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企業不動産を活用したストックビジネスが注目される理由


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企業不動産を活用したストックビジネスが注目される理由

継続的な収益を確保できるビジネスモデルとして、「ストックビジネス」が注目されています。
景気の波に左右されず継続的な収入が得られるため、さまざまな業界において取り組まれていますが、中でも不動産賃貸業はストックビジネスの典型と言える事業です。
近年、企業が所有する不動産の有効活用を図ることにより、企業価値を高めようとする経営戦略が重視されるようになりました。そのような動きの中で企業不動産を活用したストックビジネスはCRE戦略としての重要な選択肢と言えます。
この記事では不動産におけるストックビジネスについて、メリットやデメリット、そして実践的な活用方法を解説します。

目次

  1. ストックビジネスとは
    1. ストックビジネスの種類
  2. ストックビジネスが注目される背景
  3. 不動産におけるストックビジネス
    1. 自社所有の不動産を活用したビジネス
    2. 第三者所有の不動産を活用したビジネス
  4. 不動産ストックビジネスのメリット・デメリット
    1. メリット
    2. デメリット
  5. CRE戦略としてのストックビジネス

ストックビジネスとは収益モデルを表す言葉で、反対語とも言えるのがフロービジネスです。

ストックビジネスの定義は「一度の契約(取引)により顧客に継続的なサービスや商品提供を行う」ことであり、フロービジネスは「その都度契約(取引)を行った上で1回きりのサービスや商品提供を行う」ことと捉えられています。

代表的な例としては「ビジネス誌の定期購読」はストックビジネスに該当し、書店などでビジネス誌を販売するのはフロービジネスです。

ストックビジネスは多くの分野で実際に行われている収益モデルで、次のような種類があります。

〇サブスクリプション型サービス

  • 動画や音楽などの定額制配信
  • カーリース

〇月額課金ビジネス

  • クラウドアプリケーション
  • オンラインゲーム

〇不動産ストックビジネス

  • 不動産賃貸事業
  • 不動産一括査定サイト事業

不動産関係のストックビジネスとして、オフィス、店舗、住宅などの賃貸事業は以前からあったものです。最近では、賃貸する物件を1か所に特定せず「多拠点生活」に対応できるサブスクリプション型の賃貸事業もあり、ストックビジネスのバリエーションは広がっています。

多くの業界でストックビジネスが注目されていますが、その背景として経営環境の変化があるのではないでしょうか。

日本経済は高度成長期から安定成長期そして低成長期へと変遷し、現在は成熟期とも言われる時代です。今後は人口減少に加え世帯数も減少する社会になっていきます。

高度経済成長期は人口増加に伴って国民生活の消費も伸び、大量生産・大量消費の時代と言われました。しかし経済成長が鈍化するに従い消費スタイルにも影響が表れ、モノを所有することからモノを利用する時代へと変化しています。

このような変化は企業活動にも影響を与え、次のような視点が生まれたと言えるでしょう。

  • 人口減少により消費が縮小してもストックビジネスは継続的な売上が見込める
  • フロービジネスは売上に対する原価率が一定なため粗利益も一定となるが、ストックビジネスは事業が軌道に乗ると粗利益率が高くなる傾向がある
  • ストックビジネスは取引が継続前提のためキャッシュフローが安定する

以上の特徴は、フロービジネスからストックビジネスへの転換や、ストックビジネスの拡大といった経営戦略を変化させる要因ともなっています。

企業には事業目的で取得し使用していたさまざまな不動産がありますが、事業目的の変化や不動産が担っていた役割が変わり、遊休不動産になっているケースや有効な活用がされていない場合があると考えられます。

そのような不動産の有効活用は企業価値向上につながり、不動産の活用による収益の安定性は経営改善を目指す最善の方法とも言えるため、ストックビジネスが注目されているのではないでしょうか。


不動産ストックビジネスには2つのアプローチがあります。

  1. 自社所有不動産を対象にしたストックビジネスを目指す賃貸型ビジネス
  2. 自社所有不動産に限らず社会に存在する不動産ストックを活用したビジネス

1つ目は、既に所有している不動産の中で活用されていない、あるいは活用されていても収益性が低い不動産をストックビジネスとして活用するアプローチです。

2つ目は、自社所有不動産だけではなく、第三者が所有する不動産をも対象とします。取得あるいは賃借し、ストックビジネスを展開するアプローチです。

自社所有不動産を活用するストックビジネスの代表的なモデルは賃貸業です。主に家賃としての安定収入が得られます。

活用されていない、あるいは利用度の低い不動産、たとえば福利厚生の一環として所有しているものの利用率が低下した社員寮や社宅などは、手放さず他の用途に転換したりするケースが多いと推測されます。

以下に活用方法の一例をあげてみます。

【用途転換をする方法】

居住室の配置構成から賃貸住宅や宿泊型介護施設としての再利用が考えられます。運営方式は自社による管理運営のほか、専門の事業者に賃貸するサブリース方式も選択肢となります。

【同様の用途としてそのまま貸し出す方法】

倉庫や工場を所有しているが、業態が変わって遊休不動産となっているケースもあるでしょう。このようなケースでは、貸倉庫あるいは貸工場としての活用が考えられます。

【空きスペースを活用する方法】

本社あるいは支社を自社ビルとしている企業も多く、働き方の変化によりオフィススペースに空きが多くなっているケースも考えられます。自社利用スペースをコンパクトにまとめ、使用しないスペースを貸オフィスやレンタルスペースとして活用する方法も有力です。

さらにビジネス用途に限らずフィットネスジムやトレーニングジムなど、最近の健康志向に適合した活用も考えられるでしょう。

以上のような企業不動産をストックビジネスとして活用するにあたり、利用客の募集や運営に関しては不動産仲介会社や賃貸管理会社との連携が必要となる場合もありますが、自社での運営を目指すケースもあると思われます。

そのため既存の不動産ポータルサイトとは異なる、新たなプラットフォームが登場する可能性もありそうです。

自社やグループが所有する不動産だけに留まらず、第三者が所有する不動産を活用したストックビジネスもあります。

オフィス、店舗、住宅、宿泊施設、介護施設などの収益を生むビジネスは、不動産を所有せず工夫次第で大きな収益を上げることができます。不動産オーナーから物件を一括借上げし、賃貸事業の運営や社会福祉事業者への転貸など、オーナーに代わり事業運営する方法です。

定期賃貸借契約に基づいて一定期間を試験的に運用し、条件が整えば物件を取得する選択肢もあります。試験運用期間に事業ノウハウを吸収し、自社所有に転換する時点で本格的に事業参入する方法は、リスクの少ない新規事業の展開と言えます。

第三者所有の不動産を有効活用するノウハウは、人口減少・世帯数減少とともに増加する空き家や空き店舗、そして利用度の低い建物の再利用に貢献できます。不動産事業者を含めたあらゆる事業者にとって有意義なテーマとなるでしょう。

企業がストックビジネスを導入する場合、既に述べたような特徴のほかに経営上のメリットが生じます。また、導入にあたり計画段階で留意したいデメリットもあります。

不動産ストックビジネスは賃貸事業がメインになることにより生じます。

賃貸事業の収入は「家賃・賃料」であり、対象となる不動産は賃貸住宅、店舗や商業施設、オフィス、倉庫、工場、宿泊施設などさまざまな用途が考えられます。現在の用途にこだわることなく、立地条件により用途変更も視野に可能性を検討することができます。

メリットとしては次のポイントをあげられるでしょう。

  • 安定収入が確保できる
  • 事業の多角化が図れる
  • 遊休資産の有効活用が可能

賃貸事業は需要の把握が重要です。活用を図る不動産の立地から顕在需要や潜在需要を探り、ニーズに適合するよう対象不動産のリフォームなども必要でしょう。

賃貸市場にマッチした家賃設定と期待利回りの整合性を図ることができると、安定した収入が長期にわたり可能となります。

また遊休資産の活用を図る中でスタートした賃貸事業を、大きな収益性を維持できる事業に育てることができると、事業の多角化戦略にも寄与することになるでしょう。

ストックビジネスはヒット商品の開発などとは異なり、事業開始から短期間で成果が生まれるものではありません。

賃貸住宅や貸オフィス事業などは満室経営まで、ある程度の時間がかかります。既存の不動産を活用する場合であっても、ニーズに合ったリフォーム工事など初期投資が必要となります。

初期投資の回収まで数年~十数年という時間がかかる場合もあり、事業として成果を最終的に判断するには長期的な視点が必要です。

また事業開始後、ある程度の期間を経て満室経営まで至ったとしても、満室状態を長期にわたって維持するには、常にニーズにあったサービス提供ができているのか、ユーザーが使用する設備が陳腐化していないのかなどの検証が必要です。

設備や家賃などがニーズに適合しない状態だと解約の可能性を高めることになり、賃貸事業の最大のリスクである空室を増加させることになります。

不動産を活用したストックビジネスはCRE戦略の1つとして位置づけられます。所有不動産の活用状況を精査すると、事業内容の変更や業種変更など収益性の向上を図ることのできる不動産は少なくないでしょう。

対象となる物件種別は、オフィス、店舗、住宅、宿泊施設、介護施設など多様であり、需要が見込める立地であれば可能性は高くなります。

収益の安定性が期待できる一方で、軌道に乗せるまではある程度の時間も必要です。運営ノウハウの積み重ねにより成果が生まれるようになると、遊休不動産の有効活用とともに事業多角化戦略にも寄与することになるでしょう。

CRE戦略について詳しく知りたい方は、下記記事もご参照ください。

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一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。