ZEHとは?賃貸マンション経営における重要な選択肢
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2025年から新築住宅を含めすべての建物を建てる際には、「省エネ基準」を満たした性能とすることが義務付けされました。一戸建て住宅はもちろんのことマンションやオフィスなども含むもので、分譲事業や賃貸事業を行う企業にとっても重要な変化です。
省エネ基準の義務化は将来的に「ZEH」を標準とする動きであり、今後は賃貸マンション経営において「ZEH化」を見込んだ経営戦略が必要となるでしょう。
この記事では、マンションのZEH化について、その意義と経営上の効果について解説します。
目次
1. ZEHとはなにか?注目される背景
ZEHは2030年には「住宅の標準」となる可能性が高く、ZEHの意味や必要とされる背景を正しく理解しておく必要があります。
1.1. ZEHとは
ZEHとは「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略語で、「ゼッチ」と読みます。エネルギー収支、つまり1年間で消費するエネルギー量を実質0以下にする家を意味しています。
エネルギー収支を0にするための具体的な方法として、建物の断熱性を高めることによりエネルギー消費量を減少させます。加えて外部からのエネルギー供給が不要になるよう、太陽光発電設備などの設置によりエネルギーを創り出す機能を持った住宅が「ZEH」です。
1.2. ZEHが注目される背景
日本は2030年以降に新築される住宅について、ZEH基準となっている省エネルギー性能を確保することを目指しています。さらに2030年には、6割の新築戸建住宅で太陽光発電設備が設置されることも目標としています。
このような目標を設定したのは、2015年に開催された「国連気候変動枠組条約締約国会議」において合意された「パリ協定」によるものでした。
パリ協定では、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計が0になること)を2050年までに目指すとしており、ZEHは住宅・建築物分野におけるカーボンニュートラルに向けた重要な政策として具体化したものです。
また、ZEH普及のために段階的な計画が立てられています。まず2025年からは断熱性能を高めた住宅を普及するため、省エネ基準の適合化が義務となります。
省エネ基準とは一次エネルギー消費量基準と外皮性能について定めたもので、2017年に大規模なオフィスビルなど2,000㎡以上の大規模建築物(非住宅)に適合が義務化され、順次適合対象建築物を拡大し、2025年にすべての建築物が義務化されることになりました。
そして、省エネ基準よりも一段高い基準になっているのがZEH基準です。外皮性能・一次エネルギー消費量がさらに厳しくなっており、加えて創エネ設備を設けることによりカーボンニュートラルの実現性を高めた基準となっています。
以上のようにZEHは日本ばかりでなく、国際的な枠組みの中で進められる地球温暖化対策の一部となっているのです。
2. ZEH住宅の種類と概要
ZEHには一戸建て住宅はもちろんですが、マンションなどの集合住宅も含まれており、集合住宅は「ZEH-M」と一戸建てと区別した表記になります。ZEHには以下のような種類があります。
戸建ZEHは大きく3種類あり「+」バージョンを含めて5種類です。集合ZEHはマンションなどの集合住宅に適用するものであり、4種類あります。
集合住宅は「専有部分」である住戸以外に廊下や階段などの共用部分があり、住棟・住戸それぞれに対しZEHの定義が定められています。
下表は集合ZEHの定義を種類別にまとめたものです。
外皮基準 | 省エネ率 (再エネ含む) |
省エネ率 (再エネ除く) |
目指すべき水準 | |
---|---|---|---|---|
ZEH-M | ZEH基準 | 100%以上 | 20%以上 | 3階建以下 |
Nearly ZEH-M | 75%~100% 未満 |
|||
ZEH-M Ready | 50%~75% 未満 |
4階以上 5階建以下 |
||
ZEH-M Oriented | 再エネ導入は 不要 |
6階建以上 |
出典:資源エネルギー庁「ZEHの定義(改定版)<戸建住宅>」
集合ZEHは階数が高くなると住戸数も増加するため、住戸数に応じた太陽光発電設備の設置が難しく、高さ制限や避雷設備設置の対応なども考慮する必要があります。
そのため、4階建て以上については省エネ率を低減した「ZEH-M Ready」もしくは「ZEH-M Oriented」を目指すとしています。
3. ZEH化がすすむ賃貸マンション
2024年4月からZEH普及の弾みとなる政策「建築物の省エネ性能表示制度」がスタートしています。
【制度の概要】
建築物の省エネルギー性能を表記した「ラベル」を表示することにより、購入や賃借する際に消費者が検討する物件の省エネ性能を把握し比較できるようにするものです。
ラベルの表示に関係する事業者として、次のような事業主体が想定されています。
- 住宅の販売や賃貸を行う事業者
- 不動産仲介事業者や賃貸管理事業者
- ラベル発行に関わる設計者や評価事業者
- 不動産ポータルサイト事業者
このうち、ラベル表示についての努力義務を課せられるのは「販売・賃貸事業者」です。
ラベル表示制度は消費者における「省エネ意識」を高めるとともに、販売・賃貸事業者にとっても高い省エネ性能を持った物件提供の動機づけとなり、2030年を目標とする「新築マンション平均でZEH実現」に弾みをつけると予想されます。
すでに国交省などは、2050年に「ストック平均でZEH実現」をロードマップで公表しており、この流れが本格化するとも言えるでしょう。
また、マンションのZEH化がさらに促進される要因として、消費者の意識についても注目する必要があります。
住まい探しの際には「省エネ」を意識する割合が7割、日常の生活において何らかの「省エネ」に対する意識を持つ方が9割に達するという調査データもあり、マンション入居者の断熱や気密といった住宅性能への関心が高まっています。
以上、解説したようにZEHマンションの導入は当然の流れとも言え、今後望まれる賃貸マンションのモデルを先取りすることが、事業者にとって最大の経営戦略になると言えるでしょう。
3.1. ZEHマンションの普及実態
ZEH化が進むと思われる賃貸マンションですが、2021年度においては戸建住宅における普及と比較し出遅れ感がありました。しかし2022年度には普及が拡大しています。
2021・2022年度の住宅業界におけるZEHの普及率は、以下のとおりです。
種類 | 2021年度普及率 | 2022年度普及率 |
---|---|---|
注文戸建住宅 | 26.7% | 33.5% |
建売戸建住宅 | 2.6% | 4.6% |
集合住宅(床面積ベース) | 2.1% | 15.6% |
集合住宅(戸数ベース) | 7.4% | 39.3% |
出典:
環境共創イニシアチブ「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会 2022」
環境共創イニシアチブ「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会 2023」
公表されたZEH-M(集合住宅)の普及率には分譲マンションと賃貸マンション、さらに低層アパートが含まれるため、賃貸マンションのみの普及率を確認することはできませんが、分譲マンションのZEH-Mは積極的な供給がされていないと言われます。
ZEH-Mの種類別では「ZEH-M Oriented」がもっとも多く、次いで「Nearly ZEH-M」「ZEH-M Ready」です。また、「ZEH-M」がもっとも少なく、棟数では11%、戸数では5%となっています。
「ZEH-M」は、再エネ設備の設置が難しいケースが多いため、ZEH-M Orientedが選択されるものと思われます。また階数別の分布では2階建てが突出して多く、次いで3階建てと低層集合住宅での普及が先行しているようです。
今後は省エネ基準の義務化や省エネ性能表示制度により、デベロッパーに対するZEH化の動機づけが行われるため、ZEH-Mの普及拡大が進むでしょう。
4. 賃貸マンションZEH化のメリット・デメリット
賃貸マンションをZEH化することにより、経営上の効果が期待できますが、注意すべきポイントも存在します。
4.1. ZEH化のメリット
ここでは、賃貸マンションをZEH化した場合のメリットについて解説します。
事業主にとってのメリットとしては次のようなものがあげられます。
- 入居率が高まる
- 収益性を改善させる
- マンションの資産価値が高まる
ZEH化により「非ZEHマンション」との差別化が図られ、入居率が高まる可能性があります。さらに省エネルギー性能の向上は入居者にとっても、光熱費の低減など入居者ニーズにマッチします。
高い入居率は収益性を高めるとともに、高性能マンションとしての評価が得られると、高い水準の賃料設定も可能になるでしょう。
またZEHマンションは省エネ基準を超えた高性能マンションと言え、資産価値が高くなると言えるでしょう。金融機関による評価も高く、売却時には高値での取引も可能になります。
このように大きなメリットがあるZEHマンションですが、ZEH化するにはコスト負担が大きくなります。そこでZEH化に際し計画に織り込みたいのが補助金制度です。
現在ZEHマンションに対して次のような補助金が制度化されており、メリットを活かすためにも是非活用を図りたいものです。
低層ZEH-M | 中層ZEH-M | 高層ZEH-M | |
---|---|---|---|
補助額 | 40万円/戸 | 50万円/戸 | 50万円/戸 |
上限額 | 3億円/年、 6億円/事業 |
3億円/年、 8億円/事業 |
3億円/年、 8億円/事業 |
採択方法 | 先着方式 | 先着方式 | 採択審査 |
出典:ZEH補助金
4.2. ZEH化のデメリット
マンションのZEH化には留意しておきたいポイントがあります。
- コスト上昇
- 施工業者の選択肢が少ない
1つ目のポイントは建築コストが高くなることです。省エネ性能を高めた外皮基準を満たし、再エネ設備の設置まで行うと、これまでのマンション建築コストを大きく上回ることになります。
再エネ設備を設置した場合は、メンテナンスが必要です。正常な稼働を維持するには保守点検や維持管理が欠かせません。また、パワコンなどの稼働部分の交換やパネルの交換も必要になる時期がきます。
2つ目のポイントは施工業者選択における自由度が少ない点です。ZEHマンションを建てるときに補助金を使用するには、自らSIIに登録したデベロッパーである、もしくはSIIに登録したデベロッパーに工事の発注を行う必要があります。つまり、施工業者を自由に選ぶことができません。
5. 2030年までに行うZEH標準化への準備
地球温暖化対策の一環としてすすめられている「ZEH」の推進は、マンション業界においても大きなテーマとなっています。省エネ性能表示が義務化されることにより、省エネ性能による選別がなされる可能性もあり、賃貸マンション事業者にとってはより強い関心を持つ必要があります。
2025年には省エネ基準の義務化がスタートし、2030年にはZEHが標準となる予想もされています。ZEHに向けた動きを速めることは、非ZEHマンションとの差別化を図り、業界における一定の高い評価を集める機会ともなります。
ZEH化によるコスト負担は懸念材料ですが補助金制度の活用など支援策もあり、競争が激化するマンション事業において、ZEH化の推進は経営戦略上も有効な考え方と言えるでしょう。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。
【リバブルVIEW】 東急リバブル株式会社 アセット事業本部 ルジェンテ計画部 小島 萌海
近年大手マンションデベロッパーではZEHマンションを標準化する動きがみられ、今後もZEHマンション市場については年々加速し、持続可能な社会の実現に向けてSDGs取組も今まで以上に注目されることが予想できます。
一方、物価高騰による工事金への影響も大きく、年々工事金が高騰している状況です。
不動産開発事業者は、今後は環境配慮などの「現代の社会課題解決」と「次世代の社会的価値の創造」をボーダーレスに捉え、かつ「収益性の両立」が必要になると考えます。
東急不動産ホールディングスの一員である東急リバブルは、「WE ARE GREEN」を旗印に、脱炭素社会の進展や気候変動などの社会課題解決として、事業を通じた環境課題に取り組んでおります。
現在は分譲都市型レジデンス「ルジェンテ」と、一棟投資用不動産「ウェルスクエア」を首都圏中心に展開し、ルジェンテはコンパクトマンション業界では先陣を切り『2024年4月以降着工物件は全てZEH-M Orientedを標準仕様にする』と方針を掲げております。
ウェルスクエアでは、墨田区石原二丁目プロジェクトで初めてZEH-M Orientedを導入いたしました。
東急リバブルは、環境配慮の必要性が増大しているなか、引き続き環境負荷低減を目指し、ZEHマンションを取り組むことにより「現代の社会課題解決」に寄与し、さらに「次世代の社会的価値の創造」についてもシームレスに捉え、不動産事業者として次世代をリードできる、柔軟で豊かな暮らしを創造して参ります。