セールアンドリースバックとは?
実施目的や具体例、会計処理のポイント
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セールアンドリースバックは、不動産の売却後も継続してその物件を使用できる取引です。所有している不動産を売却することで資金調達できることに加え、経営のスリム化にもつながるため昨今注目を集めています。
事業拡大のために資金を調達したい場合やリモートワークや働き方の変化でオフィスの利用方法を見直したい場合などで、所有不動産を有効に活用する手段の一つとなります。
本記事ではセールアンドリースバックの概要やメリット、デメリット、注意点について解説します。経営戦略の1つとしてご検討ください。
目次
1. セールアンドリースバックとは
セールアンドリースバックとは、資産を売却した後に賃貸借契約(リース契約)を締結し、利用を継続する契約方式です。不動産が対象であれば、買主は不動産会社や、金融機関などのリースバック業者になるケースが一般的です。
通常の不動産売買では、買主が物件を使用できるように、売主は引き渡しまでに退去しなければいけません。しかし、セールアンドリースバックであれば、買主に賃料を支払うことで引き続き使用できます。
不動産だけでなく、車や事業用機械も対象になります。資産を現金化したうえで、引き続き使用できるのが最大の特徴と言えるでしょう。本章では、セールアンドリースバックを実施する目的や、流れについて解説します。
1.1. セールアンドリースバックを実施する目的
セールアンドリースバックを実施する主な目的は以下のとおりです。
- 資金調達
- 業務の効率化
- 不動産保有によるリスクの回避
会社経営において資金調達は重要なミッションの1つです。しかし、金融機関からの借り入れは借りられるか不透明であることに加え、用途に制限があるため自由度は高くありません。一方、セールアンドリースバックであれば、用途の制限がないまとまった資金を得られます。自由度の高い資金を得られれば、柔軟な会社経営ができるでしょう。
資産を手放すことで、管理や修繕の手間やコストの削減につながる点もポイントです。維持管理業務を減らして効率的に他の業務にあたれるようになるため、生産性の向上も見込めます。
また、不動産を所有していると「対外的な信用が高まる」「設備や間取りの自由度が高まる」などのメリットがある一方で、経営の柔軟性が下がったり、自然災害や価格変動の影響を受けたりといったリスクもあります。不動産を手放すと、それらのリスク回避にもつながります。
1.2. セールアンドリースバックを行う流れ
基本的に、売主が物件から退去しない点を除き、通常の不動産売買と同じ流れで進みます。具体的な流れは以下のとおりです。
- 不動産会社やリースバック業者を選び、査定を依頼する
- 価格や売買条件がまとまり次第、売買契約を締結する
- 売買契約と同時に賃貸借契約(リース契約)を締結する
- 売主から買主へ所有権が移転する
不動産会社やリースバック業者とは、売却後も賃貸契約を結び取引を続けることになります。過去の実績や契約条件を確認したうえで、信頼できる取引先の選定が必要です。また、手続き時に必要書類が不足すると契約や所有権移転に支障が出る恐れがあるため、不動産会社やリースバック業者の案内に沿って準備しましょう。
2. セールアンドリースバックのメリット、デメリット
「そもそも不動産を売却するべきか」や「通常の売却とセールアンドリースバックどちらにするべきか」と悩む方も多いでしょう。
不動産の売却は会社経営において重要な判断になるため、慎重に検討しなければいけません。本章では、セールアンドリースバックのメリット、デメリットを解説します。双方を把握したうえで売却の検討材料にしてください。
メリット | デメリット |
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2.1. セールアンドリースバックのメリット
1つ目のメリットは、資金調達ができる点です。不動産を売却すれば、短期間で資金を調達できます。金融機関の融資と違い用途も制限されないため、設備投資や運転資金などに自由に使用できます。まとまった資金を得てキャッシュフローを改善したい企業にもおすすめです。
また、物件をそのまま使用し続けるため、外部には資金調達のために売却したことが漏れにくいと言えます。調達した現金を元手に追加借り入れも検討できるので、会社経営の選択肢が増えるでしょう。
2つ目のメリットは、不動産管理業務が簡略化される点です。不動産を所有しているとさまざまな管理コストがかかりますが、売却することでそれらを削減できます。
代表的なのは固定資産税、都市計画税です。不動産を所有している限り毎年納めなければならない固定資産税、都市計画税も、不動産を手放すと不要になります。また、物件の修繕や管理委託などにかかる維持管理費も削減できることに加え、減価償却費の計上、修繕計画の策定も不要になるので、管理業務の簡略化にもつながります。
3つ目のメリットは、社員が環境を変えずに仕事ができる点です。自社所有の事務所を売却して会社を移転すると、通勤先の変更などで社員に多くの負担がかかってしまいます。交通費の見直しや設備移転など、コスト面でも負担が大きいでしょう。
セールアンドリースバックであれば、不動産を売却しても同じ場所で仕事ができるため、余計な負担やコストがかかりません。
2.2. セールアンドリースバックのデメリット
1つ目のデメリットは、売却価格が割安になる傾向がある点です。リースバックは売却後も引き続き物件を使用できるという特性上、通常の売却価格よりも割安になる傾向があります。より大きな利益を得たい場合は、リースバックを用いずに売却した方が良いケースもあるでしょう。
しかし、通常の売却の場合、事務所の移転費用などもかかるため、収支で見るとさほど差が出ない場合もあります。売却前にさまざまな費用を加味してシミュレーションを行いましょう。
2つ目のデメリットは物件の改修が制限される点です。不動産を所有している場合、所有者が自由に物件を改修できます。しかし、売却すると所有権は買主に移転するので、買主の許可が必要になります。設備の不具合が生じた際も一度買主に確認を取ってから対応する必要があるため、以前よりも自由度は下がるでしょう。
3. セールアンドリースバックの具体例
セールアンドリースバックのメリット、デメリットがわかったところで、より具体的にイメージできるよう、具体例を紹介します。
紹介する具体例は以下の2つです。
- 自社ビル売却で利益の拡大と経営のスリム化に成功した事例
- リースバックで事業を中断することなく新社屋へ移転できた事例
3.1. 自社ビル売却で利益の拡大と経営のスリム化
従業員規模の大きい大手企業が自社ビルの売却を行った事例です。売却は、資本の効率化、成長投資資金の確保などを目的として実施されました。本例では数百億円以上の譲渡益が見込まれ、減価償却費や維持修繕費の削減が叶ったとされています。
拠点を確保しつつまとまった資金を得て、ランニングコストの改善にもつながった事例といえるでしょう。
また、売却によるキャッシュフローの改善は長期視点では株主への還元にもつながります。本例でも、資本効率の改善などを通して株主価値の最大化を目指すことが示されていました。経営戦略の一環としてセールアンドリースバックを実施する際は、ステークホルダーへの見せ方も重要となります。
3.2. 東急リバブルの事例紹介|事業を継続しつつ新社屋への移転を実現
移転を前提として一時的にリースバックを実施した事例もあります。こちらは東急リバブルが手掛けた案件で、設備の老朽化、周辺の住宅化などを背景に、創業時より所有されていた自社ビルと工場を売却して新社屋への移転が行われました。
工場の場合、移転をせずに改修を行うには稼働を一定期間停止する必要があります。セールアンドリースバックを利用すれば、新社屋への移転までの間は従来の設備が活用でき、事業を止めることなく新体制へと移行できます。
リースバックが可能な買い手の探索から条件に合った移転先の選定までをサポートし、最小限の負担での移転を実現しました。
関連記事:住宅地化した創業地から新社屋への移転を、リースバックで事業中断なく支援
4. セールアンドリースバックの会計処理
セールアンドリースバックをする際には、会計処理についても把握しておく必要があります。リース取引は「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に分けられますが、リースの種類によって会計処理が異なります。
リースの種類 | 要件 | 会計処理 |
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ファイナンスリース |
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オペレーティングリース |
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オペレーティングリースは貸借対照表に計上されないシンプルな処理ですが、ファイナンスリースの場合は計上しなければいけません。リースの種類によって会計処理が複雑になるため、どちらの種類に該当するかは事前に確認しておきましょう。
また、子会社などに転貸借する場合は、さらに会計処理が異なるため注意が必要です。
5. セールアンドリースバックの注意点
セールアンドリースバックを実施する際は売買契約の内容も重要ですが、リース契約(賃貸借契約)の内容も精査しなければいけません。例えば、契約期間や更新の可否(普通借家契約か定期借家契約か)などです。急なランニングコストの増加を避けるために、リース料金の変更や見直しはどのタイミングで行われるのかも事前に確認する必要があります。
また、経営戦略の一環として長期的な視点で検討することも重要です。市況や自社の状況などを複合的に判断するためにも、不動産会社や税理士などに相談するのが良いでしょう。
6. 企業戦略の選択肢の1つとしてのセールアンドリースバック
セールアンドリースバックとは、所有不動産を売却したあとに賃貸借契約(リース契約)を締結し、引き続き同じ物件を使用する契約です。不動産を手放すことでまとまった資金を得られたり、経営のスリム化につながるといった理由で注目されています。事務所の移転も不要なため、社員にも負担がかかりません。
「売却価格が割安になる傾向にある」「物件の改修が制限される」といったデメリットは把握しておく必要がありますが、先行き不透明な経済情勢において、経営戦略の1つとしてセールアンドリースバックを検討してみてはいかがでしょうか。
宅地建物取引士
岡﨑 渉 氏
Wataru Okazaki
国立大学卒業後新卒で大手不動産仲介会社に入社。約3年間勤務した後に独立。現在はフリーランスのWebライター・Webディレクターとして活動。不動産営業時代は、実需・投資用の幅広い物件を扱っていた経験から、Webライターとしては主に不動産・投資系の記事を扱う。さまざまなメディアにて多数の執筆実績あり。