進む「不動産×メタバース事業」。
不動産DXの現状とは?
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不動産業界にデジタル化の流れを取り込むことを不動産DXといいます。昨今よく耳にする不動産DXは、不動産業界の動向を知るうえで重要な概念です。不動産DXにより業務効率化が進み、多様化する顧客ニーズへも対応できるようになるでしょう。
なかでも特に注目したいのがメタバースの活用です。メタバース市場は近い将来100兆円を超す規模になると予想されており、不動産業界からの注目も高まっています。メタバースが不動産分野とどのように関わっていくのか、具体的な事例を挙げて解説します。
目次
1. 不動産DXとは
不動産DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、不動産業務にデジタル化の仕組みを取り込むことです。実際のところ、不動産業界自体はアナログな業務が多く、他の業界と比べてもデジタル化はあまり進んでいないと言われています。
令和3年版の情報通信白書では、不動産業界の企業のうち約77%が、デジタル化を実施していないと回答しました。また、今後もデジタル化の予定がないと回答した企業も56%に上っています。
しかし、不動産業界を取り巻く現状も、コロナ禍を経て大きく変わってきました。例えば、動画などを活用して対面でのやり取りが困難なときでも物件の内覧ができるようにしたり、賃貸借契約などを電子対応したりするケースも見られています。
また、政府によるDX推進の動きも、不動産業界のデジタル化に大きな影響を与えました。例えば、2022年5月に宅地建物取引業法と借地借家法が改正され、不動産賃貸の電子契約が可能になりました。これによりオンラインで内覧から賃貸契約まですべて行えるようになり、より一層、デジタル化しやすい土壌が整えられています。このようにさまざまな不動産業務をデジタル化することで、業務効率化や消費者ニーズに応えるサービスの提供、経営基盤の強化が期待できます。
なお、不動産DXと混同されがちな言葉に「不動産テック」があります。不動産テックとは不動産×テクノロジーを略した言葉で、テクノロジーの力によって不動産に関わる業界課題を解決する仕組み、あるいは従来の習慣を変えることを意味します。次の記事では不動産テックについて詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
参考:総務省「令和3年版 情報通信白書|我が国におけるデジタル化の取組状況」
2. メタバースを用いた不動産DX
不動産業界に限らず、メタバースが注目されています。インターネットに接続できる環境にさえあればメタバースを利用できるため、ゲーム業界やIT業界などの多くの業界がメタバースを使ったビジネスの可能性を模索しています。
メタバースとは、3次元の仮想空間のことを指します。CGを用いて作成されたメタバース空間に、インターネットを使って異なるユーザーがアクセスし情報を共有できます。また、アバターを用いてメタバース内の世界を体験することも可能です。
例えば、メタバースを用いたゲームであればアバターを通じて他の人と会話をしたり、協力プレイを楽しんだりすることができます。
不動産DXの一環としても、メタバースを利用した事業への注目が高まっています。メタバースは「仮想」ではあるものの空間を指しているため、同じく空間を扱う不動産業界とは好相性です。
不動産業界がメタバースを利用する目的は、大きく「多様化するユーザーニーズに応えること」と「不動産売買による利益を拡大すること」の2つに分けられます。メタバース空間で商談や不動産の再現などを行うことで、利便性が高まる、不動産取引の幅が拡がるなどユーザーと不動産会社の双方にメリットがあります。
どのようにメタバースが不動産領域で活用されているのか、具体的に見ていきましょう。
3. 不動産×メタバース事業の事例
不動産の売買は、不動産会社の店頭等で対面にて行うことが一般的です。しかし、コロナ禍においては対面業務が難しく、メールやチャットサービス、電話などの手段で対応するケースも見られました。
上記のような非対面での販売では、不動産会社の担当者と直接会わないまま取引を進めることになり、不安を感じるユーザーもいると想定されます。
そこで、インターネットと対面の営業を融合したサービスとして、メタバースを用いた不動産取引が注目されるようになりました。メタバース上で不動産会社の店舗を出店し、不動産の売買を行うなどの取り組みが実施されています。メタバース上の不動産会社では担当者がアバターを通じて接客を行い、ユーザーのニーズを的確に把握して物件紹介からオンライン内覧、契約締結までを進めていくことが可能です。
ユーザー側は担当者のアバターと接することで、文面のみのやりとりではない対面に近い接客を体感でき、より安心感を持って契約を行えます。海外や遠方に住んでいる顧客にもスムーズに対応できるようになり、顧客の利便性がさらに高まります。
また、メタバース上の不動産を売買するケースも見られるようになりました。メタバース上の不動産も現実と同様、土地によって価格が異なり、土地の上に店舗などの建物を建てられることがあります。
ただし、すべてのメタバースにおいて不動産取引が行われているわけではありません。ゲームや会議などそれぞれの目的に応じたメタバースプラットフォームがあり、目的によって空間内でとれる行動も異なります。そのため、仮想空間内の不動産を売買できるのは一部のプラットフォームに限られています。
アクセスするユーザーが多い人気のプラットフォームでは、数百万ドル単位の高額取引も発生しています。リアルの世界で駅前などの人通りが多いところに広告を出すと高い宣伝効果が見られるのと同様、メタバース内でも好ロケーションに目立つ看板や建物を設置すれば高い宣伝効果を期待できます。そのため、取引額も高額になりやすい傾向があります。
カナダの企業がメタバース不動産に対するローン提供を始めた例もあり、ビジネスの幅も拡がりを見せています。メタバースの不動産はNFT(ブロックチェーン技術によりデータの所有権と唯一性が証明されたもの、非代替性トークン)として売買が可能な資産と考えられており、今後投資先として価値が高まる可能性もあるでしょう。
とはいえ、メタバースの分野はまだ新しく、法整備が十分ではありません。メタバース不動産の売買のルールについても流動的な側面があるため、慎重な対応が求められています。
4. メタバースの活用で可能性の広がる不動産業界
不動産業界でもDX化が進み、メタバースの活用なども見られるようになってきました。新たな技術を取り入れることで、業務効率化や多様化した顧客ニーズへの対応が可能になることが見込めます。
また、メタバース内の不動産の売買も始まっています。仮想空間の土地や建物を売買するという新たな市場の開拓で、不動産業界の可能性はさらに広がっていくでしょう。引き続き不動産DXとメタバースには注目が集まりそうです。
弁護士、宅地建物取引士、松浦綜合法律事務所代表
松浦 絢子 氏
Ayako Matsuura
京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士の資格も有している。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産・建築、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。