大阪オフィスマーケット|
2024年オフィス大量供給による変化と見通し
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快適なオフィス環境や最新技術を採り入れた高機能なオフィスビルの大量供給が3大都市圏を中心に行われており、オフィスマーケットの成長が期待されています。大阪では2022年につづき2024年~2025年にも新規オフィスビルの大量供給が予定されており、2019年~2023年までの新規供給量を超える規模になります。本記事では大量供給が予定されていることから注目が集まる大阪のオフィスマーケットの状況を分析し、2024年に予定される約9万坪におよぶ新規供給の影響を解説します。
目次
1. 大阪のオフィスマーケット動向
大阪府は日本の上場企業の11%が本社を置いており、その中心が大阪市になっています。
大阪市は多くの路線が通る大阪駅や梅田駅を中心にして、北は新大阪、南は難波、そして東に南森町、淀屋橋・本町、西に中之島、西区と、東西が最大でおよそ3km、南北はおよそ8kmに及ぶ帯状のオフィス街を形成しています。
核となるエリアは梅田駅のある「キタエリア」で、主要オフィス6地区の貸室面積のおよそ4割が集まっています。
また、2024年に大量供給されるのも「キタエリア」に集中しますが、大阪オフィス街の現在状況を把握するため、空室率・平均賃料・貸室面積の推移を確認してみましょう。
【空室率】
直近の2023年7月時点では淀屋橋・本町地区が3.79%ともっとも低くなっていますが、ピークは2021年9月の4.62%でした。
空室率がもっとも高い地区は新大阪地区で、2023年7月時点は7.57%と高い水準です。ピークは2022年2月の10.46%でしたが、以降9%台をつづけながら2022年12月に9%を割り現在に至っています。
新大阪地区における空室率の増加は、2022年中にあった約1.3万坪の新規供給があったことが影響したと思われます。
新大阪地区の高い空室率が全体を押し上げており、6地区から新大阪地区を除いた空室率平均もやはり上昇しています。大阪全体としての空室率上昇傾向は続いていると言えるでしょう。
【平均賃料】
6地区平均の賃料は2019年1月より約4.58%上昇し、11,811円/坪となっています。空室率が高い水準となっている新大阪地区においては2019年1月比でもっとも上昇率が高く、次いで梅田地区が高い水準です。
空室率の高い新大阪地区において、賃料上昇率が高いという現象は一見奇異に感じられますが、新しいビルの供給により相対的に賃料水準が高くなっている現れと言えるでしょう。また、同様のことは梅田地区においても言えることです。
梅田地区と平均賃料の低い南森町地区の賃料乖離は約60%あり、その幅はわずかですが広がっていることが確認できます。オフィスビルの新規供給による底上げの結果と言えるでしょう。
【貸室面積】
貸室面積については上記6地区全体の推移をみていきます。
過去4年間では2020年に減少がありましたが、その後は新規供給による増加が見られます。2020年~2022年までの増減を合わせると約3.7万坪の増加となっています。
2023年は約0.6万坪の新規供給が見込まれていますが、過去4年間での増加面積に比して2024年に予定される約9万坪の新規供給のボリュームは大きく、大阪オフィスマーケットが注目される所以と言えるでしょう。
2. 2024年以降新規供給ビルの概要とその影響
大阪市では2024年に9万坪、2025年には3.8万坪のオフィスビルが新規供給予定となっています。ここでは核となる梅田地区、淀屋橋・本町地区において予定されているオフィスビルの概要と、大量の新規供給がオフィスマーケットに与える影響についてお伝えします。
地区 | 事業名称 | 事業主 | 貸室面積 |
---|---|---|---|
梅田地区 | JPタワー大阪 | 日本郵便株式会社 西日本旅客鉄道株式会社 大阪ターミナルビル株式会社 株式会社JTB |
約6.8万m² |
イノゲート大阪 | 西日本旅客鉄道株式会社 大阪ターミナルビル株式会社 |
約2.3万m² | |
グラングリーン大阪 | 三菱地所株式会社、大阪ガス都市開発株式会社、オリックス不動産株式会社、他6社 | 約11.3万m² | |
淀屋橋・本町地区 | アーバンネット御堂筋ビル | NTT都市開発株式会社 | 約2.2万m² |
御堂筋ダイビル | ダイビル株式会社 | 約1.1万m² |
2.1. 新規大量供給により空室率は上昇するか?
9万坪の新規供給はこれまでにない大規模なもので、空室率の上昇や賃料の下落を生じさせる懸念があります。過去4年間の貸室面積と空室率および賃料の推移から、どの程度の賃料下落が考えられるか分析してみます。
グラフからまず目につくのは2020年に生じた貸室面積の減少です。6月~12月にかけて約1.3%の減少がありました。この間は新型コロナによる影響が現れた頃であり、空室率の上昇に伴い廃業・撤退したオフィスがあったと想像できます。
空室率は貸室面積の減少があったにもかかわらず上昇をつづけ、コロナ禍によるオフィス需要の縮小が空室率を上昇させたことが見て取れます。
2022年2月に貸室面積の大きな増加が見られます。この増加は主に「新大阪地区」において供給された約3.5万坪の新規オフィスビルの影響です。この時点での空室率は2022年3月に5.22%となりピークとなりました。
しかし2か月後の5月には5%を割込み、その後2023年6月まで5%前後の水準を維持しながら2023年7月に至り4.48%にまで改善されました。
2024年の約9万坪の新規供給の影響を予測するには、この2022年2月~5月の動きが参考になりますので、この時点のデータを詳しく見ていきましょう。
下表は貸室面積と空室率の変化を確認するため、2022年1月~3月のデータを記載したものです。
2022.01 | 2022.02 | 2022.03 | |
---|---|---|---|
貸室面積(坪) | 2,183,455 | 2,218,835 | 2,213,921 |
増加面積 | - | 35,380 | -4,914 |
増減率 | - | 1.62% | -0.22% |
空室率/平均(%) | 4.75% | 5.15% | 5.22% |
増減率 | - | 0.40% | 0.07% |
1月から2月にかけて35,380坪の増加があり増加率は1.62%になります。
空室率は2月に5.15%と前月比0.4%上昇し、3月にはさらに0.07%上昇しています。
新規供給により一時的に空室率は上昇しますが、その直後に貸室面積が減少していることがグラフから読み取ることができます。
このことは老朽化したビルなどが市場から撤退したことによるものと想像され、新規供給が増大すると既存ビルが減少する「新陳代謝」が生じるものと考えられ、2024年の大量供給においても同様の傾向が生まれる可能性が高いでしょう。
2.2. 平均賃料は下落するか?
空室率が上昇すると賃料の下押し圧力がかかる、と一般には考えられます。では過去4年間のデータから空室率と平均賃料の関係を見ていきます。
過去4年間でもっとも空室率の低かったのは2019年12月でした。その時点の平均賃料は11,794円であり、その後平均賃料は上昇しています。2019年12月は中国において新型コロナウイルスによる感染が報告された時であり、日本においてその後大きな影響を受けるとは考えられていない時期でした。
新型コロナによる影響はオフィス需要の縮小として現れ、空室率が明らかに上昇したのは6月のことです。その後空室率の上昇率が大きくなり、2022年3月にピークの5.22%となりました。
空室率の上昇は賃料の下押し圧力を強めます。平均賃料のピークは2020年6月の12,026円でしたが、その時点の空室率は2.46%です。その後も上昇し2022年3月に5.22%に達します。平均賃料は2020年7月から下がりはじめ、空室率ピーク時から2%下落の11,796円となったのが2021年12月です。
2022年5月以降は空室率・平均賃料ともほぼ横ばいとなり、2023年6月には空室率の下落傾向と平均賃料の上昇傾向が見られるようになりました。
以上の過去4年間のデータから空室率の上昇は賃料下落の原因になると言えそうですが、新規供給ビルの募集賃料水準は高いため、二次空室が増加する既存ビルの賃料下落圧力が強くなるほど平均賃料は低下します。つまり平均賃料の低下は既存ビルほど深刻な課題となるでしょう。
3. 大阪のオフィスマーケット、今後の見通し
今後の大阪のオフィスマーケットはどのような状況になるのでしょうか。その見通しを探るうえで参考にしたいのが2022年の状況です。
2022年は梅田で3万坪に近い新規供給がありましたが、竣工後約3か月で入居が強まっていったと言います。また、約1万坪の新規供給があった淀屋橋では竣工前に8割強の入居が決まっていました。
2024年の新規供給の規模は2022年をはるかに超えるものですが、現代のオフィスニーズを的確に取り込んだ高機能ビルに対する関心や期待は強いものがあり、多少時間はかかるとしても入居は進むと見られています。ただし、新規供給ビルの募集賃料の下振れが予想されるため新規オフィスビル同士の競争は否めません。
新規供給オフィスビルへの移転が多くなると既存ビルの二次空室が問題となってくるでしょう。空室率の増加は既存ビルに大きな影響を与え、賃料の下押し圧力が強くなると考えられます。
新規供給オフィスビルと既存ビルの大きな違いは、働き方の変化に伴い要求される多様なワーキングスペースや、ビジネスパーソンの生産性向上につながる「働きやすいオフィス」です。たとえば大きな公園を眺められるラウンジや、リフレッシュスペースとして期待できるテラスやカフェコーナーなどが設置され、これまでにないワーキングスペースを体感できることが重要なポイントになっています。
このような新しいニーズに対応できない既存ビルは、今後撤退や再生を検討する局面も予想され、オフィスビルそのものの新陳代謝が進むと予測されます。
4. 新規大規模オフィスビル大量供給による新旧二極化
大阪のオフィスマーケットは大阪駅や梅田駅をかかえる「キタエリア」を核として6つの地区にオフィスビル群が建ち並びますが、その中心である「梅田地区」では新規供給がつづいており、2024年には約9万坪の新規オフィスビルの供給が予定されています。
業績が好調な企業は最新のビルに移転する傾向が強く、新規供給ビル同士のテナント誘致競争は激化すると予想されます。また、既存ビルには二次空室が増加する可能性が高く、オフィスマーケット全体として賃料の下落が生じるでしょう。
空室率の増加と賃料の下押し圧力は築古ビルで大きくなり、新築ビルと既存ビルとの間には二極化が生じる可能性も高く、既存ビルには建替えやリノベーションなどの再生や、市場からの撤退を検討する局面も生まれる可能性があります。
大阪における新規オフィスビルの大量供給はマーケットに変化を生み出し、新しい大阪の街づくりを促すことでしょう。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。