不動産を入札で売買する方法|手順やメリット・デメリットを解説
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不動産売買には売主と買主が価格交渉を行う一般的な売買方法と「入札」による方法があります。入札は国や自治体の不動産を売却する際にも行われ、企業間の不動産売買でも採用されることが多くなっています。
特に、企業が所有する事業用不動産では、売却までの期間が短縮でき、希望を上回る売却価格で取引が成立するケースもあるなど、非常に注目されるようになってきました。
この記事では不動産を入札により売買する方法について、その手順やメリット・デメリットを解説します。
目次
1. 不動産売買における入札方式とは
不動産を売買するには不動産会社に仲介を依頼し、買手の探索や条件に合う物件の探索を行います。その結果取引できそうな場合には、相手方との取引条件を調整した後に売買契約に至る方法が一般的です。
このような売買方法は「相対方式」で行われており、売買価格は売手と買手との交渉の結果決まります。
一方、売却までの時間短縮や価格決定プロセスの透明化を図るため、近年は一般的な売買方法である相対方式ではなく「入札方式」を選択されるケースが多くなっています。
「入札方式」は相対方式と異なる点があり、企業が所有する不動産の売買では、入札のほうが優れた面もあります。ここでは、入札の概要と一般的な不動産売買との違いについて解説します。
1.1. 不動産入札の概要
不動産売買における入札は、複数の買手を募集し、提示された購入希望価格から最高価格を提示した買手に売却する方法です。企業所有の不動産売買によく使われますが、公的機関が民間に不動産を売却する際にも使われています。
たとえば裁判所は「不動産の競売」を行い、国税庁や地方自治体が行う「公売」でも入札により購入者と売却価格を決定しています。
入札の方法には2種類あり、入札を1回のみ行う「ポスティング」と、複数の応札者が価格を競い合う「競り上がり」があり、入札主催者側の考え方や入札のしくみにより決定されます。
ポスティングは入札が1回きりのため、確実に落札したい場合はかなり高い価格帯で入札することが多くなります。
競り上がりは設定されている最低の売却価格からスタートし、複数の入札者がくり返し入札することにより購入希望価格を上げていきます。そして最終的に最高価格になった入札者が落札する方式です。
1.2. 入札と一般的な不動産売買の違い
では、入札による方法と相対方式による一般的な不動産売買とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
入札方式と相対方式とでは、購入者が決定されるプロセスと、価格が決定するプロセスに違いがあります。
入札方式の場合は、複数の入札参加者が入札し、その中で最高額を入札した参加者が購入者となります。価格も入札額に基づき、取引が進められていきます。
しかし最高額が売主の希望する価格に達しない場合は、購入者の決定に至らないこともあります。さらに売主から最低価格が提示されている場合、入札参加者にとって高い価格帯であれば入札に応じないケースもあります。
また入札方式は期間を決めて行うので、売却するまでの見通しをあらかじめ立てやすいことも相対方式とは異なる点です。
一方、相対方式の場合は、購入希望の申し出があった順に取引条件の交渉が行われ、売買価格が決定します。しかし、売買価格を含めた取引条件が整わない場合は破談となります。
その後は次の購入希望者との交渉が行われ、取引条件がまとまるまで購入希望者との交渉をつづけることになります。
このように入札は相対方式と異なる面があり、事業用物件など企業が所有する不動産は入札による売却を選択することも多いです。中でも規模の大きい物流施設、一棟ビル、一棟マンション、工場、商業施設、ホテルや開発向けの土地などは、取引相手が企業主体となるため入札に向いていると言えるでしょう。
違いを簡単にまとめると、次のようになります。
入札方式による売買 | 相対方式による売買 | |
---|---|---|
物件情報の発信や収集 | 入札幹事会社の広報など | 不動産会社や不動産ポータルサイトなど |
売買成立までの期間 | 入札期間を決めて行うため短期間での成約が可能 | 期間の指定はできず成約までの時間は読み切れない |
価格決定プロセス | 入札者同士の競争であり最高価格入札者が落札者となる | 購入申込の順番に価格交渉し、価格の高低は相手次第 |
購入者を決定するプロセス | 最高価格入札者のほか購入目的を考慮する場合もある | 購入申込の順番に交渉が行われる |
なお、近年は個人が入札により不動産を売買できるオークションサイトが登場するなど、入札の「高値売却」「早期売却」といった利点が注目され広まっています。
2. 不動産入札方式のメリット
入札による売買は、相対方式と異なるメリットがあります。以下では、売主・買主、双方に見られるメリットを紹介します。
【売手側のメリット】
- 高値で売却できる可能性が高い
- 申し込み後の商談の結果、破談になることが少ない
- 企業所有不動産の売却では株主からの合意が得られやすい
- 売却に要する期間を短縮できる
「最低売却価格」を提示した入札では、最低価格を下回る入札はありません。しかも競争意識が働くため、高い価格での売却になる可能性が高いと言えます。
さらに入札参加者は企業がほとんどのため、取引条件に合意して落札しておりキャンセルされる可能性も低くなります。
また入札は売買価格の決定に透明性・客観性があるため、取締役会の決議が必要な不動産の売却に対し、株主の同意が得られやすいといった面も大きな特徴と言えるでしょう。
さらに入札の場合は、入札期間を売主が定めることができるので、あらかじめ予定を立てることのできない相対方式と異なり、計画的な売却が可能になります。
【買手側のメリット】
- 入札額を高くすれば、購入を強く希望する物件を購入できる可能性が高くなる
- 入札から契約・引渡しまでのスケジューリングが比較的明確
入札は相対方式のように売主との商談が「申込先着順」とはなりません。入札価格が最高になった入札者が商談をすすめることができる方式です。つまり高い金額を入札することにより、購入の可能性を最大限に高めることができます。
どうしても購入したい物件の場合、最高値と思われる金額を入札することが重要です。
また、入札はあらかじめ期間が決められているため、入札以降の契約や引渡しのスケジュールを立てやすく、事業計画の策定などにおいて不安定要素が少なくなります。
3. 不動産を入札で売買する手順と注意点
入札による売買はメリットが多い一方、デメリットもあるため特徴をよく理解しておく必要があるでしょう。
ここでは入札の手順と注意したいポイントについて解説します。
3.1. 入札で不動産を売却
不動産売却を入札により行うには、次のような手順になります。
① 幹事会社の選定
幹事会社は売却物件に対する市場調査や不動産価格の査定を行い、入札方法や買手候補の選定など入札の準備を行う役割があり、入札に詳しい不動産会社から選定します。
② 売出価格を決定する
市場調査と不動産査定に基づき売出価格を決定し、取引条件を整理しまとめます。
③ 入札スケジュールと入札方法を決定
入札スケジュールを決定し、入札をポスティング方式とするか競り上がり方式とするかを決定、さらにオープン入札とするかクローズド入札とするかを決定します。
④ 入札の実施
入札を行い入札結果の検証により落札者を決定、落札者がいなかった場合の対応についても検討します。
⑤ 売買契約
落札者と取引条件の調整を行い売買契約の締結をします。
以上の手順の中で、とくに慎重に検討したいのが「売出価格」です。入札は売出価格以上の応札があることが前提のため、入札参加者が売出価格を妥当な金額と判断できる場合は応札しますが、高すぎる売出価格では応札しない可能性があります。
入札で売却できない場合には、売出価格の見直しを行い再入札を行うか、入札参加者の中から購入可能性の高い相手との直接交渉を行うといった方法を検討する必要がでてくるでしょう。
あるいは入札を取りやめ一般的な相対方式による売却を検討する可能性もあり、この時にも幹事会社の役割は重要なものとなります。
3.2. 入札で不動産を購入
不動産を入札により購入する一般的な手順は次のようになります。
① 不動産売却情報を入手
入札による不動産情報は幹事会社が発信するリリースや、幹事会社と取引のある不動産会社などから収集します。
② 入札参加条件を確認
入札情報が入手できたら入札参加条件を確認します。とくにクローズド入札の場合は条件に合わないと参加できないので注意が必要です。
③ スケジュール確認と入札価格の検討
売出価格を確認した上で入札価格を検討し、入札スケジュールに合わせて購入資金の準備を行います。
④ 応札する
入札期間内に応札し結果を待ちます。
⑤ 売買契約
落札できた場合には、取引条件を調整し売買契約を締結します。
入札により不動産を購入する際に、もっとも重要なのは入札価格の決定です。入札は相対方式と異なり、売手側との交渉機会はまったくありません。とくにポスティング方式の場合は、他の参加者の入札価格を確認することもできないため、一発勝負の取引となります。
購入できる可能性を大きくするには高めの入札価格となり、事業計画において設定した上限価格ギリギリでの購入となる場合もあります。
3.3. 入札方式のデメリット
最後に、入札に関する売主・買主のデメリットを紹介します。
【売手側のデメリット】
入札は、売れ残ってしまう可能性のあることが売手にとって大きなデメリットです。最低価格を提示した上での入札になるので、入札参加者にとって高すぎる最低価格では入札者が現れない可能性があります。
そのため最低価格の設定は重要であり、相場観を正確に捉える必要があります。
【買手側のデメリット】
入札は競争相手がいる中で行われます。最高価格を入札するには相場以上の価格になる可能性が高く、結果的に高値での購入になってしまうことがあります。
また競売などでは建物内部の確認ができず、万が一大きな不具合があったとしても契約不適合責任を問うことができません。
4. 入札における幹事会社の役割
入札による不動産売買、とくに入札による売却は幹事会社の力量により成否が分かれます。
幹事会社は売手に代わり、入札の手続きすべての窓口となります。
- 物件情報の開示
- 入札参加者への情報発信
- 物件や取引条件に関する質疑応答
- 入札スケジュールの告知
- 入札書の受領
- 落札者決定の通知と売買契約準備
などが入札参加者との間で必要とされる業務であり、その前には次のような入札の準備業務があります。
- 市場調査と売却物件の評価・査定
- 売出価格の算定
- 取引条件の整理と取りまとめ
このような一連の業務を漏れなく履行し入札を成功裏にすすめるには、不動産入札に関する豊富な経験と、不動産価格を適正に評価し、売手・買手が納得した取引に導くことができる識見が必要になります。
一般的な不動産売買では、不動産仲介会社は「エージェント」的な役割となりますが、入札における幹事会社は「コーディネーター」的な役割を求められます。
5. 事業用不動産の売買は入札と相対を使い分ける
入札はさまざまな業界で採り入れられている売買方法です。美術品や高級中古車などはよく知られる入札の例ですが、不動産の入札も多く行われています。
不動産売買の仲介会社では売却する不動産の種類により入札を提案するケースもあり、売買成立までの時間が短縮され、高値での売却が多く見られるようです。
入札の手続きはすべて幹事会社が担うため、幹事会社の力量によっては入札がうまくいかない場合もあり、幹事会社の選択が重要になってきます。
ただし、不動産の種類や規模などにより、入札よりも一般的な不動産売買のほうが望ましい場合もあり、ケースバイケースでの判断が大切です。
売却や購入を依頼する不動産会社とよく相談し、希望条件に応じて入札か相対方式による不動産売買を使い分けることが重要でしょう。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。