講演1 ー 東京・大阪 ー
税の専門家が語る不動産マネジメント
利回り改善傾向に立地が重要
都市部は有利
税理士法人 深代会計事務所 理事長
(公認会計士・税理士)
深代勝美 氏
事業用資産の買換特例や
生産緑地法改正にも注目
日本の不動産投資信託の期待利回りは、近年は4%台まで回復している。私が関わった不動産投資事例でも、例えば東京・原宿のソーシャルアパートメントは表面利回りが4.5%、北千住のホテルも5.1%、京都の町屋を旅館にリノベーションした物件に至っては5.7%と高い水準のものが多い。
ただ、どんな不動産でもこうした利回りが期待できるかというとそうではない。やはり立地が重要だ。郊外よりも都心部であることは強みになる。「不動産は都市部で持て」ということが改めて言えるわけだが、不動産に関わる税制で注目したいのが、事業用資産の買換特例だ。課税の繰り延べが可能になるため、年度あたりの法人税納税負担が軽減される。
タワーマンションの購入・売却を相続税節税対策に利用する例が増えているが、これに対して政府は節税規制を進めようとしている。マンションの評価額を時価評価にしようというものだ。この対策もしっかり練っておく必要がある。また、生産緑地法の改正が相続税対策や地価価格に与える影響についても注意を促したい。
不動産は運用することによって初めて価値を生むものだ。もし不動産を保有するだけで運用しないとすれば、新たな収益機会の損失になるだけでなく、物件の老朽化やメンテナンス費の増大に悩まされることになる。ただ、不動産の専門的な知識なしに高い利回りで運用するのは難しい。パートナーとして共に課題を解決できる不動産の専門家を選ぶことが重要になる。
講演2 ー 東京・大阪 ー
企業の持続的成長に必要な不動産戦略
今が「遊休資産」を
「優良資産」に変えるチャンス
東京
東急リバブル ソリューション事業本部
法人営業第三部長
青木信雄 氏(理事)
大阪
東急リバブル ソリューション事業本部
法人営業第一部長
関口良介 氏
不動産戦略の“常識”が変化
所有資産に新たな価値を創出
昨今CRE戦略の〝常識〞が大きく変化している。さまざまな業界で生産性の向上や人手不足への対応が求められる中、働き方が多様化し、働く人の快適さを重視した環境づくりや、テレワーク導入企業が既存のオフィスとは別に「サテライトオフィス」を設ける動きなど、オフィスの空間や立地に新たなニーズが生まれている。保有コスト等の問題から多くの企業が手放していた社員寮を、組織の活性化や人材確保の目的で新たに設置する企業も出てきた。
不動産の収益性に着目した変化もみられる。たとえばコンバージョン(用途転用)によって既存の不動産に新たな価値を生み出す手法に注目が集まっている。インバウンド需要の高まりを受けてオフィスビルや商業ビルをホテルに転用し、高い収益性を確保するケースなどがその例だ。また、活況な不動産市況を受け、企業が本業を補完するために新たに不動産投資へ乗り出すケースも増えている。
こうした不動産の常識の変化によって、これまで「遊休資産」とみなされていた不動産が「優良資産」に変わる可能性がでてきた。今こそ、所有不動産を経営資源として見直し、新たな価値を見出す好機だ。
しかし、不動産戦略を進めるには「現状把握」「戦略構築」「戦略実施」の3つのフェーズがあり、それぞれ膨大な手間暇とノウハウが必要となる。そこで当社が各フェーズを支援した事例をいくつか紹介したい。
まずは「現状把握」。不動産を見直すと言っても、企業の中には、そもそも自社が所有する不動産の状態を正確に把握できていないケースがある。物件が多い場合はなおさらだ。
ある外資系企業が選択と集中のため日本での不動産事業から撤退する際、当社は、同社が所有していた200棟以上の不動産の賃貸借契約書や竣工図などの資料の精査を行った。その量は段ボール1000箱以上におよび、当社は社内に専用のプロジェクトルームを用意するとともに20人規模の専属チームを投入。わずか2カ月で資料を整理し、データ化を完了させた。
関西の大手食品会社からグループ企業の事業撤退に伴う不動産売却を依頼されたケースでも、対象となる全国のオフィスや工場などの資料を精査するところからスタートした。さらに、売却活動前に不動産調査を実施し、不動産リスクを事前に把握することで無用なトラブルを排除し、期限内にすべての不動産を売却することができた。
続いてのフェーズは「戦略構築」。大手医薬品会社が生産・販売拠点、支社の統廃合を進める中、千葉県に所有する約1500坪の土地が接道しておらず、新たに建物を建築することができないため買い手が見つからず売却が滞っていた。そこで当社は、隣地を買収し接道を確保した上でまとめて宅地やマンションの開発用地として売却することを提案。想定購入者やスケジュールなどを含めて具体的な戦略を構築し、売却をサポートした。その結果、土地の評価を高め、隣地の買収コストも吸収した上で売却を完了できた。
最後は「戦略実施」。資金力のある地方の飲料メーカーが都心に自社ブランドのコンセプトショップ開設を希望していたが、人気エリアのため最適な物件が見つからない状況だった。そこで当社は、店舗単体ではなく、店舗付き賃貸マンションの取得を提案。検討可能な物件の幅を広げ、1階部分を店舗として利用し、それ以外を収益不動産として運用することで、希望エリアでの出店に加え新たに優良資産による安定収益を確保し、高い顧客満足が得られた。
また、本業を補完するためインバウンド需要が期待されるホテルの購入を希望していた企業に対しては、条件に合致するホテルが見つからない中、投資用マンションとして開発されていた物件を簡易宿泊施設にコンバージョン(用途転用)し、取得することを提案。既に建設中ではあったが、当社は行政への交渉に同行し、プロジェクト管理の支援も行い、購入を実現。戦略実施を後押しした。
不動産の活用は、生産性や経営効率の向上、本業の補完などメリットは多いが、踏み出せていない企業は依然として多い。専門部署を持たなかったり、専門知識などの情報が不足しているといった理由で実行に移せていないのが実情ではないだろうか。今回紹介した事例のように、当社は企業の不動産戦略をさまざまな側面からサポートしている。不動産活用を実行する上でまず必要となる所有不動産の状態や価値を知ることについても専門部署によるサービスを提供しており、ぜひお役立ていただきたい。
特別講演 ー 東京 ー
今後の日本経済の見通し
「七重苦」の課題克服し、
日本経済は進む
大和総研 常務取締役
調査本部副本部長 チーフエコノミスト
熊谷亮丸 氏
屋根を修理するなら
日が照っているうちに限る
安倍政権成立前の日本経済には①円高②自由貿易の遅れ③環境規制④労働規制⑤高い法人税⑥電力不足・電力価格の上昇⑦日中関係の悪化といった「七重苦」が存在していた。①〜⑤は企業の海外移転の要因にもなることから、俗に「追い出し5点セット」などとも呼ばれていた。しかしながら安倍政権は「プロビジネス(企業寄り)」の政策をとり①〜⑦を全て反対方向へと転換し、日本経済は正常化に向かった。今後は、国民の将来不安を取り除く政策に取り組むことが肝要である。なかでも財政再建は中長期的にみて日本経済に好影響をもたらすことが期待される。現在、日本の政府債務残高対名目GDP比を10%ポイント削減できれば、一人あたりの実質GDP成長率は0.29%ポイント改善できる計算になる。
価値観や生き方の多様化、サスティナブルな成長、人工知能(AI)・ロボットとの共存共栄といった課題に対しては、日本は元来自然との共生を大切にする安定的な社会であったこと、長寿企業が多くそれはサスティナビリティーのモデルにもなり得ること、ユーザーの要求水準が高く、高齢化などの課題にも率先して取り組んできたことなどが、強みとなるだろう。
むろん、ダイバーシティの欠如は画期的なイノベーションが起こりにくい風土につながっているし、リーダーシップの弱さや意思決定のスピード感の欠如などは克服すべき課題ではある。強みをさらに引き出し、弱点を是正する。ジョン・F・ケネディの名言に「屋根を修理するなら、日が照っているうちに」というのがあるが、まさに今日本はそのタイミングにあるといえる。
特別講演 ー 大阪 ー
今後の日本経済の見通し
時代の変化と共に
資産の価値が変わっていく
東京大学 名誉教授
学習院大学 国際社会科学部 教授
伊藤元重 氏
過熱した世界経済の中で
どうリスクに備えるかが重要
身近な例では、アマゾンによって物流の世界に大きな変化が起こっている。それにともなって不動産の価値も変化している。東京も大阪も産業構造の大きな変化の時期に来ているのは確か。かつての分散型の都市構造から、テクノロジーによって金融、IT、エンターテインメントなどサービス産業が中心の時代となり、都市の中心部に職住遊学の混在と集中が起きている。そんな社会構造の変化の中で不動産というものの価値も変化している途上だ。
世界経済が好調な現在だからこそ、リスクを考えておく必要がある。過熱している現在の状況から、少し頭を冷やす時期に来ているのではないかと考えている。海外でも、今のマーケット状況を疑問視する経済学者が多い。GDPに対する負債にレバレッジが過度にかかっているという見方だ。元アメリカFRB議長で優秀な経済学者でもあるジャネット・イエレンは、今の世界の経済に大きな不安要素があると発言している。そういう意味でも冷静にマーケットを注視する時代になっている。
飛躍的に経済が回復したかに見える今の日本経済だが、消費、投資、政府支出、輸出といった需要に比べて、資本、労働、生産性といった供給がまだまだ追い付いていない。端的に言えば労働生産性がまったく上がっていない。それは旧態依然としたやり方で仕事をやっているということでどこかで限界がやってくる。この供給が、需要のスピードに追い付いてくれば、日本の経済がまた大きく飛躍するチャンスでもある。そのためにも今の過熱した経済には十分な警戒が必要である。
※本記事は2018年12月18日(火)付 日本経済新聞 朝刊掲載の全面広告を再構成したものです。
※会社名、所属部署名、役職はセミナー当時のものです。