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「改正リース会計基準」の草案公表により2026年強制適用はあるのか?今すべき準備と改正による影響は?

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「改正リース会計基準」の草案公表により2026年強制適用はあるのか?今すべき準備と改正による影響は?

企業の財務内容を開示するにあたって作成する財務諸表は、統一したルールにもとづき記載することが望ましく、上場企業や大企業には「会計基準」にしたがった財務諸表の作成が義務付けされています。
企業会計基準委員会(ASBJ)は「リース会計」の基準について改正を検討してきましたが、2023年5月2日にその改正内容の草案を公表しました。草案の公表は企業などから広くコメントを募集し、改正するリース会計基準を最終的に取りまとめるためのものです。
これにより改正基準「強制適用」の準備がスタートを切りました。正式な改正基準の公表は2024年春頃と予想されます。2026年には適用される可能性があり、それまでに企業がすべき準備について解説します。

目次

  1. 現行リース会計基準の問題点
  2. リース会計基準の改正
  3. 改正リース会計基準の強制適用
    1. 企業が強制適用までにすべき準備
  4. リース会計基準の改正による影響

「リース取引」とは建物や設備を保有せず長期間にわたり借り受け、毎月その賃料を支払う契約を言いますが、リース取引に係わる会計処理にはルールがあります。

日本においては1993年にリース取引に係わる会計基準が成立していますが、海外の会計基準との整合性を図るため見直しが行われ、2019年に改訂された基準が現行基準となっています。

2023年5月2日に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した「企業会計基準公開草案第73号 リースに関する会計基準(案)」は、現行基準をさらに改正し国際財務報告基準(IFRS)との整合性を高めたものになっています。

現行基準は海外の会計基準との整合性を図っているとは言え、一部に日本特有の基準が残っています。

海外の基準では、リースの借手側はリース取引について貸借対照表に「リース資産・リース負債」として記載するルールとなっていますが、日本ではリース取引を賃貸借契約とみなす例外規定があります。

しかもほとんどのリース取引がこの例外規定を準用、リース料を損金処理する会計処理が行われており、国際財務報告基準との乖離が指摘されていました。
しかし、国際基準との乖離をつづけることが難しい環境の中、今回「改正リース会計基準」の強制適用により、リース会計基準を含めた日本の会計基準を国際基準に整合させる流れとなったのです。

参考:日本公認会計士協会「IFRSの基礎知識」(日本の状況)

現行基準と改正基準案の違いは多岐にわたり、非常に複雑なものとなっています。その違いは企業会計基準委員会(ASBJ)が改正基準案と同時に公表した、企業会計基準第 13 号等との比較表で把握できます。

会計・経理の専門家でなければなかなか理解できないものになっていますが、今回の改正基準案の概要を把握するため、上記比較表から重要な部分について紹介します。

現行基準では、基準の適用範囲をリース取引の「会計処理」についてとしていますが、改正案では「会計処理」に加えて「開示」についてのルールとしています。

つまり、リース取引の内容が貸借対照表に記載され一般に開示されるため、会計処理の方法が企業によって異なることがあってはなりません。そのための改正であることを意味しています。

すべてのリース取引が貸借対照表に記載することになるので、現行基準にあった「使用料」という用語の定義はなくなり、リース料は「権利移転に対する対価」とみなすことになります。

このように用語の定義から変更することにより、基準全体が「すべてのリースを貸借対照表に記載する」ルールへの改正になっています。
その他改正された文言は会計基準の広範囲にわたります。時間の許す方は「企業会計基準第 13 号等との比較」を参照してください。

改正されるリース会計基準(案)および現行基準との比較表の後半には「結論の背景」が記載されており、その前段である「本会計基準の公表」において、改正基準案の基本的な考え方と背景が述べられています。

その中では「借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する会計基準の開発に着手することとした」と、今回の改正基準案の重要ポイントを謳っています。

つまり、今回の改正の目的は「すべてのリースについて、借手側はリース資産とリース負債を貸借対照表に記載する」ための細かな基準の整合性を図るものと言えるでしょう。

これまでの日本におけるリース取引の多くは、賃貸借取引に準じた会計処理になっていると言われます。例をあげると下記のような仕訳が典型的です。

【リース料支払い時】

借方 貸方
リース料 普通預金

今回のリース会計基準の改正により、原則的にはすべてのリース取引は貸借対照表においてリース資産およびリース負債として記載することになります。今後、上記の賃貸借取引として処理していた会計処理は、下記のように仕訳されます。

【リース契約時】

借方 貸方
リース資産 リース負債

【リース料支払い時】

借方 貸方
リース負債
支払利息
普通預金

【決算時】

借方 貸方
減価償却費 減価償却累計額

このため、賃貸借取引の会計処理よりも貸借対照表の上では「資産・負債」が増加します。資産の増加は自己資本比率を減少させ、負債比率が高まるといった財務諸表上の変化が生じてしまいます。

また、これまではリース料として損金処理できていた費用は、支払利息と当期の減価償却費となり損金処理できる費用が減少することになります。

さらにリース会計基準の改正により影響を受けるのは、建物の賃貸借取引などこれまでは「リース取引」と認識されていない取引にも及び、企業は大きな影響を受けると言えるでしょう。

「改企業会計基準公開草案第 73 号」の「結論の背景(会計処理)」において、建物の賃貸借取引などに関する記述があります。

そこでは『事務所等の不動産賃貸借契約、賃貸用住宅事業のためのサブリ―ス契約などについて、リースの会計処理を行わないことは国際的な会計基準の取扱いと乖離する』と指摘しており、今回の改正リース会計基準の適用により、これらの建物賃貸借取引も売買取引に準じる会計処理を行うことにしたと説明しています。
これまでリース取引は、情報通信設備・ソフトウェア・輸送用機器・産業工作機器などにおいて多く利用されていました。

情報通信設備やソフトウェアに関してはあらゆる業種が該当し、次いで運輸業や製造業が該当していたと考えられますが、今後はほぼすべての企業における「自動車リース」「事務所の賃貸借」が適用されます。さらに、不動産業においては「サブリース事業・リースバック事業」が適用を受けることになります。

出典:企業会計基準委員会「改企業会計基準公開草案第 73 号」

改正リース会計基準(案)は2023年5月2日に公表され、2023年8月4日までを期限として企業などから広くコメントを募集しています。

その後、コメントを元に基準案の検証を行い正式な基準書として公表する予定です。基準書の公表は来春と予想され、改正された会計基準に適合するようさまざまな準備が各企業において必要となるでしょう。

その準備期間はおよそ2年間とされており、改正リース会計基準の強制適用は2026年4月頃と現時点では見られています。では、各企業においてはどのような準備が必要になるのか、次節で概要を紹介します。

企業が行うべきこととしては、改正基準で「リース」と判断される取引について、その詳細を検証し改正会計基準に対応するための準備が必要になってきます。

  • 賃貸借契約にもとづく事務所の賃借
  • 賃貸住宅のサブリース事業
  • 建物のリースバックによる賃借

これらの契約行為や取引は今後「リース」と判断され、改正リース会計基準にしたがった会計処理が必要になります。

そのため企業として準備すべきことは次のようなことです。

  • 現在借りている事務所や事業物件の家賃から「リース」に該当するかを判断
  • 上記物件のリース資産とリース債務の残高確認
  • 仕訳方法の社内ルール化
  • 日次処理~年次決算までのマニュアル化

など、これまでは賃貸借取引として単に家賃を経費として損金処理していたものが、貸借対照表に記載することにより、拠点数の多い企業においては「資産・負債」の計上は非常に煩雑なものになると予想されます。

また「資産・負債」の増加による「自己資本比率」の低下は財務基盤が弱いとの評価を受け、銀行融資などにおいて不利になる傾向があります。リースにした場合でも貸借対照表上「資産・負債」の計上をするのであれば、リースよりも所有するほうを選択するメリットが生まれる可能性もあるでしょう。

また、改正リース会計基準の適用については、該当する企業とその子会社・関連会社も含むこととされているため、自社内だけの準備作業だけではなく子会社などとも連携して作業する必要があります。

リース会計基準の改正は国際基準との整合性を図るものであり、国際協調が進む現代において、日本企業の財務諸表評価を共通の物差しで判断可能にする目的があります。

リース取引を賃貸借取引として会計処理するケースが多い日本においては、貸借対照表に資産・負債計上する改正は大きな事務的負担となります。とくに、決算時には「開示書類」の作成といったこれまではなかった業務も発生するでしょう。

さらに、従来のリース取引に加え、事務所の賃貸借取引や不動産事業におけるリースバックやサブリースもオンバランス処理が求められるようになり、改正リース会計基準の適用を受ける企業数は増大します。

改正による影響は会計・経理部門だけにとどまらず、資産・負債の増大による自己資本比率低下が、企業価値や金融機関の与信といった経営管理や経営企画部門での課題となる可能性もあります。

そのため、改正リース会計基準が2026年には適用される見込みがあり、企業においてすべき準備作業は膨大なものになると考えなければなりません。

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。