような需要が期待できる土地なのかをしっかりと調査し、運用リスクを抑えることを心がけながらCRE戦略を立てましょう。

中古マンション、中古住宅、地価ともに直近の価格は右肩上がりに推移しています。円安、金融緩和の継続(低金利)、新築価格の上昇などの価格上昇要因が揃っているため、今後も上昇する可能性が高いと言えるでしょう。

しかし、円安がいつまでも続くとは限りません。アメリカはインフレ対策として政策金利の引き上げに舵を切っており、日本も物価が上昇するインフレ状態にあるため、同様に金利を引き上げる可能性があります。また、円高に振れた際も外国人投資家たちの利益確定売りを引き起こし、価格が下落に転じる可能性があるので注意してください。

企業不動産を有効活用できていない場合、無駄な維持費の発生によって事業資金を減らす恐れがあります。不動産の維持費の削減、キャッシュフローの改善、リスク分散の観点から、CRE戦略を立てて企業価値の向上を図ることが大切です。

適切なCRE戦略を立てるには、リテールマーケットレポートから不動産市場がどのような状況にあるのか読み解き把握し、最善の手段やタイミングを計ることが大切です。戦略に悩んだ場合は、不動産会社に相談しながら企業にとって最適なCRE戦略が何なのか探っていきましょう。

宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano

関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。