地方創生が重要視される背景とは?
現状の取り組みと事例
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都市部への一極集中を回避するため、昨今は地方創生に注目が集まっています。地方創生とは、地方で顕著に見られる人口減少に歯止めをかけ、それぞれの地域で住みやすい環境を確保する動きのことです。
地方創生に取り組むのは国や自治体ばかりではありません。ESGの観点から、積極的に地域の発展に寄与する活動を行う企業も増えています。
なぜ今、地方創生が重要視されるのかについて解説し、実際に各地方でどのように魅力的な街づくりを行っているのか紹介します。自治体や企業の具体的な取組事例を記載しますので、ぜひご覧ください。
目次
1. 地方創生が重要視される背景
地方創生が重要視される理由としては、次のものが挙げられます。
- 都市部一極集中による弊害の多さ
- 一極集中によるリスクの高さ
都市部への一極集中は、さまざまな弊害を生んでいます。通勤ラッシュや地価高騰、大気汚染、緑地不足など、暮らしにくさを感じる方も少なくありません。その一方で、地方では財政逼迫や過疎化が見られ、暮らしにくさに拍車がかかっている地域も多くあります。
また、一極集中のリスクの高さも懸念点です。万が一、直下型地震などが都市部で発生したときには、官民問わず多くの機関が正常に機能しなくなり、国全体が大きな混乱に巻き込まれることになるでしょう。
都市部一極集中の弊害を回避するためにも、地方創生が注目されています。地方がより魅力的になれば、東京などの都市部への人口流出が減り、空間的にも時間的にもゆとりのある地方での生活が可能になるでしょう。
実際に、次のような変化から徐々に地方創生の土壌は育ってきていると見ることができます。
- 人々の意識の変化
- 働き方の多様化
- 二拠点生活の増加
人々の意識の変化は、地方創生を後押ししています。例えば、「有名企業に就職して高所得を得る」というステレオタイプの成功イメージだけでなく、「近場に就職して夕食は家族全員で食べる」「顔の見える生産者として就農する」などのさまざまなライフスタイルも成功の形の1つとして認識されるようになってきました。
また、働き方の多様化も地方創生を促進しています。働き方改革や新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとしてテレワークに対応する企業が増え、地方での暮らしと都市企業の仕事を両立できるようになってきました。
ライフスタイルが多様化したことで、二拠点生活を選ぶ方も増えてきました。生活と仕事の拠点を分けたり、平日と週末で拠点を分けたりする方もおり、地方移住の需要が増していると考えられます。
2. 地方創生の取り組みや現状
地方創生の取り組みは、人口の一極集中改善や過疎地域の救済といった一時的な問題を解決するためだけに行われているのではありません。日本全体を暮らしやすくするため、持続可能な社会を形成するために行われています。また、自治体だけでなく、企業主体の取り組みもあります。
企業が主体的に地方創生に取り組むことは、ESG投資が世界的な潮流になってきていることとも無関係ではありません。ESG投資とは企業の社会的責任を重視し、環境・社会・ガバナンスに配慮した企業を選んで行う投資です。そのようなステークホルダーからの支持を得るため、社会活動への貢献を積極的に行う企業もあります。
また、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の目標には「住み続けられるまちづくりを」や「すべての人に健康と福祉を」など、地方創生につながるものが多数あります。こうした社会的背景も国や企業が地方創生の取り組みを推進する要因と考えられます。
地方創生の取り組みについて、いくつかの事例を見ていきましょう。
2.1. 企業主体の取組事例
地方に本社を置くある航空会社では、東京からの移住者増を見込んで、東京・地方間の乗り放題航空券と地方の賃貸住宅をセットにしたサブスクリプションサービスを開始しました。
テレワークの普及によりインターネット環境と適切なデバイスさえあれば、場所を問わず業務ができるようになってきています。しかし、クライアントとの交渉などオンラインで対応できない業務もあり、生活拠点を地方においても都市部への移動が必要になることがあります。
航空券のサブスクリプションサービスがあれば運賃を気にせずに出社でき、なおかつ地方での生活を維持することが可能です。
また、ある不動産会社では、金融機関の元社員寮をシェアハウスにリノベーションしました。単に建物を用意するだけでなく、地域イベントの盛り上がりを期待する地元住民の声を反映し、シェアハウスの住民が積極的に地域と交流するイベントも手掛けています。ハードを作るだけで終わらないことも、企業が地方創生に取り組む新しい流れといえるでしょう。
2.2. 自治体の取組事例①長野県下伊那郡阿智村
昼神温泉やスキー場などの観光資源を有する長野県下伊那郡阿智村は、人口わずか6,000人強の小さな村です。バブル期には中京圏からのアクセスの良さもあり、温泉地として、そしてスキー場として栄えてきました。しかし、バブル崩壊後の景気低迷により観光客の減少が顕著になり、阿智村全体の観光業が衰退していきます。
そこで阿智村は第三セクター企業と協力し、昼神温泉の知名度を全国区にするための取り組みを開始しました。また、環境省から「夜空の明るさが星の観測に適している場所」という指標で最上位の認定を受けたことを基に「日本一の星空」を謳い、ナイトツアーも実施しました。
現在では温泉施設の宿泊と組み合わせたり、天体望遠鏡のメーカーと提携したりすることで、より大規模な事業として確立しています。これらの取り組みから観光需要は大幅に回復し、地方都市活性化の成功事例としてニュースサイトなどでも取り上げられるまでになりました。
2.3. 自治体の取組事例②徳島県神山町
市街地から離れた徳島県神山町も、人口減少に悩む地方都市の1つでした。しかし、テレビ放送の地上デジタル化により町全体で通信網が整備されたことを機に、2012年から「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」を開始し、企業誘致に成功して、北海道と並び全国1位のサテライトオフィス開設企業数を記録します。
現在では、神山町だけでなく徳島県全体がサテライトオフィス先進県として認知されるようにまでなりました。
また、地方都市に限らず首都圏の郊外都市でも多くの自治体が都市再開発などで地域の活性化に取り組んでいます。事例について詳しくは以下をご覧ください。
参考:【都市再開発特集】再開発で勢い増す郊外エリア!首都圏の開発実例も紹介
3. 地方創生による効果
地方に人が流れることで、経済の流れも変化が見込まれます。商業施設の建設や雇用創出、住宅需要の増加など、今まで都市部に集中していたニーズが地方にも拡大していくでしょう。雇用が創出されると、若者の移住・定住にもつながります。経済と雇用、人の理想的な循環が生まれることで、より一層地方都市が活性化されると考えられます。
社宅や倉庫、工場などの形で地方に不動産を所有している企業も、資産をより有効に活用できるようになります。シェアハウスや民泊施設、賃貸住宅として社宅を再活用したり、データセンターや流通センターなどの施設用地として利用したりすることもできるでしょう。また、ニーズの拡大から、地方不動産の価格上昇も期待できます。
4. 地方の不動産にも目を向けてみよう
地方創生は着実に進んでいます。国や自治体だけでなく、規模を問わず企業も地方創生に積極的に取り組むようになってきています。
順調に地方の活性化が進み都市集中型の状況が緩和されれば、今後、地方都市の地価上昇も見込めるでしょう。首都圏の不動産だけでなく地方都市の不動産にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
弁護士、宅地建物取引士、松浦綜合法律事務所代表
松浦 絢子 氏
Ayako Matsuura
京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士の資格も有している。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産・建築、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。