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【最新】令和6年分の路線価から読み解く不動産市場の現状と見通し

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【最新】令和6年分の路線価から読み解く不動産市場の現状と見通し

令和6年分の路線価が発表され、全国平均路線価は3年連続の上昇となり、本格的な地価の回復が見られます。大都市や地方4市の上昇はもちろん、都道府県別においても上昇基調が確認されました。インバウンド需要の拡大や半導体企業誘致に伴う上昇も際立っています。
しかしながら地価総額はバブル期の半分であり、全体的な上昇とはなっておらず、下落した地域や停滞している地域もあり、上昇地域・停滞地域・下落地域の三極化が生じています。今後は金利上昇の可能性が高く、その影響による地価の変動に注視する必要があるでしょう。
この記事では、令和6年路線価の結果に基づき今後の不動産市場を分析します。

目次

  1. 路線価とは?
  2. 令和6年分「路線価」の概要と注目すべきポイント
    1. 都道府県別比較
    2. 路線価を引き上げた東京の再開発
    3. 半導体関連企業の誘致やインバウンド需要の影響
  3. 令和6年分「路線価」から今後の地価の変動を読む
  4. 今後の地価推移に影響を与える要因
    1. 金利上昇の可能性
    2. 円安はつづくか?海外からの日本投資
    3. 日本経済の回復
  5. 2024年後半は地価の動きに注視が必要

路線価は公的な土地価格のひとつですが、相続税や贈与税の課税に際し土地の評価額を算定する根拠として毎年7月に国税庁が算定し公表しています。

1月1日時点の土地価格を調査する「地価公示」の結果に基づいていますが、おおむね公示価格の8割になるように設定されています。

地価公示は約26,000地点を標準地として価格を算定し、路線価は約336,000地点の道路に面する土地の価格を算定するので、ほとんどの土地の価格を確認することができます。

なお市街地の郊外などでは、すべての道路に面する土地に対し価格を定めず、固定資産税評価額に対する「倍率」を定めている地域もあります。固定資産税評価額とは、全国の市町村が3年に一度調査し価格を定めているもので、公示価格の約7割に相当する価格となります。

公示価格については、下記記事も参考にしてください。

関連記事:令和6年の地価はどうなる?これまでの地価推移と今後の見通し

2024年7月1日に、令和6年分の路線価が発表されました。

3月発表の地価公示と同様、全国平均で前年比2.3%の上昇となり、昨年の1.5%を超え上昇幅も大きくなっています。

令和5年の路線価発表時は日本経済復活の兆しを感じさせましたが、令和6年は地価の確実な上昇と経済復活の期待を強く感じさせる結果になったと言えるでしょう。

地価を押し上げる理由はさまざまありますが、都道府県別にみても上昇した地域が多くなっており、地価の回復基調が確認されています。

なお路線価は地点を特定した評価額の算定ができるため、土地取引における価格決定の重要な指標となり、上昇地点が増加したことは今後の地価を押し上げる要因のひとつとなるでしょう。

都道府県庁所在都市の最高路線価を確認すると、全国的な地価の上昇が確認できます。まずは、上昇した地点について見ていきます。

都道府県別に路線価が高い上位10地点をピックアップした結果は、以下の通りです。

順位 地点 変動率
1 東京都中央区銀座5丁目 1.3%
2 大阪市北区角田町 1.1%
3 横浜市西区南幸1丁目 1.1%
4 名古屋市中村区名駅1丁目 1.1%
5 福岡市中央区天神2丁目 1.4%
6 京都府下京区四条通東入2丁目 1.8%
7 札幌市中央区北5条西3丁目 1.9%
8 神戸市中央区三宮町1丁目 1.6%
9 さいたま市大宮区桜木町2丁目 1.1%
10 仙台市青葉区中央1丁目 1.5%

出典:国税庁「令和6年分都道府県庁所在都市の最高路線価」

変動率は1.1~1.9%の範囲になっていますが、全国平均の2.3%を下回っていることに注目しなければなりません。

上位10地点は従来から地価の高い地点です。全国平均を2.3%まで引き上げたのは、上記のような都心部ではなく、後述するように地方において大幅な上昇となったことが令和6年の大きな特徴と言えるでしょう。

また全国的な上昇となった要因として、上昇地点数の増加もあげられます。令和6年は地価が下落した都市は減少しています。変動の無かった都市も減少しており、全国平均の上昇率を押上げています。

次に、地価が減少した都市の令和6年と令和5年の変動率を見てみましょう。

【都市別前年比変動率】

都市名 令和5年 令和6年
熊本市 -1.0% 1.0%
徳島市 -1.7% 1.7%
盛岡市 -2.2% 2.3%
鳥取市 -3.0% -3.1%

出典:国税庁「令和6年分都道府県庁所在都市の最高路線価」

鳥取市のみが令和6年も減少しており、令和5年に減少した他の3都市では回復していることが確認できます。

人口減少などが要因となり、全国的な地価上昇の流れが及ばない地域もあると言えそうです。

続いて、変動のなかった都市についても確認してみましょう。

【都市別前年比変動率】

都市名 令和5年 令和6年
前橋市 0.0% 3.8%
和歌山市 0.0% 2.8%
津市 0.0% 2.6%
長野市 0.0% 1.8%
静岡市 0.0% 0.9%
青森市 0.0% 0.0%
山形市 0.0% 0.0%
水戸市 0.0% 0.0%
甲府市 0.0% 0.0%
松江市 0.0% 0.0%
山口市 0.0% 0.0%
高知市 0.0% 0.0%
宮崎市 0.0% 0.0%

出典:国税庁「令和6年分都道府県庁所在都市の最高路線価」

変動率0%の都市が令和6年は減少しており、消費行動の活性化やインバウンドを含めた観光需要が地価上昇につながったと予想できます。

しかしながらその反面、地価上昇傾向が広がる中においても、地価の停滞がつづく地域もある点については注目する必要もありそうです。

これらのデータを全般的な観点としてまとめると、上昇率の高い地域は、首都圏、近畿圏、地方4市に加え、インバウンド需要を含めた主要観光地を擁する都道府県が目立っており、観光業・小売業の復活が地価上昇を支えたと言えるでしょう。

全国的に路線価が上昇した大きな要因としては、コロナ禍からの脱却により通常の経済活動が活発になってきたからと言えます。加えて、都心部における再開発事業が地価を押し上げた点にも着目しなければなりません。

タワーマンションや超高層ビルを含んだ大規模な再開発が各地で行われ、地価を引き上げる要因となりました。ここでは東京都の再開発が地価上昇に与えた影響を見ていきます。

東京都の直近3年間の平均路線価は、以下のように推移しています。

  • 令和6年 前年比+5.3%
  • 令和5年 前年比+3.2%
  • 令和4年 前年比+1.1%

東京都内で1972年から2023年10月末までの期間に認可された再開発事業は、688.5haに上ります。うち完了した事業は505.3ha、事業中が155.5ha、未着手が27.7haとなります。

完了した505.3haを昭和、平成、令和の各年代に区分したものが次の表です。

年代 面積(ha) 割合
昭和 55.6 11.0%
平成 330.5 65.4%
令和 119.2 23.6%

出典:東京都都市整備局「市街地再開発事業について」

平成の30年間で行った事業の約1/3を、令和のわずか5年間で行ったことになり、その開発スピードは2倍に相当します。急激な再開発の増加は地価の上昇に大きく影響したと言えるでしょう。

一方、2023年10月末時点で未着手の事業は27.7haに留まっており、東京都においても今後の市街地再開発事業が地価上昇に与える影響は、縮小していく可能性がありそうです。

全国的な地価上昇と東京都における地価上昇について解説してきましたが、ここでは上昇率が上位となった地域に着目し解説していきます。

令和6年路線価の前年比上昇率において、スキーリゾート地として海外から注目される長野県白馬村が第1位、次いで半導体大手TSMCが進出した熊本県菊陽町が第2位となりました。

上昇率TOP5は以下のとおりです。

順位 所在地 上昇率 要因
1 長野県白馬村 32.1% インバウンド需要
2 熊本県菊陽町 24.0% 半導体企業誘致
3 大阪市西区江戸堀 19.3% 市街地再開発
4 岐阜県高山市 17.8% インバウンド需要
5 東京都台東区浅草 16.7% インバウンド需要

第3位を除いて、4地点がインバウンド需要および半導体企業誘致によるものです。菊陽町は昨年の上昇率でも注目されましたが、令和6年はさらに上昇幅を大きくしました。

白馬村の地価上昇は海外資本の流入が考えられ、かつて北海道のニセコに見られたようなリゾート地における投資の拡大が今後進むと思われます。

半導体関連では、熊本県菊陽町において成長分野への投資が引き金となっています。EC・物流・医療・農業・宇宙といった期待される産業分野に関わる地域では、今後の地価上昇に注目する必要があるでしょう。

一方、再開発事業による地価上昇は、事業の終了によりその影響力が縮小していくことも考えられ、地価上昇圧力が低下する懸念も考えられます。

令和6年分路線価から、今後の地価にどのような変動が起こるのか、いくつかの予想をしてみたいと思います。

全国的な地価上昇が3年つづいたことにより、次のような傾向が生じるでしょう。

  • 地価上昇をデータで確認できる地点が増加する
  • 全国平均で上昇した一方、都道府県別では三極化が見られる

土地所有者をはじめ土地取引に関係する当事者間では、さらなる地価の上昇を予想し期待するため、地価相場に上昇圧力が働くようになります。

全国的に地価上昇圧力が働くとしても地域を細分化すると、上昇する地域、停滞する地域、下落する地域の三極化が進んでいると言えるでしょう。

インバウンド需要や再開発事業が進んだ地域では、新たな土地需要が生まれ地価上昇傾向はつづくと考えられます。とくに半導体企業が進出した地域周辺では、住宅用地を中心とした需要拡大が見込まれます。

一方、地価が停滞している地域や下落した地域では人口減少が進み、コンパクトシティ政策が促進されるため、一層の下落が見られる地域が生まれるかもしれません。

都市部では、再開発事業の継続に伴い地価上昇が進む可能性はありますが、それぞれの都市が持っているポテンシャル以上に投資が拡大するのは難しく、上昇率が縮小する都市もあると思われます。

たとえば、土地需要がそれほど多くない地域では、地価上昇により地価相場が高止まりするため、需要が縮小するような懸念もあります。また最近の建設コストの高騰は、再開発事業の縮小や見直しといった動きにつながる恐れがあり、これも土地需要を縮小させる要因となる可能性があります。

以上のように、地価上昇傾向がつづくと期待される中で懸念される材料もあり、今後の地価推移に注目する必要があるでしょう。

地価を知るための公的な発表は、9月の基準地価と令和7年3月の地価公示です。今後の地価がどのように推移するのか、ここでは次の3つのポイントに焦点をあて考察します。

  1. 金利上昇の可能性
  2. 円安と海外からの投資
  3. 日本経済の回復

2024年に入り、日銀はこれまでの金融緩和政策を方向修正し政策金利を引き上げ、連動してメガバンクの長期プライムレートも上昇しました。その後7月の日銀政策会合では再度の利上げとなり、証券・為替市場には大きな波紋が広がりました。

長期プライムレートは、企業への長期的な貸出しや住宅ローンの固定金利に影響を与えるため、企業の金融コストの増大や住宅需要の縮小原因となります。

ただし、およそ10年にわたる金融緩和政策を急激に方向修正することは、企業活動や経済に大きな影響を与えます。そのため日銀はゆるやかな金利上昇を行い、金融環境を少しずつ変化させるような政策を目指すと考えられます。

また、現在、円安による物価高がつづいていますが、この状況は日銀が目標としていた「物価上昇率2%」とは性格が異なるものであり、現時点において大きく政策金利が上昇するとは想定できません。

金利上昇の可能性については2024年10月を想定する識者もいますが、現在の政策金利0.1%が0.25%程度に引き上げられたとしても大きな混乱は考えられず、地価への影響はまだ少ないと言えるでしょう。

日米の金利差の影響で、近年は円安がつづいています。海外投資家の視点からは日本の不動産は割安であることに加え、収益物件の利回りは安定し魅力の高いものになっています。

また中国経済の不振により海外資金の引き上げがあり、投資先を日本にシフトする動きもあり、しばらくは日本の不動産に海外資金が集まる傾向は変わらないでしょう。

ただし海外資金が集まる地域は限定されます。大都市と路線価が急上昇した地域が注目され、下落や停滞している地域への投資は期待できないと言えます。

円安に関しては日銀がこれまで為替介入を実施しており、公式発表では2024年4~5月に約9.7兆円を行いました。しかしながら効果は限定的であり、アメリカの利下げを待つ以外に円安対策として有効な手段はないと言えるでしょう。

アメリカFRBは6月に開催した連邦公開市場委員会において、金利の誘導目標を据え置いており、年内の利下げの可能性は大統領選後の12月になると見られています。

7月末の日銀による金利上昇政策により、為替レートは大きく円高になりました。とはいえ円安が進み始めた2022年初めの水準からみると、まだまだ円安状況はつづいており、これまでの日本不動産への海外からの投資が縮小する懸念は小さいと考えられます。

今後の地価推移を左右するのは日本経済の回復次第という面もあります。

日本経済の現状は日経平均株価が史上最高値を更新しつづけていますが、国内総生産はドイツに抜かれ世界第4位となり、一人当たりGDPは台湾・韓国以下の第38位という状態です。

今後の地価の推移を見通す上で、日本経済が好転するシナリオと好転しないシナリオを考えておく必要があるでしょう。

まず好転する材料としては6月に定額減税が実施され、企業における賃上げが行われています。中小企業も含めた賃上げが浸透すると、実質賃金が回復し個人消費が上向く可能性があります。

しかし円安による物価高が賃上げ効果を相殺し、期待するほどの効果が現れない懸念も捨て切れません。

半導体投資、物流施設投資、市街地再開発など成長分野への投資は当分つづくため、地価を押し上げる要因と考えられますが、好転しない材料も浮かび上がってきました。

日銀短観によれば大企業非製造業の景況感が17四半期ぶりに悪化し、インバウンド需要や国内消費の鈍化が指摘されています。

現状において日本経済はまだ先行き不透明な印象がありますが、30年以上つづいたデフレからの脱却に期待し今後の地価推移を見守る必要があるでしょう。

路線価は3年連続の上昇となり不動産市場は活性化すると思われます。とりわけインバウンド需要や半導体企業誘致に基づく地価上昇は、地域経済の成長に期待が集まっている証しであり、地域周辺の地価にも影響を与えることでしょう。

不動産に関わる投資環境については、将来的な金利上昇は予想されますが、急激な金融緩和政策の転換とはならず大きな変化は当面ないと思われます。そのため現状の円安についても継続すると考えられ、しばらくは海外からの日本投資はつづくと思われます。

一方、地価上昇を牽引した都心部における再開発事業が一段落すると、地価を押し上げる大きな要因が縮小する可能性があります。また地価下落が見られた地域や停滞した地域もあり、三極化がすすんでいる懸念も生じてきました。

不動産市場に影響する今後の地価推移に注視する必要があるでしょう。

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。