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金利上昇が不動産売買に与える影響とは?
不動産投資市場の現状と見通しを予測

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金利上昇が不動産売買に与える影響とは?不動産投資市場の現状と見通しを予測

近年、世界的な経済状況の変化に伴い、金利の上昇が注目を集めています。日本でも政策金利引き上げにより今後の金利上昇が予想されており、不動産市場にどのような影響を与えるかが、企業や投資家にとって重要なテーマとなっています。
特に不動産投資においては、金利の変動が資金調達コストへ直接的な影響を与え、利益率や不動産価格にも波及効果が生じるため、慎重な動向分析が不可欠です。
本記事では、金利上昇時代の不動産投資戦略の変化を考察します。金利上昇が不動産市場に与える影響を多角的に検証し、不動産価格や企業の投資方針への影響など、不動産投資市場の現状や今後の見通しについて詳しく解説します。

目次

  1. 金利上昇が不動産市場に与える影響
    1. 金利と不動産価格の関係
    2. 金利上昇が企業の事業投資に与える影響
  2. 不動産投資市場の動向
    1. 不動産投資市場の現状
    2. 金利と不動産投資の関連性
  3. 金利上昇が不動産投資に与える影響
    1. 資金調達コストの増加
    2. 不動産価格の下落と投資利益率の圧迫
    3. オフィスと商業不動産の賃貸需要減少
  4. 投資家の動向
    1. 海外投資家の動向
    2. 国内投資家の動向
  5. 今後の見通しと考察
    1. 金利上昇によるリスクとチャンス
    2. 世界経済との関連
  6. 金利上昇時代の不動産投資戦略
金利上昇が不動産市場に与える影響

世界的な金利上昇の背景には、各国の経済政策やインフレ対策が深く関わっています。特に、中央銀行がインフレを抑制するために金利を引き上げる動きは、経済全体に波及し、不動産市場もその影響を免れません。

日本においても低金利政策が長く続いてきたものの、インフレ圧力や世界的な金利上昇の流れを受け、今後の金利引き上げが予想されます。これにより、住宅ローンや不動産投資の資金調達コストが増加し、個人や企業が不動産購入や投資に慎重になる可能性が高まります。

金利上昇は不動産市場に多方面から影響を与えますが、ここでは不動産価格と企業の投資方針に与える影響について見ていきましょう。

不動産価格の決定にはさまざまな要因が影響を与えます。一般的な要因としては、経済成長や需要と供給のバランス、政府の政策などです。

また、地域特有の人口動態や都市計画、交通インフラの整備状況なども不動産価格に影響します。さらに、個別の物件に関しては、建物の状態や立地、周辺の環境なども重要な要因です。

金利が上昇すると、不動産投資における借入コストが増加し、法人が不動産を購入する際の資金調達が難しくなります。この影響で、投資から得られる純収益(NOI)が減少し、収益性が圧迫されます。特に、借入を利用した不動産投資においては、コストが増えるために利益率が低下するでしょう。

さらに、金利上昇は期待利回りにも影響を与え、投資家はより高いリターンを求めるようになります。この期待利回りの上昇はキャップレート(還元利回り)の上昇につながり、キャップレートが上がると、不動産の価格は相対的に下がる傾向があります。

結果として、金利の上昇は不動産価格に対して下押し圧力をかけ、不動産市場全体の動向にも影響を及ぼす要因となります。

金利上昇は資金調達コストに直接的な影響を与え、企業における事業投資にも大きな影響を及ぼします。企業が銀行から資金を借り入れる際、金利が上昇すると借入コストが高くなり、その分、事業投資のリスクやコストが増加します。

特に、不動産の購入や設備投資など、多額の資金が必要なプロジェクトでは、金利の上昇がプロジェクト全体の採算性に大きな影響を及ぼしかねません。

例えば、大規模な商業施設やオフィスビルを取得する不動産投資の場合、金利が上昇すると借入コストが予想以上に膨れ上がり、投資から得られる収益が減少します。これにより、投資の採算性が低下し、企業は投資計画を見直す必要に迫られることがあります。多くの企業はこうした状況下で慎重に判断を行い、新規投資を延期、規模を縮小する可能性が高まるでしょう。

また、資金調達コストの増加は、企業の利益率にも影響を与えるため、長期的な経営戦略にも影響を与える要因です。企業においては、今後の金利動向を注視しつつ効率的な資金管理と投資戦略の見直しが重要となります。

不動産投資市場の動向

近年、日本の不動産市場は多様な要因によって成長を遂げてきました。特に東京や大阪などの大都市圏では、再開発プロジェクトが進行し、住宅や商業施設への投資が盛んです。一方、地方都市でもインフラ整備が進み、徐々に住宅需要が増加傾向にあります。

また、コロナ禍からの回復に伴い、オフィス需要も再び活発化しています。企業のリモートワークやハイブリッドワークへの移行に対応した新しいオフィススペースの需要が増加しており、不動産市場に新たな活力を与えました。

一方、Eコマースの急成長により、従来の小売店舗に対する需要は減少し、商業施設における賃料や空室率の変動が続いているのが現状です。

さらに、Eコマースの拡大に伴い、物流施設への需要が急増しており、企業は効率的な流通網を確保するために新しい物流拠点を積極的に開発しています。これにより、物流施設への投資が活発化し、不動産市場の成長を支える大きな要因となっています。

日本の不動産投資市場は、国内外の経済環境や金利動向の影響を受け、特有の課題に直面しています。投資用不動産の取引総額は微減傾向が続いており、特にJ-REITを含む上場企業の取引減少が目立ちます。

J-REITは安定した低金利での借入が可能で運用自体は堅調です。しかし、金利上昇への警戒感が強まり株価の伸びが抑えられているため、新規の不動産購入には慎重な姿勢が続いています。

一方、これまで市場を牽引してきた海外投資家の日本市場への関心も、一時的に落ち着いています。欧米の不動産市場が回復基調にある中、日本市場の収益性が相対的に低下し、海外からの投資額が減少しています。ただし、国内の投資家や非上場企業は再投資の意欲を高めており、国内資産の活用や資産効率化に取り組む動きが強まっています。

不動産種別で見ると、賃貸住宅はインフレによる賃料上昇期待もあり、依然として幅広い投資家層からの関心を集めていますが、店舗や物流施設、オフィス、ホテルなどは需要がやや減少気味です。賃料の成長が見込みにくい種別もあり、特に物流施設では、首都圏における供給と需要のバランスが悪化しているため、物件の成約数が減少傾向にあります。

今後も日本の不動産市場は国内外の金融政策や経済環境に影響を受けることが予想されるため、特に金利動向が市場に与える影響を見極めながらの投資判断が必要です。

金利と不動産投資には強い相関関係があり、金利が低い時には借入コストが抑えられ、投資活動が活発になります。しかし、金利が上昇すると資金調達コストが増加し、投資家は不動産投資に対して慎重になる傾向があります。

特に、長期プライムレートとキャップレート(還元利回り)の動向は、不動産投資の判断材料として重要です。長期プライムレートの推移から、投資状況を考察します。

長期プライムレートの推移

参照:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」から作成

長期プライムレートとは、金融機関が信用力の高い企業に対して長期間融資を行う際に適用される基準金利で、企業が優遇された金利で資金を調達する際の指標です。

一方、キャップレート(還元利回り)は不動産投資の収益性を評価するために用いられ、不動産から得られる純収益を物件価格で割って算出される指標です。

日本の不動産投資市場は、長期にわたる低金利政策の支援を受けて成長を続けてきましたが、2020年以降は新型コロナウイルスへの景気刺激策により一時的な活性化が見られました。その後、世界的なインフレ圧力が強まり、金利が上昇しています。

2020年には長期プライムレートが1.00%でしたが、2024年には1.7%にまで上昇しました。これにより企業の借入コストが増加するため、不動産投資の収益性は低下傾向にあります。

さらに、プライムレートの上昇によりキャップレート(不動産の収益率)も上昇しやすくなります。キャップレートの上昇は不動産価格の下落圧力につながるため、これまでの価格上昇が調整されるかもしれません。

金利上昇が不動産投資に与える影響

金利上昇が不動産投資市場に与える具体的な影響を見ていきます。特に、資金調達コストの増加、不動産価格の低下、そしてオフィスや商業不動産の賃貸需要の減少などが大きな課題となるでしょう。

金利が上昇すると、企業が資金を調達する際のコストも大幅に増加します。特に、借入金に依存する不動産投資では、金利上昇が直接的に資金調達コストを押し上げ、投資の実行が難しくなるケースが増えます。

例えば、大規模な開発案件では、金利上昇により利息負担が数億円規模で増加することもあります。これがプロジェクト全体の収益性を圧迫する要因となり、企業は資金調達手段や投資計画の見直しを余儀なくされるでしょう。

対応策として、固定金利の融資や資本の直接調達を強化することが考えられます。これにより、将来的な金利上昇リスクを抑え、財務の安定性を維持することが可能となります。

不動産価格に対して下押し圧力をかける要因の一つが、金利の上昇です。借入コストの増加により不動産投資への需要が減少し、結果的に市場での物件価格が下がることにつながります。不動産価格が下落すると、投資家が見込んでいたキャピタルゲイン(資産価格の上昇による利益)が減少し、投資のリターンが圧迫されます。

特に、収益物件を対象とする不動産投資においては、金利が上昇することで収益率が大幅に低下。金利負担の増加は、賃貸収入から得られる純利益を減少させ、投資家にとってのリターンが従来の5%から3%に低下するなど、想定よりも低くなるリスクが増大します。

そのため、投資家は金利の変動に注視しつつ、利回りやリスクに応じた新たな投資戦略を検討しなくてはなりません。不動産市場においても、収益性を確保しながら引き続き積極的な投資が行われており、慎重ながらも市場全体への関心は持続しています。

金利上昇は、オフィスや商業不動産市場においても大きな影響を及ぼします。企業が借入金に依存している場合、金利の上昇によって賃貸オフィスの維持コストが増加し、新規の賃貸契約に対する需要が減少します。

さらに、景気が減速する局面では、企業の事業拡大のペースが鈍化し、オフィスや商業スペースの需要そのものが落ち込むことも予想されます。

特に、金利上昇に伴い既存ローンの条件変更や借り換えのコストが増大すると、既存の不動産オーナーは物件の売却や事業の縮小を検討する可能性が高まります。また、資産を売却して資金を確保する企業も増加するでしょう。

一方、新規の投資家は資金調達コストを理由に投資を控えるため、物件の売却がスムーズに進まない場合も想定されます。

このように、金利上昇でオフィスや商業不動産市場における需要が抑制され、空室率の上昇や賃料の低下を引き起こすリスクが高まります。企業や投資家は、賃貸需要の低下に対応するため、コスト削減や効率的な賃貸戦略の見直しが必要となるでしょう。

投資家の動向

金利上昇が続く中、不動産投資市場における投資家の動向は大きく変わりつつあります。これまでの低金利環境下では、比較的リスクを取って積極的に投資を行ってきた投資家も、金利上昇によって資金調達コストが増加するため、投資姿勢が一段と慎重になることが予測されます。

また、投資家層の多様化が進み、特にファミリーオフィスや新しいタイプの投資スキームに参加する個人投資家層の登場が目立つようになりました。これらの新たな企業や投資家の登場が、市場にどのような影響を与えるかは今後注目すべきポイントです。

金利上昇が世界的に進行する中でも、海外からの投資資金は依然として日本の不動産市場に強い関心を寄せています。特に注目されるのは、アジア系ファミリーオフィスの動向です。ファミリーオフィスとは、富裕層の個人や家族が自分たちの資産を管理・運用するために設立した機関で、最近ではアジアを中心にその勢力が拡大しています。

ファミリーオフィスは家族の長期的な資産運用を目的としており、短期的な利益ではなく、安定した資産保全や世代間の資産継承に重点を置いています。

アジア系ファミリーオフィスが勢いを保つ理由の一つは、長期的視点に基づく投資スタンスです。彼らは、短期的な市場の変動に左右されにくく、安定性を重視するため、商業不動産やインフラ関連の資産、さらには再生可能エネルギー関連の不動産への関心が高まっています。

特に、商業不動産や太陽光発電、風力発電に関連するプロジェクトは将来的な需要増が見込まれ、リスクを抑えながら持続可能な投資としてファミリーオフィスに注目されています。

国内の投資家の間でも、金利上昇の影響を受けて投資戦略に変化が見られます。特に、小口化投資や私募リート(非公開不動産投資信託)のようなプレイヤーが目立ってきています。小口化プレイヤーとは、不動産投資を少額から始められる商品を提供する事業者のことです。

こうしたプレイヤーは、一般の個人投資家にも手の届く商品を提供し、不動産投資の裾野を広げています。この動きは、低リスクで収益を確保したいという国内投資家のニーズに合致しており、金利上昇に伴う不安定な市場環境の中でも一定の成長が見込まれます。

また、私募リートも国内市場での存在感が増加。私募リートは、非公開で運用されるため、一般的なリートに比べて市場の影響を受けにくく、比較的安定したリターンを求める投資家に支持されています。

さらに、一般事業会社が自社資産の有効活用や収益多角化の一環として不動産投資を進めるケースも増加しており、資産の効率的な運用が期待されています。これにより国内市場は今後も一定の活性化が期待されるでしょう。

今後の見通しと考察

業や投資家にとっては、金利動向を見極め、適切な対応策を講じることが成功の鍵です。以下では、金利上昇によるリスクとそれに対する対応策、さらに世界経済との関連について詳しく考察します。

金利が上昇することで、不動産市場において複数のリスクが顕在化します。これまでの低コストな資金調達が難化し、不動産投資の収益性が圧迫される可能性があります。特に、借入金依存のプロジェクトでは、わずかな金利上昇でも利息負担が大きくなり、利益率が低下するリスクに注意が必要です。

次に、不動産価格の下落がリスクとして挙げられます。金利上昇により、物件購入希望者が資金調達を躊躇することで、需給バランスが崩れ、不動産価格が下落する可能性があります。

この状況下では、投資家が見込んでいた資産売却で得られる利益の実現が難しくなり、資産価値の下落が投資戦略に大きな影響を与えるでしょう。特に地方都市や一部の商業施設では需要の低下が顕著となり、価格下落のリスクが高まります。

一方、金利上昇はリスクだけではなく、チャンスも生み出します。市場が冷え込むことで、一部の投資家が撤退する可能性があり、それに伴い物件価格が下落することもあります。資金力があり長期的な視点を持つ投資家にとっては、こうした物件を割安で購入し、将来的に高いリターンを得るチャンスが生まれるかもしれません。

特に、都市部の商業不動産や再開発プロジェクトは、短期的な価格調整を経て、将来的に有望な投資先として注目される可能性があります。

日本の金利上昇は国内の経済政策だけでなく、米国や欧州の金利政策が大きく影響しています。特に、米国の連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が進める金利引き上げは、世界経済全体に波及効果をもたらし、日本の金融市場や不動産市場にも影響を与えかねません。

例えば、米国で金利が上昇すると、米ドル建て資産の利回りが魅力的になり、投資資金が米国に流れる傾向があります。これにより、国際的な資金フローが変動し、日本の不動産市場への資金流入が減少する可能性があります。

また、外資系企業が日本市場から撤退するリスクも考えられ、特に東京や大阪の商業用不動産に影響が及ぶことが予想されるでしょう。

一方、日本が超低金利政策を維持し続ける場合、海外からの投資家にとって日本の不動産市場が割安感を持つことになり、海外からの資金流入が増加するシナリオも考えられます。

欧州でもインフレ抑制のために金利引き上げが進行しており、これが日本の金融市場に影響を与える可能性もあります。欧米の経済が停滞すれば、輸出依存度の高い日本経済も影響を受け、国内不動産市場にも悪影響が及ぶかもしれません。

しかし、逆にグローバル市場の動向を見極め、安定的な成長が見込める地域に投資をシフトすることで、新たなチャンスを得ることも可能です。

今後、世界経済の動向に伴って日本の不動産市場も影響を受け続けると予想されますが、企業や投資家はこのグローバルな変化に対応した柔軟な投資戦略を持つことが不可欠です。

金利上昇が続く中、不動産市場における資金調達コストの増加や不動産価格の下落といったリスクが懸念されます。企業や投資家にとっては、投資の慎重化が求められますが、同時に物件価格の調整による新たな投資チャンスも出現するでしょう。

例えば、REIT(不動産投資信託)のように少額で分散投資が可能な投資方法が勢いを強めており、金利上昇のリスクを軽減しつつ、安定的な収益を得る手段として注目されています。また、固定金利ローンの活用や自己資本の強化により、資金調達リスクを抑えることも重要です。

短期的な市場調整を見極め、価格が下がったタイミングで優良物件を取得し、長期的にキャッシュフローを生む資産を持つことが、金利上昇時代の成功の鍵となるでしょう。

宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano

関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。
保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。