CRE戦略

事業用不動産の売却|
手順や方法、費用・税金、ポイントなどを解説

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事業用不動産の売却|手順や方法、費用・税金、ポイントなどを解説

事業運営や投資などの目的で取得した事業用不動産が不採算不動産や遊休不動産になり、悩んでいる事業者も多いのではないでしょうか。そのような不動産に対して有効なのがCRE戦略です。
CRE戦略とは、事業用不動産について、企業価値向上の観点から経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限に向上させることです。そのCRE戦略の1つに売却という選択肢があります。
この記事では、事業用不動産の売却手順や方法、費用、税金、ポイントなどについて解説します。詳しく知りたい方は是非参考にしてください。

目次

  1. 事業用不動産とは
  2. 売却方法
  3. 売却の流れ
    1. 複数の不動産会社に査定を依頼する
    2. おおよその相場を確認する
    3. 不動産会社と媒介契約を締結する
    4. 売却活動に取り掛かる
    5. 売買契約を締結・引き渡しを行う
  4. 売却にかかる費用・税金
  5. 事業用不動産売却を成功させるポイント
  6. 状況に応じて事業用不動産の見直しを行うことが重要

事業用不動産とは、事務所やビル、店舗、マンションなど事業運営に使用される不動産を意味します。具体的には、企業が事務所として所有しているビルや店舗、テナントとして貸し出しているビル、ホテルなどの宿泊施設、工場や研究所、倉庫、駐車場などです。

事業用不動産をうまく活用できれば、多くの収益を得ることによって企業経営にプラスの影響を与えます。しかし、活用がうまくいっていない不採算不動産、遊休不動産などは、管理や維持に無駄な費用がかかり企業経営にマイナスとなるでしょう。

企業価値向上の観点から、経営戦略的視点に立って見直しを行うCRE戦略に取り組めば、収益性の工場や財務状況の改善により、不動産投資の効率性を最大限に向上させることが期待できます。

CRE戦略には、投資や事業拡大を目的とした取得や経営をスリム化するための不動産売却などの選択肢があります。

事業用不動産の活用法について詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

関連記事:事業用不動産を最適化する方法とは?4つの活用法とメリット・デメリットについて解説

一般的な不動産売却においては通常売却が選択されます。しかし、事業を継続しながら資金を確保したい、現金化を急いでいる、廃業を検討している場合など、それぞれの目的によって最適な売却方法が異なるので注意してください。

売却方法には以下のような選択肢が挙げられます。

  • 通常売却
  • セール&リースバック
  • 不動産業者買取
  • 不動産M&A

違いをまとめると、以下の通りです。

売却方法 特徴
通常売却 ・不動産会社に仲介を依頼し買い手を探してもらう方法
・売却価格が他の方法より高くなりやすい
・売却までに時間がかかる可能性がある
・所有権を失うので不動産を使用しない場合に有効
セール&リースバック ・使用し続けながら売却する方法
・売却価格が通常売却より低くなりやすい
・賃料を支払う必要はあるものの、使用を継続できる
・事業を継続しながら資金を確保したい場合に有効
不動産業者買取 ・不動産会社が直接買い取ってくれる方法
・売却価格が通常売却より低くなりやすい
・現金化までの時間を短縮できる
・期日が限られている場合に有効
不動産M&A ・不動産の取得を目的としてM&Aを行う方法
・通常売却より税務メリットを受けられ可能性がある
・事業承継や相続を検討している場合に有効

事業用不動産を売却するにあたり不動産会社に仲介を依頼する場合、以下のような流れで売却を進めます。

  1. 複数の不動産会社に査定を依頼する
  2. おおよその相場を確認する
  3. 不動産会社と媒介契約を締結する
  4. 売却活動に取り掛かる
  5. 売買契約を締結・引き渡しを行う

トラブルを防ぎ、事業用不動産の売却を成功させるためにも、各ステップについて詳しく見ていきましょう。

不動産を売却する場合、まずは不動産会社に査定を依頼し、所有不動産の市場価格を把握することが大切です。不動産会社に査定を依頼する際、1社だけで良いと考えている方もいるでしょう。しかし、1社だけに査定を依頼しても、その査定結果が適切かどうか分かりません。

仮に相場よりも低い査定結果だった場合、安く売り出すことで損をする可能性があるので注意が必要です。一方、査定結果が高ければ良いというものでもありません。相場よりも高い査定結果だった場合は、高く売り出したことが原因で、なかなか買い手が見つからず売り時を逃す、最終的に値引きすることになる可能性があるので注意が必要です。

不動産会社によって査定結果が違うため、複数の不動産会社に査定を依頼し、最適な売出価格を設定しましょう。

売却希望価格で成約に至るとは限りません。最終的な売却価格は売主と買主との交渉によって決められた金額となるため、いくらで売却すべきかおおよその相場を把握しておくことが重要です。

例えば、類似不動産の売出情報が分かる不動産ポータルサイト、公的機関の公表している公示価格、過去の類似不動産の取引事例を掲載している土地総合情報システムやレインズマーケットインフォメーションなどを確認すれば、おおよその相場が分かるでしょう。

人脈を活かして自身で買主を探すことも不可能ではありません。しかし、不動産会社を介さずに買主を探す場合、買主が見つかりにくいだけでなく、売却後にトラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。

不動産会社と媒介契約を締結して売却に進むと、専門家によるサポートで成約までの時間を短縮でき、不備が生じるリスクを軽減することでトラブルを防げるでしょう。

媒介契約には、3つの種類があります。

契約の種類 一般媒介契約 専任媒介契約 専属専任媒介契約
自己発見取引 不可
有効契約期間 無制限 3か月以内 3か月以内
依頼できる会社数 複数社に依頼可能 1社のみ 1社のみ
依頼主への報告義務 なし 2週間に1回以上 1週間に1回以上
指定流通機構への登録 義務なし あり(7営業日以内) あり(5営業日以内)

一般媒介契約は自由度が高い一方、積極的な売却活動にならない恐れもあり、好条件での売却を希望している場合は専任媒介契約や専属専任媒介契約を選択したほうが良いでしょう。

媒介契約を締結した不動産会社と話し合って売出価格を決めます。売却活動では、不動産会社による顧客へのアプローチ、レインズへの登録、インターネットや新聞などへの広告掲載などが行われます。

購入希望者が現れた場合は、実際に現地を訪れて確認する内覧を実施し、双方の提示した条件で合意に至れば売買契約の締結へと進みます。

売買契約の締結では、不動産会社が重要事項説明書を作成し、売主と買主に売買取引の主要事項の説明を行います。

問題がない場合、売買契約書に署名・捺印を行って、売買契約の締結が完了です。売買契約締結後は、売買契約に記載されている期日に代金の決済と物件の引き渡しなどが行われます。

事業用不動産を売却する際に必要となる主な書類は以下の通りです。

  • 建物図面
  • 測量図
  • 賃貸借契約書一覧
  • 固定資産税等納付書

不動産会社や売却する事業用不動産の種類によって必要な書類が異なるため、あらかじめ不動産会社に確認しましょう。

事業用不動産の売却をスムーズに進めトラブルを回避するには、売却にかかる費用や税金、必要書類などを確認しておくことも大切です。

事業用不動産を売却する際にかかる主な税金や費用は以下の通りです。

費用・税金 詳細
印紙税 売買契約書といった課税文書を作成する際に課される税金
仲介手数料 仲介を依頼して成約に至った場合に不動産会社に支払う報酬
登記関係費用 登録免許税、司法書士報酬、抵当権抹消費用
測量費用 土地の測量を行う際にかかる費用
譲渡所得にかかる税金 不動産売却で得た所得に対してかかる税金
移転や不用品処分などの費用 引っ越し業者や廃品回収業者などに支払う報酬
消費税 仲介手数料や司法書士報酬などに上乗せされる税金

個人が不動産を売却する場合と課される税金はほぼ同じですが、譲渡所得にかかる税金が異なります。個人は不動産売却で得た利益に対して譲渡所得税という税金がかかります。税率は建物の所有期間によって以下のように異なります。

  • 所有期間5年以下(短期譲渡所得):所得税30%、住民税9%の合計39%
  • 所有期間5年超(長期譲渡所得):所得税15%と住民税5%の合計20%

法人の場合は譲渡所得税がかかりません。不動産売却で得た利益は企業の事業所得として扱われるため、他の事業の所得と合算されて法人税が課されることになります。

不動産売却で利益が出ても、事業が赤字だと相殺することが可能です。逆に黒字の場合は利益が増えることで法人税の負担が大きくなります。そのため、今期が黒字になる場合は売却損のある不動産を売却、赤字になる場合は売却益のある不動産を売却して相殺すれば税負担を軽減できるでしょう。

事業用不動産売却を成功させる上で重要なポイントとして、以下の3つが挙げられます。

  • 専門家に相談する
  • 何らかの欠陥が潜んでいないか確認する
  • 利用者がいる場合は事前の通知を忘れない

事業用不動産の売却では、専門知識が必要なシーンが多いため、専門家に相談することをおすすめします。事業用不動産の売却を得意とする不動産会社であれば、独自の販売網を活かした速やかな売却が期待でき、必要に応じて税理士や弁護士といった専門家を紹介してもらえるでしょう。

また、契約不適合責任に注意が必要です。契約不適合責任とは、売却した事業用不動産に何らかの欠陥があった場合、売主が負う責任のことです。もし、欠陥があった場合、買主に欠陥の修補、代金減額、損害賠償、契約解除などを請求される可能性があります。トラブルを回避するためにも、欠陥がないか確認する、欠陥があれば契約前に必ず告知しましょう。

事業用不動産を貸し出している場合、入居者に通知する必要があります。同意までは必要がありませんが、賃料の支払先や解約時の敷金の請求先が買主に変わるため、忘れず通知しましょう。

事業用不動産の維持や管理には、多額の費用がかかります。不要な事業用不動産を所有し続けている場合、収益性や財務状況が悪化する可能性があり、CRE戦略の観点からも見直しを行うことが重要です。

事業用不動産の売却はCRE戦略の1つですが、誤った判断で売却を失敗しないためにも、不動産会社といった専門家に相談しながら最適な売却方法を選択しましょう。

宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano

関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。