不動産業界がSDGsに取り組む意義と目的
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2015年に採択された「SDGs」は企業活動においても重要なテーマとなっています。現在「ESG経営」を意識する企業が多くなっていますが、SDGsは持続可能な経済基盤の確立によりESGが意図する目標の実現も図っています。
そして企業がSDGsに取り組む姿勢は、社会からの評価を高めることにも繋がります。
この記事では、SDGsの取り組みに対し、不動産業界がどのような方法でアプローチできるか、実例を交えて解説します。
目次
1. SDGsとは?
SDGsとは「持続可能な開発目標」のことで、Sustainable Development Goalsを略した言葉です。豊かな社会と、成長する経済、そして地球環境の持続可能性を高めようとする世界的な行動計画を表しています。
SDGsの前身として2000年に国連において採択されたMDGsがあります。SDGs はMDGsを補完するかたちで2015年に採択されたもので、2030年までの15年間において、17の開発目標を達成するよう定めています。
MDGsの主なテーマは開発途上国を中心とした「貧困の半減」でしたが、SDGsは「社会、経済、環境」とテーマを広げ、世界すべての国を対象としています。その意図を理念として表したのが「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という言葉です。
SDGsの実現には、世界のGDPの4.5%にあたるインフラ投資が必要とされており、公的資金に加え民間の積極的な投資も重要になっています。
2. SDGsに企業が取り組む意義と目的
SDGsが掲げる目標は企業活動とも密接な関係があります。
地球温暖化が世界的な問題として意識されるようになったのは1990年代になってからです。そのため企業活動にも、環境に対する問題意識が求められるようになりました。
企業活動に対する社会的評価は「企業の社会的責任(CSR)」という視点で行われるようになりましたが、現代では「環境」に「社会」と「ガバナンス」を加えた「ESG」という視点からも重要視されるようになっています。
ESGの視点から高い評価を受ける企業は社会的にも注目され、投資対象として選ばれる機会も多くなります。そして社会における重要性もより大きなものになっています。
大きな役割を担う企業には持続性が求められ、高い持続性と成長を実現するには経営上のリスクを回避し、新しいビジネスモデルを構築できる機会が必要です。
SDGsは、目標達成に必要な社会的・経済的基盤の形成により、はじめて実現できるものですが、社会的・経済的基盤における企業の役割は重要です。そしてその形成過程において企業は、大きなビジネスチャンスを掴むことが可能になります。
投資の対象や目標をSDGsの考え方に沿ったものにすることにより、社会的な評価を得ることができ、ビジネスとして成功する可能性が高まります。つまりSDGsは企業の持続的成長を実現させる社会的なツールと言えるのです。
そのような面からも、企業がSDGsに取り組むことは社会的意義のあることであり、その活動の中から、より社会貢献できる企業として成長・発展することが期待できるでしょう。
3. SDGsに対する企業の取り組み状況
ここからは、SDGsに対する企業の取り組み状況を確認してみましょう。
まず、企業においてSDGsがどの程度認知されているのか、そして理解度はどの程度あるのでしょうか。
中小企業基盤整備機構が行った中小企業を対象とした実態調査の結果をみると、「十分理解」と「やや理解」を合計した数値は2022年で36.8%でしたが、2024年には42.4%と理解度が若干深まっています。
また取り組み状況を確認すると「取り組んでいる」と「取り組む予定」を合わせた2024年の調査結果は34.6%であり、具体的な取り組みへのイメージがある企業では理解が深まり、取り組む予定のない企業では理解がすすまない、といった実態が理解度の調査結果に表れていると言えるでしょう。
出典:中小企業基盤整備機構「中小企業の SDGs 推進に関する実態調査(2024 年)」
次にSDGsへの取り組み方について確認します。
下図は上記の調査によるものですが、下記の3項目合計が全体の6割近くに及んでおり、ビジネスに直接結びつくような取り組み方をしている様子が伺えます。
- 既存事業に紐づけている
- 既存事業の改善や革新につなげている
- 新製品・新サービスの開発につなげている
さらに、直接事業との結びつきのない経営管理的な視点からテーマを設定し取り組みを行っている事例も多く、SDGsは幅広いアプローチの方法があると言えるでしょう。
出典:中小企業基盤整備機構「中小企業の SDGs 推進に関する実態調査(2024 年)」
一方、生活者レベルにおけるSDGsの認知度は、2024年3月の民間調査で8割に達するというデータもあり、企業における理解度はまだまだ物足りないと言えそうです。
とくに企業規模が小さくなるほど理解度が低くなるといった傾向があり、今後の促進には課題もあると言えるでしょう。
4. 不動産業界におけるSDGs
不動産業界においては、SDGsに関しどのようなアプローチが可能なのでしょうか。17の開発目標の中から不動産業界における、省エネルギーやDX、そして社会における役割などに関係する目標について紹介します。
・7.エネルギー:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
日本は2050年のカーボンニュートラルに向けて、再生エネルギーの活用に国をあげて取り組んでいるところです。住宅やオフィスにおけるZEH・ZEBの推進など、不動産業にとっても深い関係のある目標です。SDGsの目標達成期限である2030年は、カーボンニュートラルへの中間地点とも位置付けられ、不動産業界がもっとも力を入れたい分野の1つと言えるでしょう。
・8.成長・雇用:働きがいも経済成長も
この目標は不動産業界に限らずすべての産業界において重要なテーマですが、不動産という資産を創出し運用する役割のある不動産業界はとくに重要と言えるでしょう。不動産業界は、そこで働く人々が高い意識と理念を持ちつづけられる「場」である必要があります。それが生産性を高め企業を成長させ、社会的な課題を「不動産」をとおして解決すると言えるでしょう。
・9.イノベーション:産業と技術革新の基盤をつくろう
不動産業界においても推進されているDXは、この目標に合致するものと言えるでしょう。BtoB、BtoCで行われる不動産取引はIT化がすすみ、建設分野ではBIM/CIMの導入など、高い生産性と正確性が期待できるようになっています。社会の変化を先取りした新しい建物の提案など、不動産業界がこの目標に対し貢献できる余地は多いと思われます。
・11.都市:住み続けられるまちづくり
都市の構築や再生は不動産業界がもっとも貢献できるテーマです。日本においてはコンパクトシティ化が大きな施策となっていますが、都心部と郊外を一体化して成長を持続させる「まちづくり」において、個々の事業者が担う役割は多様なものになります。多様な中にも「住み続けられるのか? 」といった共通の視点を持ち、それぞれの事業者の連携がこの目標達成に重要なことです。
上記の他にもまだまだ多様なアプローチが可能です。不動産関連事業者は実際に行っているSDGsの取り組みを公開し顧客への理解を深めることにより、企業のブランド力を高め持続的成長を期待できると言えるでしょう。
5. 不動産業界におけるSDGsの取組み事例
ここでは、SDGsへの積極的な取り組みへの参考になるよう、不動産業界で実際に行われている実例をご紹介します。
5.1. 空き家対策
「空き家問題」は空き家が増加する地域にとって、持続的成長の観点から大きな課題となっています。空き家の増加は人口減少の表れであり、空き家対策を行うことは地域への人口流入を促進させ、地域の活性化を図る方法として位置付けられます。
そのような事例として、全国の農村や観光地などの空き地や空き家を、都市居住者に対して媒介する企業があります。
全国の売却希望物件をデータベース化し有料の会員に情報提供、購入を希望する会員には物件のある地域の慣習や生活方法などを徹底的にアドバイスし、二拠点居住や移住に関わる心理的なハードルを取り除いて売買に至っています。
都市居住者の「田舎暮らし」ニーズに対応したビジネスモデルと言えるでしょう。
なお、この企業はすでに同事業を30年継続し、物件数の多い地域に現地事務所を設置、業態拡大を果たしています。
[対応するSDGsの目標]
11.住み続けられるまちづくりを
17.パートナーシップで目標を達成しよう
5.2. ZEHや低炭素化住宅の推進
ZEHや炭素化住宅は温暖化対策の上で重要なテーマであり、多くの企業が取り組んでいます。ZEHは戸建住宅と集合住宅の両方を対象としており、戸建のほうが取り組みやすいのが現状ですが、ここでは集合住宅において脱CO2を目指している事例を2つ紹介します。
1つ目は中層の集合住宅を木造+RC造のハイブリッド構造とした取り組みです。
集合住宅は鉄筋コンクリート造が主流ですが、耐火性能向上により木造建築が可能になっています。
この事例は、1~2階をRC造とし3~6階までを木造とすることにより、建設時のCO2排出量の削減と木造建築のCO2貯蔵効果を活用し、さらに高い耐久性・断熱性・省エネ性を確保した「環境配慮型学生レジデンス」として開発したものです。
2つ目は分譲マンションシリーズの全物件を、2024年以降着工分からZEH相当にする取り組みです。ZEH仕様はZEH-M Oriented認証以上としていますが、同社は他にも投資用一棟レジデンスを2ブランド展開しており、投資用物件に対しても段階的に導入する予定です。
なお同社のZEH認証物件第1号は2023年1月に着工し、2024年6月に総戸数73戸が竣工しています。
[対応するSDGsの目標]
3.すべての人に健康と福祉を
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
12.つくる責任、つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
賃貸マンション事業全体を見ると、ZEH化は分譲マンションよりも進んでおり、SDGsの取り組みとしては重要なものになっています。以下の記事も参考にしてください。
■関連記事「ZEHとは?賃貸マンション経営における重要な選択肢」
5.3. マンションリノベーション
マンションのリノベーションをメインとして成長した企業があります。社会資本とも言えるマンションを対象にして、新築に目を向けず中古マンションの再生事業に特化したビジネスモデルを作り上げ、業界トップの地位を保持しています。
商品化する中古マンションは居住中の「オーナーチェンジ」物件を中心として仕入、賃貸契約の終了によりリノベーションし再販するビジネスモデルです。
賃料収入の確保と再販による利益により、生産性の高い事業運営を行っています。資源の有効活用と資産の円滑な承継を可能にし、マンションのライフサイクルを延長させる役割を果たしています。
[対応するSDGsの目標]
7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
8.働きがいも経済成長も
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任 つかう責任
6. 不動産業界はSDGsが目標とするテーマと関連性が強い
SDGsは企業が経営戦略を立てる際の指針となるものです。
事業目的や事業により得られる結果が17の目標に対応するものなのかを検証してみると、合致する、やや近い、目標に反する、などいくつかの評価ができると思います。
目標に合致する事業であるほど社会からの高い評価が得られ、事業は成功し良い結果をもたらすでしょう。目標に反する事業であれば社会は受け容れてくれず、いずれは頓挫する結果となるでしょう。
SDGsへの理解度が企業よりも生活者のほうが高い現実は、社会が企業を評価する尺度として「SDGsへの取り組み」を重視する可能性もあります。
不動産業界にはSDGsが掲げる目標と親和性の高いテーマがいくつかあり、進めている事業や新たにスタートさせる事業に対し、SDGsの目標と関連させる試みは意義のあることです。
SDGsへの取り組みは企業に対する高い評価となり、企業価値の高まりが持続的成長を促すと期待してよいのではないでしょうか。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。