入国制限解除による影響|
海外投資家から見た日本の不動産市場(2023年版)
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新型コロナウイルスの影響が改善する中、日本では行動制限がなくなり、入国制限も緩和されたことで、コロナ禍以前の日常に少しずつ戻りつつあります。街中では外国人観光客の姿が見られるようになり、国内経済はコロナ禍以前の水準へと回復する兆しが見えてきました。また、アメリカではインフレ抑制のための利上げを続け、歴史的な円安が続いています。
そんな最中、日本の不動産市場はどのように変化したのでしょうか。入国制限の解除による影響や海外投資家の動向を踏まえ、現状を見ていきましょう。
目次
1. 入国制限解除による日本の不動産市場への影響
入国制限解除により、海外からの渡航者数は回復傾向にあります。2022年10月11日以降、日本への帰国者・入国者に関して、原則として入国時検査を実施せず、入国後の自宅又は宿泊施設での待機、待機期間中のフォローアップ、公共交通機関不使用等を求めないこととなりました。インバウンド需要はゆるやかに回復しつつあり、各地で外国人観光客の姿を見る機会も増えています。
日本政府観光局によると、2022年11月時点での訪⽇外客数は934,500人と、前月の498,600 人と比較して倍近く増加しています。特に韓国や台湾、香港などからの訪日客が多く、韓国についてはコロナ禍以前の2019年11月と比べても増加傾向にあります。アメリカをはじめとする欧米からの訪日外客数も、2019年比ではまだ回復しきっていませんが、昨年比では大幅な伸びが見られました。それに伴い、国内のホテルへの投資需要の増加も期待されています。
ただし、2019年に他国比で最も多くの訪日外客数を記録していた中国は、他国に比べ伸び率が低くなっています。感染動向を踏まえて中国からの渡航者に対しては2022年12月時点でも防疫措置が強化されている状況であり、今後も動向を注視する必要があるでしょう。
また、ホテルの客室稼働率は東京・大阪などの主要エリアを中心に上昇傾向にあります。この背景には、訪日外客の層が以前より多様化したことが挙げられます。コロナ禍以前は近隣の韓国、中国、台湾、香港からの訪日客が全体の7割程度を占めておりリピーターも多くいました。しかし、2022年11月単月でみれば先に挙げた4国の割合は5.5割程度に留まっています。国籍の幅が広がり初めて日本を訪れる人も増えたことで、知名度の高い都市の観光需要が増していると考えられます。
冬場のウィンタースポーツなどで訪日客を呼び込む北海道は、入稿制限解除の直後であることも相まってあまり稼働率の上昇が見られていませんが、一部ではコロナ禍以前を上回る水準で予約が埋まっているホテルも出てきています。
完全な回復状態になるにはまだ時間がかかりそうなものの、インバウンド需要が回復していけばホテルや商業施設などの需要も高まり、不動産市場も活性化していくことが期待できるでしょう。
2. 入国制限がもたらしたこと
世界各国では新型コロナウイルスによって行動が制限され、入国制限もかなりの期間で行われました。人の流れが大きく制限された環境下は、不動産市場にも、今までにない大きな影響を及ぼしています。
特に、ホテルや商業施設はインバウンド需要の激減により不動産投資額の下落が顕著な状況でした。述べ宿泊者数で見ると2019年は59,592万人(うち外国人11,566万人)だったところ2021年には31,777万人(うち外国人432万人)と、数字にも現れています。
宿泊者数の減少はホテル需要の低下を示し、投資家にとってのホテル市場の魅力も軽減した状態でした。
しかし、先述の通り入国制限の解除を受けてインバウンド需要はゆるやかに回復してきています。Go To キャンペーンなど政府主導の施策も行われたことでホテル市場は需要が戻りつつあり、観光地での産業も今後は回復が見込まれます。
実際に2022年11月単月の延べ宿泊者数は約4570万人で、前年同月の約3694万人と比べて1000万人近く増加しました。旅館やリゾートホテルの他ビジネスホテルやシティホテルの宿泊者数にも伸びが見られ、全体的な回復傾向が伺えます。
入国制限による影響は多大なものがありましたが、その分解除による恩恵も大きくなると予想されます。新型コロナウイルスの感染動向などによるものの、このままいけばコロナ禍以前の市場感に徐々に戻っていくでしょう。
3. インバウンド施策と円安に後押しされた海外投資家の動向の変化
インバウンド施策により観光客が戻りつつあることに加え、不動産市場の好転により海外投資家の動きにも変化が出てきています。コロナ禍で入国制限がある中では海外から物件を確認することも難しく、オンライン内見なども行われていましたが、現在は来日して現地視察をするケースも増えつつあるようです。
また、エネルギー価格の上昇による世界的な物価高に影響してアメリカでインフレ抑制のための利上げが行われた結果、円安ドル高というマーケットの変化が生じています。為替の変化が出始めた2022年上半期の時点ではここまでの円安傾向はなかったため、日本の不動産市場は割安とはいえ、その価値自体は高かったといえます。
アメリカの利上げにより円安が急激に進んだことで、日本の不動産市場は価値がありながらさらなる割安感が出ました。いわゆる「お買い得」になったと言えるでしょう。世界経済の先行き不透明感が漂う中で、政治・金融システムが安定している日本の不動産市場の魅力はより高まっており、投資額も増加傾向にあります。
また、2025年に予定されている大阪万博や入国制限緩和に伴う訪日観光客受け入れのためのホテル開発なども投資意欲向上の要因と言えます。
一方で、市場にとってネガティブな要素にも注目すべきでしょう。日本の不動産市場に対する「買い」が進む背後で、不動産の市場そのものに対しては、世界の投資家心理が急速に悪化しています。原因は、インフレ懸念とエネルギーコストの上昇等の問題です。特に2022年第3四半期では、エネルギーや燃料コスト上昇に対する懸念が以前よりもさらに大きくなっています。インダストリアル市場などでは、エネルギーコストが「第二の家賃」と見なされるほど懸念が上昇し、賃貸活動が減速し始めています。
当面、不動産価格は維持される可能性が高いので、価格の安定性と円安が続けば、日本の不動産に海外からの資金流入が見込まれるようにも見られます。しかし、ウクライナ侵攻による世界経済の先行きが不透明になる中、海外の市況が一気にリスク回避の市況となれば、日本への不動産投資額は減少する可能性もあります。今後も仮に円安基調が続くのであれば、海外投資家にとっては追い風となりうる部分もありますが、世界情勢の状況次第ではいくら割安感があるとはいえ、投資額が抑制される可能性を秘めています。
4. 入国制限解除によるインバウンド需要回復は不動産市場にも好影響の見込み
2022年10月の入国制限解除によって、外国人観光客数は大幅に増加しました。それに伴い、停滞していたホテル市場も回復が見込まれ市場の活性化が期待できるでしょう。また、円安により日本の不動産にさらなる割安感が出たため、海外投資家による不動産投資は増加傾向にあります。
一方で、日銀の低金利政策もそろそろ終焉期を迎える可能性もあり、加えて円安に歯止めがかかれば不動産価格の上昇がどうなるかは不透明感があります。マーケット自体がリスク回避へ向かえば日本への不動産投資も減少傾向になる可能性もあるでしょう。したがって、引き続きアメリカの金利情勢やウクライナの状況など、世界の動向について注目しながら不動産投資を進めていくことになりそうです。
不動産投資アドバイザー(RIA)、住宅ローンアドバイザー(住宅金融普及協会&金融検定協会)、相続診断士、既存住宅アドバイザー、貸家経営アドバイザー
寺岡 孝 氏
Takashi Teraoka
住宅コンサルタント。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年に独立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、これまでに2500件以上の相談を受けている。