ホテル市場はこれからどうなる?
旅行者の動向や今後の見通しを解説
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訪日外国人旅行客の拡大を政策の1つとしていた日本では、2019年まで右肩上がりで訪日外国人旅行客が増え、ホテルなどのインバウンド市場が成長していました。
新型コロナウイルスの影響により2020年以降ホテル市場は大きなダメージを受けたものの、マイクロツーリズムの増加など回復の兆しもあり、再度注目されつつある市場です。
そのような背景から投資先として期待されるホテル市場ですが、投資の有無を問わず、市場のトレンドを把握しておくことで今後の事業展開に役立つでしょう。本記事では、昨今のホテル市場の現状や今後の見通しを解説します。
目次
1. ホテル・観光市場の現状
ホテルや観光市場は、新型コロナウイルスによって大きなダメージを受けました。
本章では新型コロナウイルスが蔓延する前と現在でどのような変化があったのかや、今後の動向について解説します。
- コロナ禍における世界の観光市場
- 訪日観光客数は底打ちの兆し
- ビジネスホテルの客室稼働率は回復傾向
ホテル市場を知るには、日本だけでなく世界の状況にも着目しましょう。
1.1. コロナ禍における世界の観光市場
国連世界観光機関(UNWTO)の調査によると、コロナ禍前の2019年と比べ世界中で国際観光客到着数が減少していますが、2022年に入ってからは一部回復傾向も見られます。
国際観光客到着数(2019年比)
2021年 | 2022年(1~3月) | |
---|---|---|
ヨーロッパ | -62% | -43% |
アジア・太平洋 | -94% | -93% |
米州 | -62% | -46% |
アフリカ | -73% | -61% |
中東 | -75% | -59% |
上記の結果は渡航制限の緩和や解除のタイミングが影響しています。ヨーロッパやアメリカは渡航制限の緩和、解除がほかの地域よりも早かったため、国際観光客数が早いタイミングで回復しています。
日本を含むアジアでも渡航制限が緩和、解除されてきているため、徐々に回復が望めるでしょう。
1.2. 訪日観光客数は底打ちの兆し
観光庁の令和4年版観光白書(※)によると、日本における訪日観光客数のピークは2019年の3,188万人です。
その後新型コロナウイルスの影響によって2022年は412万人、2021年は25万人にまで減少しました。
2022年は6月時点で50.7万人となっているため、ピーク時にはまだ遠く及びませんが、2021年よりは回復していることがわかります。これらの数値を見る限り、ホテルや観光市場のダメージは底打ちしてきていると考えられます。
1.3. ビジネスホテルの客室稼働率は回復傾向
観光庁の令和4年版観光白書によると、ホテルを含む各種宿泊施設の客室稼働率は低い水準で停滞しています。
しかし、その中でもビジネスホテルの客室稼働率は回復傾向にあります。ビジネスホテルの利用が増加している理由の1つには、国内の出張需要の回復が挙げられるでしょう。経済活動の再開とともに遠方への出張などを解禁する企業が増え、ビジネスでの宿泊機会が増したと考えられます。
日本は外国人観光客の受け入れを再開し始めたばかりのため、訪日観光客数にはまだ増加は見られません。しかし、新型コロナウイルスによる移動の自粛が緩和されつつあるため、今後は出張だけでなく観光目的も含めたホテルへのニーズが徐々に回復していくでしょう。
2. 国内、海外の旅行者動向
ホテル、観光市場の現状について把握できたところで、より詳しい国内、海外の旅行者動向を解説します。
- 国内の述べ宿泊数は回復傾向にある
- マイクロツーリズムが増加
今後のホテル、観光市場を考える前提知識になるため、こちらも把握しておきましょう。
2.1. 国内の延べ宿泊数は回復傾向にある
※出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」
日本国内のホテルや旅館などの宿泊施設における延べ宿泊者数は、ピーク時の2019年は5.95億人でしたが、2021年は3.15億人まで減少しました。
しかし、日本人の延べ宿泊数の2019年比は、2020年5月に-79.0%、2021年5月に-50.8%だったところ、2022年5月には-11.0%と大幅に回復していることがわかります。
外国人の延べ宿泊数は2022年5月時点でも-92.8%と停滞しているため、ホテル市場が回復するには外国人観光客の増加が重要といえます。
ヨーロッパや米州はすでに観光需要が大きく回復しており、日本でも2022年6月10日より外国人観光客の受け入れを開始しているため、今後徐々に回復が期待できるでしょう。
2.2. マイクロツーリズムが増加
新型コロナウイルスの影響を受け、国内での観光の仕方にも変化が生じています。
旅行と聞くと、新幹線や飛行機で遠出するイメージを持ちますが、コロナ禍での旅行は居住エリア近辺を訪れる「マイクロツーリズム」の割合が増加しています。
観光庁の調査によると、コロナウイルスの流行前後で比較すると国内のどのエリアでも近隣区域からの旅行者が増えていることがわかりました。
しかし、マイクロツーリズムが増加しているとはいえ、日帰り旅行が増えているわけではなく、宿泊と日帰りの割合にはほとんど変化がありません。
2019年の国内宿泊旅行延べ人数と国内日帰り旅行延べ人数の合計58,710万人のうち、宿泊旅行は53%、日帰り旅行は47%でした。
一方、2021年は、総数は26,821万人と大きく減少していますが、宿泊旅行が52.9%、日帰り旅行が47.1%との結果になっています。
つまり、マイクロツーリズムが増加したとはいえ宿泊の割合は減っておらず、旅行者人数が底上げされればホテル市場はより回復に近づくといえます。
3. 今後の日本のホテル市場
前章までの内容を踏まえ、今後の日本におけるホテル市場の見通しを解説します。
- 政治や自治体も観光業に力を入れている
- 円安が追い風になっている
政治や経済の動向を踏まえて状況を把握しましょう。
3.1. 政府や自治体も観光業に力を入れている
日本では観光業に力を入れており、2030年までに訪日外国人旅行者数6,000万人を目指しています。
実際に2013年からの7年間で訪日外国人旅行者数は3.8倍の3,188万人まで増加していました。新型コロナウイルスの影響によって訪日外国人旅行者数は激減しましたが、引き続き観光業に力を入れているため、長期的に見るとコロナ禍以前の水準を上回ることが期待されます。
また、短期目線ではGoToトラベル事業に次ぐ、県民割や全国旅行支援によって旅行需要の高まりが期待できます。
しかし、感染拡大による実施の延期なども起こり得るためその点には留意しましょう。
3.2. 円安が追い風になっている
円安の影響によって、観光市場(インバウンド市場)は追い風になっています。
円安の要因の1つに挙げられるのが、アメリカの利上げです。
2022年1〜3月は1ドルあたり114〜116円で推移していましたが、2022年3月に米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅な利上げを発表したのち、円安が加速しました。
円安は訪日外国人観光客にとってメリットであるため、日本での消費拡大が期待されます。円安がいつまで続くかは不透明ですが、観光市場にとっては追い風の状態といえるでしょう。
4. 日本のホテルの収益性
新型コロナで傾いていたホテル、観光市場に回復の兆しが出てきたことがわかったところで、具体的な日本のホテルの収益性について解説します。
ホテルには大きく分けて4つの運営方式があります。
- 所有直営型:不動産の所有もホテルの運営も自社で行う
- リース型:不動産をホテルの運営会社に貸す
- 運営委託型:不動産の所有者がホテルの運営を委託する
- フランチャイズ型:加盟ホテルが本部のホテルの経営ノウハウやブランド使用権を与えられる
自社でホテル運営機能を持たない場合は、不動産を所有してリース型もしくは運営委託型で運営を他社に任せるのが一般的です。
委託のコストは発生しますが、自社で運営する場合は専門的なノウハウが必要となるため、リソース確保のコストを踏まえると専門企業に任せることで採算がとれるケースもあります。
国内のホテルは観光需要と国内の出張需要が大きなウエイトを占めますが、新型コロナウイルスの影響でホテルの収益性は低下し、売却や閉鎖に追い込まれているホテルも散見されます。
外国人宿泊者の需要が回復していない現状では、大きな収益を得るのは難しい状態ですが、言い換えるとホテルを安く購入できるタイミングであるため先行投資として魅力的でしょう。
しかし、日本の規制緩和がいつになるか見通しがついていないため、長期目線で保有できる資金量が重要です。
ホテル市場以外のアセット別不動産動向についても下記記事で紹介していますので、合わせてご一読ください。
関連記事:アセット別不動産動向
5. コロナ禍を経たホテル市場の動向は今後も要注目
本記事ではホテル市場の現状や今後の見通しを解説しました。
新型コロナウイルスの影響で2020年以降日本のホテル、観光市場は大きな影響を受けていましたが、徐々に回復しています。
海外の動向や日本の政策を見ると、国内の入国制限がより緩和されればコロナ禍以前の水準を超えることも期待できます。
ホテルの価格が下がっている現在、長期的な目線で投資を検討される方もいらっしゃるでしょう。
東急リバブルでは専門性の高いホテルアセットにも対応しているため、お気軽にご相談ください。
関連サイト:東急リバブルの「ホテル専門チーム」
宅地建物取引士
岡﨑 渉 氏
Wataru Okazaki
国立大学卒業後新卒で大手不動産仲介会社に入社。約3年間勤務した後に独立。現在はフリーランスのWebライター・Webディレクターとして活動。不動産営業時代は、実需・投資用の幅広い物件を扱っていた経験から、Webライターとしては主に不動産・投資系の記事を扱う。さまざまなメディアにて多数の執筆実績あり。